まず、鏡を見たことのない個体に自己画像の提示を実施。すると、画像に対して激しい攻撃を加えたという。これは未知個体の画像を見た時と同じ反応なので、自己画像を未知の他人だと見なしていると考えられるとした。

次に、鏡像自己認知ができることが確認されている個体に対し、画像を提示した結果、自己画像に対しては攻撃せず、未知個体の画像に対してのみ攻撃を行うことが確認された。このことから、画像の個体が自己か他者かを認識できていることが明らかにされた。

さらに、自己顔・他者体の合成画像に対しては攻撃はせず、他者顔・自己体の合成画像に対しては、画像の大部分が自分の体であるにもかかわらず、未知個体の画像と同じくらい攻撃を加えることが確かめられた。

  • 「鏡を見る前」と「鏡像自己認知ができた後」での写真への攻撃頻度。鏡を見る前は、自己・他者どちらの写真にも激しく攻撃する。鏡像自己認知ができた後は、自己写真、自己顔他者体写真はほぼ攻撃しないが、他者写真と他者顔・自己顔写真に対しては激しく攻撃することが確認された

    「鏡を見る前」と「鏡像自己認知ができた後」での写真への攻撃頻度。鏡を見る前は、自己・他者どちらの写真にも激しく攻撃する。鏡像自己認知ができた後は、自己写真、自己顔他者体写真はほぼ攻撃しないが、他者写真と他者顔・自己顔写真に対しては激しく攻撃することが確認された(出所:大阪公大プレスリリースPDF)

これらの結果から、ホンソメは体ではなく顔に基づいて画像が誰かを判断していることが明らかになったのである。

しかし研究チームによるとこの結果は、ホンソメが自己画像を非常に親しい仲間と見なしていることによる可能性も否定できないといい、この場合でも上述の実験結果と同様になることが考えられるとする。そこで、自己画像を使った「写真マークテスト」を行うことにしたとする。

写真マークテストは、寄生虫のようなマークを自己画像の喉につけて提示するというものだ。もしその画像を見て喉を擦る行動をすれば、自己画像を自分だと確実に認識していることを示す。反対に、他個体と認識しているのであれば、いくら親しくても自分の喉を擦ることはないはずだ。

同実験の結果、8個体中6個体が、自己画像の喉のマークを見て自分の喉を擦ることが確認された。さらに、マークのない自分の画像やマークのある親しい個体の画像を提示しても、自分の喉を擦ることはなかったという。

研究チームはこれらの結果から、ホンソメはヒトと同様に自分の顔のイメージを持っており、それと照らして鏡像自己認知や画像自己認知をしていることが、動物において初めて明らかになったとした。

今回の研究成果から、魚にも「内面的自己意識」があることが初めて実証された。今回の発見は、社会性が高いほぼすべての脊椎動物に、この高次の自己意識があることを示唆するという。また今回の成果は、人間中心主義の価値観の見直しを迫るとともに、脊椎動物には内面的自己意識があるという前提での認知研究を展開する大きな根拠になりうるとした。