第81期順位戦C級1組(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、10回戦計16局の一斉対局が2月7日(火)に各地の対局場で行われました。このうち、東京・将棋会館で行われた千葉幸生七段―伊藤匠五段の対局は124手で伊藤五段が勝利。伊藤五段は9勝0敗に星を伸ばして全勝昇級までマジック1としました。他に10回戦終了時点で昇級の可能性を残しているのは、1敗の石井健太郎六段、青嶋未来六段、渡辺和史五段と、2敗の都成竜馬七段の4人です(昇級は3人)。
角換わり腰掛け銀の定跡形
先手となった千葉七段は角換わり腰掛け銀の定跡形に誘導します。後手の伊藤五段が待機策を採ったのを見てさっそく単騎の桂跳ねで仕掛けたのは2年ほど前に盛んに研究された定跡手順で、千葉七段としてはのちに7筋の桂頭攻めから手を作っていく狙いです。激しい駒交換が一段落したところで千葉七段が6筋に飛車を回ったのも継続の攻めで、おたがいに前例を意識した中盤戦が淡々と進められていきます。
対局開始から1時間半が経過したころ、角取りをかけられた後手の伊藤五段はこの角を左に逃げて先手からの攻めを待ちました。手数にして70手目の局面で披露されたこの手によって本局はすべての前例を離れ、ここから二人の将棋が始まります。昼食休憩が明けて午後の戦いに入ると、本局はそれまでの早指しが噓だったかのように長考合戦に転じました。
千葉七段優勢、そして訪れる分岐点
手番を握って攻め続ける千葉七段は、先に回った飛車を起点に棒銀の要領で銀を繰り出して盤面中央を制圧します。受けに回る伊藤五段が玉を3筋に逃げ込んで戦火を逃れようとするのを予見して、先に2筋に突き捨ての歩を入れたのも味よい攻め。このあとも先手の千葉七段が歩の手筋の連発など好調な攻めを披露して、形勢は千葉七段優勢のまま終盤戦に突入しました。
辛抱を続ける後手の伊藤五段は、取られそうになっている自陣の角を中段に飛び出して飛車取りをかけます。この手に対する千葉七段の応手が本局における一つの分岐点となりました。当たりになっている先手の飛車は上方に逃げても右方に逃げても千葉七段の有利は揺らぎませんが、結果的にはいったん右方に逃げて遠くから後手玉をにらんでおく展開が優りました。
伊藤五段が辛抱実らせ逆転勝利
実戦で千葉七段は飛車を上方に逃げて中央からの攻めを継続しようとしましたが、伊藤五段もこの飛車が後手の守り駒に近いことを利用していなしにかかります。盤上に打った銀と自陣の馬との協力でじわじわと先手の飛車をいじめたのがいわゆる「攻め駒を責める」好着想でした。徐々に千葉七段の攻めを切れ筋に追い込んで、21時過ぎにして初めて伊藤五段が局勢を手中に収めました。
逆転に成功した伊藤五段は、6筋で渋滞する先手の攻め駒を尻目に軽やかな反撃に転じます。桂を重ね打って金取りをかけたのは寄せの基本手筋ながら、この金が逃げた場合は先手玉の玉頭にクサビが残って攻めやすくなることを見越しています。最後は質駒の飛車を手に入れて手早く先手玉を寄せきって勝利を決定づけました。終局時刻は22時23分、勝った伊藤五段は9勝0敗として全勝をキープ。敗れた千葉七段は2勝7敗となりました。
他局の結果、C級1組の昇級者は1人も決まることなく最終局まで縺れることとなりました。9勝0敗の伊藤五段(30位)、8勝1敗の石井六段(3位)、青嶋六段(17位)、渡辺五段(28位)、7勝2敗の都成七段(11位)の5人が3つの昇級枠を争って最終局に臨みます。最終局となる11回戦の一斉対局は3月7日(火)に各対局場にて行われます。
水留啓(将棋情報局)