次に、多層hBNの特性評価のため、グラフェンとの積層についての検討がなされた。多層hBNもグラフェンも金属上で合成されるため、二次元材料の品質に大きな影響を与える重要なプロセスである「転写」作業が必要となる。今回は、hBNとグラフェンの一連の転写と積層が検討された。すると、多層hBNの転写においては、標準的な金属箔のエッチング法よりも金属残渣を残さない電気化学法が、グラフェンにとって非常に好ましいことが解明された。このような手法により、また、グラフェンをhBNで挟み込んだ構造も大面積で得られたという。
最後に、CVD法で大面積に合成された多層hBNが、グラフェンの特性向上に寄与するかどうか、デバイスを作製した上で評価が行われた。グラフェン/hBN積層デバイスの断面の電子顕微鏡画像とその元素分析から、11層の多層hBNの最表面に1層のグラフェンが存在することが判明。各タイプのデバイスについて、60個以上のデバイスを測定して系統的な比較を実施した結果、電気化学法がエッチング法よりも高い移動度を示すこと、ならびにグラフェンの上下をhBNでサンドイッチすると移動度の向上効果が最も顕著に現れることが見出されたとする。
今回の研究については、非常に多くのデバイスが作製された上での評価であり、cmスケールの基板全体にわたってhBNの効果が見られることを示したところが特筆すべき点とした。
研究チームは今後、hBNの均一性をさらに向上させるとともに、大面積化も進めていくという。それに加え、転写の際に生じる皺(リンクル)や気泡(バブル)などを抑制していくことで、グラフェンデバイスの一層の特性向上を目指すとした。それにより、グラフェンを用いた光・磁気・生体センサの特性向上につなげ、産学官連携を通じてグラフェンの実用化に大きく貢献していくとする。また同時に、半導体として期待されるTMDCについても、今回のhBNを用いて物性を向上させ、次世代半導体の開発と産業応用へと貢献していくとしている。
また学術面では、種類の豊富な二次元材料の高度な積層技術を通じて、二次元物質の積層や空間によってもたらされる学理を構築し、日本発の「2.5次元物質」という新概念に基づく研究を展開していくとした。