次に、高濃度トレハロースが表皮細胞の増殖を促進したメカニズムを解明するため、2次元および3次元で短期間培養した線維芽細胞を用いて、RNAシークエンスとリアルタイムPCRによる遺伝子発現解析が行われた。その結果、線維芽細胞で「DPT」などの増殖因子群と、サイクリン依存性キナーゼ阻害因子で細胞周期の調節因子である「CDKN1A/p21」のmRNAレベルでの有意な増加が見られたという。
さらに、トレハロース処理された線維芽細胞において、セネッセンスで見られる「LMNB1」のmRNAとタンパクレベルの低下と、βガラクトシダーゼ陽性細胞の増加があり、セネッセンスと極めてよく類似した状態であることがわかったとする。また、siRNAによるCDKN1Aの発現の抑制がなされたところ、表皮細胞の増殖促進作用が消失したことから、トレハロースがCDKN1A/p21依存性に創傷治癒を促進する増殖因子を発現亢進していることが解明された。
これらの結果から、線維芽細胞は高濃度トレハロース処理により一時的なSLSが誘導され、その結果として3次元培養で迅速に皮膚シートを拡大させることが明らかにされたのである。さらに、ヌードマウスを用いた動物実験において、この高濃度トレハロース含有真皮シートは、対照群と比較して有意に高い創傷治癒促進作用を有することが確かめられた。
今回の方法では真皮シートを自家細胞のみで作製可能なため、安全性における懸念が少ないという長所も有する。研究チームは加えて、マウスを用いた動物実験により新規真皮シートの創傷治癒促進作用が確認されたことから、この革新的な3次元培養真皮シートの早期の実用化が期待されるとした。