アシックスジャパンが、先ごろ発表したランニングシューズ「S4(エスフォー)」(2万2,000円)。フルマラソンを4時間未満で完走する、「サブ4」を目指すランナー向けという本シューズの特徴を発表会から探ってきた。
30キロ地点でも足が残る構造
他のシューズメーカー同様、トップアスリートアスリートから市民ランナーまでさまざまなモデルをアシックスは展開する。ところが、サブ4に特化したモデルはなかった。そこが出発点だったと、代表取締役社長 CEO兼COO 廣田康人氏は説明する。
自身も50歳でランニングを始め、54歳の時に出場した「東京マラソン」で初めて4時間を切ることができたと話す廣田氏。皇居を走っていたある日、「サブ4を目指すランナーは多い。それなのに専用のシューズが無いのは変だろう」と不意に思って開発メンバーに依頼したのがきっかけだったそうだ。
「トップアスリート向けのシューズ『METASPEED(メタスピード)』等で培った技術をふんだんに盛り込み、その上でサブ4向けに安定性を高め、クッション性も取り込んでいます。サブ4を目指すランナーの壁となる30キロ地点でも『足が残っている』構造が特徴です」
アッパーには軽量性と通気性に優れた「モーションアップラッパー」を採用しており、同社の最速級マラソンシューズ「メタスピード」と同じ。さらに2層構造のミッドソールも、軽量クッションフォーム材「FF BLAST TURBO(エフエフブラストターボ)」を同様に搭載している。
メタスピードの値段は2万7,500円で、S4は2万2,000円。デザインは前者と異なるが、「素材の持つ機能性はほぼ同じ」だというのに、5千円程度安くなっている。
この違いについて、パフォーマンスランニング フットウェア統括部 開発部の谷垣雄飛氏は「素材の組み合わせで調整し、また多くのランナーに履いてもらうため判断しました」と説明する。
初めて履いてもすんなり「なじむ」
会場では試着もできたので試してみた。
以前「メタスピード」も履いたことがあるが、その時は違和感しかなかった。トップランナー向けの厚底シューズのため、週1回にジムで少し走る程度の筆者では体がまったく安定しないのだ。
だがS4は違う。履いても「すんなりなじむ」感覚がある。
モデル名のS4は「Speed(スピード)」「Stability(安定性)」「Safety(安全性)」「Sub4(サブ4)」の4要素を備えている、という説明に偽りはないと感じた。
谷垣氏によると、日本には多くのランニング愛好家がいるが、特に自分の記録向上を目指す、レーシング志向が他の国と比較して強い。昨年開催された「東京マラソン2022」では全体の完走者1万8,000人のうち約30%がサブ4を達成しているそうだ。ランナーにとっては「勲章」となる、サブ4を目指す人への最適解を届けたい、と話す。
筆者が実感した「なじみ度合い」だが、地面との接地面を「メタスピードより広げ」安定性を確保したのが大きく影響してそうだ。また、かかと部のラバーを前部よりも厚くすることで接地時の耐摩耗性も高めてある。
なお耐久性については同社の他モデルと同じで、具体的には500キロまでは問題ないと言い、「購入→サブ4達成のための練習→本番のレース」まで一足で対応できると谷垣氏は断言する。
その他、ミッドソール(甲被と靴底の間の中間クッション材)内の前部から後部にかけて搭載したV字形状のカーボンプレートはつま先に向かって下がるよう傾斜を付けて配置。着地から蹴り出し時の足の動きを安定させ、効果的に身体を前方向へ推進させるようにしているのも本モデルの特徴といえる。
サブ4は壁ではない
実は今回、シューズの発売と合わせて「サブ4達成のためのトレーニングコンテンツ」も展開、さらに達成の場となるフルマラソンレース「Challenge 4(チャレンジ 4)」も開催される。
シューズボックスス内のQRコードを読み込むとトレーニングメニューにアクセスでき、加えてリアル・オンラインでメニューを体感できるコーチングイベントも実施。そして、その成果を出すためのレースが5月14日に大阪、27日に東京で開かれるのだ。
サブ4を達成するためのツール、トレーニング機会、その成果を出す場所と一連の提供で「ランナーの夢の実現」をサポートする今回の取り組みは非常に面白いと筆者は思う。情報をスマホなどでお手軽に得られる昨今、体験することに大きな価値があるといえるだろう。
「サブ4は壁ではありません。最適なシューズ、トレーニングメソッドがあれば打破できます。実際、開発に協力してくれたランナーさんも10年以上叶わなかったサブ4をこの靴でついに超えることができました」と、サブ4達成を掲げるランナーへ向けた谷垣氏のメッセージが印象的だった。