藤井聡太王将に羽生善治九段が挑む第72期ALSOK杯王将戦七番勝負(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟主催)は、第4局が2月9・10日(木・金)に東京都立川市の「SORANO HOTEL」で行われました。対局の結果、107手で勝利した羽生九段がシリーズ成績を2勝2敗のタイに戻しました。

絶対に譲れない先手番、羽生九段が角換わりから最新の研究を披露

本シリーズは両者ここまで先手番をキープして第4局を迎えています。羽生九段としては先手番の本局を落としてしまうと、タイトルに王手をかけられた状態で藤井王将に先手番を渡すことになってしまいます。藤井王将が先手番で驚異の24連勝中であることを考えると、羽生九段がタイトルを奪取するうえでは絶対に負けられない第4局と言えるでしょう。

本局は角換わり腰掛け銀の出だしから羽生九段が工夫を見せます。藤井王将の千日手含みの手待ちに対して、羽生九段は自玉から囲いの金を遠ざける選択をします。囲いを自ら崩すこの手には違和感を覚えますが、前例が1局だけあり、副立会人の佐々木大地七段は「研究されてる範囲がマニアックですよね」と評しています。 その後、藤井王将が6筋の歩をぶつけてきたのを無視して、駒音高く右桂を跳ねていったのが羽生九段の研究手でした。この手を見た立会人の森内俊之九段も「見たことない将棋です」とコメントしている通り、ここからは前例を離れた2人の将棋となっています。

羽生九段の猛攻vs藤井王将の受け

初日の昼にも関わらず局面は激しさを増していきます。羽生九段は藤井王将の桂馬を銀で食いちぎり、持ち駒の歩桂角を活用して攻めの手を継続する方針を採りました。 対して藤井王将は何度か長考を挟みつつ対応していきます。羽生九段が角を打って攻めの継続を図ったところで、自陣一段目に銀を打ったのが藤井王将の決断でした。これは羽生九段の攻めを切らして勝ちに行くという意思表示で、受けに自信のある藤井王将だからこそ選択できる一手と言えます。

15時35分、羽生九段が王手で桂馬を成り捨てた手を見て藤井王将が長考に沈みました。この成り捨てに対して、藤井王将は①先に打った銀で取るか、②玉で取るかの二択を迫られています。そのまま144分の長考を経て、藤井王将は次の手を封じることを選択。 控室の検討陣の見解は①銀で取る一手でしたが、藤井王将は②玉で取る手を選びました。

意表の封じ手、藤井王将の受けの勝負手

2日目が始まり、控室では誰一人予想していなかった封じ手を披露した藤井王将は、そこから受けの勝負手を連発します。羽生九段の飛車を走る手に対して、普通は歩を打って受けるところで角を打って受けたのが見慣れない受け方。駒得の藤井王将としては、角を手放してでも局面を落ち着かせることができれば良いという判断です。さらに藤井王将は自陣に打った銀を羽生九段にタダで差し出す鬼手をひねり出しました。自陣の駒を無理やりにでも動かすことで下段飛車の利きを通したい意図があります。しかし藤井王将はこの辺りでうなだれる仕草を見せるなど、劣勢を意識している様子です。控室の検討陣も藤井王将が劣勢という見解を示しました。

羽生九段が勝ち切ってスコアタイに

藤井王将が受けの勝負手を連発しますが羽生九段の攻めは急所をとらえ続けます。藤井玉の玉頭めがけて駒の利きを足していき、段々と藤井玉が受けの利かない状態へと追い込んでいきました。藤井王将も受けが利かないと見たか、開き直って羽生玉へ迫ろうとしますが羽生玉は囲いがそのまま残っており捕まりません。 16時3分、自玉の詰み筋を確認した藤井王将が投了し羽生九段の勝利となりました。これで七番勝負は互いに先手番をキープする形で2勝2敗のタイスコアとなっています。注目の第5局は2月25・26日(土・日)に島根県大田市「さんべ荘」で行われます。

  • 先手番をキープしてスコアタイに持ち込んだ羽生九段(提供:日本将棋連盟)

    先手番をキープしてスコアタイに持ち込んだ羽生九段(提供:日本将棋連盟)

槇林 一輝(将棋情報局)