AI技術を用いた「リアルタイム認識AF」の搭載で被写体認識AF性能が大幅に高まったソニー「α7R V」ですが、カメラをジックリ試用した落合カメラマンは「リアルタイム認識AFは、あくまでもリアルタイムトラッキングのフォローに回るサブ的な位置づけ」という大胆な見解を示しました。そして、α7R Vの撮影性能に高い評価を与えた落合カメラマンが手にしたカメラは…!?

  • ソニーが2022年11月に発売したフルサイズミラーレス「α7R V」。実売価格は55万円前後で、在庫は潤沢だ。装着しているレンズは、タムロンの高倍率ズームレンズ「28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD」。こちらの実売価格は85,000円前後

リアルタイムトラッキングに磨きをかけるリアルタイム認識AF

ソニー「α7R V」が搭載する被写体認識AFの劇的な強化には、何故かさほどの感動を覚えなかったヘソ曲がりなワタシではあるのだけど、前編で触れている通り、それは既存の「リアルタイムトラッキング」の素晴らしさを熟知しているがゆえの個人的感想である。「R」でいえば先代の「IV」に採用され、そして同世代である「α7C」にも搭載されているリアルタイムトラッキングによるAFの動作は、その高い有用性を日常から深く実感してきているところだ。仕事ではなく“私事”において現状、末弟α7Cの使用頻度が飛び抜けて高いのは、リアルタイムトラッキングを活用しての撮影が、ピント合わせに関わる負担軽減とそれに伴う撮影効率の高さにおいて、飛び抜けて良好な感触を有しているからにほかならない。動体への対応のみならず、静止物を撮る際も、実はフォーカスロック代わりに使えちゃうリアルタイムトラッキング。おかげで、どこで何を撮るのにも、ほとんどAF-CのままでOKなスタイルを確立することができている“私事”事情なのである。

そして、α7R Vのリアルタイム認識AFとリアルタイムトラッキングにコンビを組ませることで、被写体の認識効率とピントの追従性を著しく向上させられることにも気づいた。両機能が互いを補完することで、α7R VのAFは底力を発揮する、そんな印象だ。リアルタイムトラッキング推しのワタシにとっては、リアルタイム認識AFってのは、あくまでもリアルタイムトラッキングのフォローに回るサブ的な位置づけ。それが一番しっくりきた。

ちなみに、今回の試用は、背面のC1ボタンに被写体認識の「認識対象切換設定」を割り当てて使っている。アレコレ撮りたい浮気者ゆえ、認識対象をワンタッチで迅速に切り替えたいと思ったからだ。で、実際に使ってみると・・・。

最初の一押しから切り替えが実行されてしまうってのが今ひとつだ。1回押した段階では「現在設定されている認識対象」を呼び出す(表示する)のみの方がベターだろう。そうなっていれば、「現在の設定を確認する」ことと「それを認識した上で行う切り替え操作」が誤りなく確実にできるようになる。すでに希望する認識対象が設定されているにも関わらず、不用意に切り替えてしまうことの防止にも効果的だ。

フォーカスエリアの切り替えはAELボタンに割り当ててみた。そもそもC2に割り当てられているフォーカスエリアをわざわざAELボタンに割り当て直す理由は、操作効率の向上にある。C2ボタンのフォーカスエリア切り替えは、「C2ボタン押下」→「セレクター、もしくはダイヤル回しでエリア選択」の手順を踏むところ、AELボタン割り当てだとボタンを連打するだけで選択肢を順に呼び出す(設定する)ことができる。その操作性を重視したというワケ。

ただし、連打による切り替えだと、望む設定を通り過ぎてしまった場合に選択肢すべてを再び一巡しなければならない。これは、上記「認識対象切り替えのボタン割り当て」でも遭遇する事態であり、結局は「手間は変わらず」に陥ることの多い“哀しき工夫”ではあった。

万能性がさらに磨かれたα7R V

さて、α7R Vの「新次元AF」には、どうやら知性が備わっているらしいのだが、それが実感できたかどうかでいえば、確かに妙な自己主張を感じることはあった。「なんで、そこに、ピントを、合わせようと、したん、だいっっ!?」と、なかやまきんに君ばりにカメラに語りかけたくなることが時々あり、そんなときには、もしやこれがα7R Vが隠し持つ知性の発露なのかっ? なんて思うこともチラホラ・・・。

  • 認識対象「車/列車」設定で手前の自転車をガッツリと認識。とてもイイ感じだ。ただ、撮っていてちょと気になったのは、同じフレーミングで(手持ち撮影なので実際には微妙にフレーミングが動いている状況ではあるが)ピントを合わせ直すと、ときどき不意に認識枠表示が動くことがあって・・・(タムロン28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD使用、ISO5000、1/4000秒、F5.6)

  • なんと、何かのきっかけに、向こうに止めてある黒い自転車を認識することがあったのだ! これには、α7R Vの中に写真好きの小さなオジさんが入っている気配を感じたね(笑)。ここで見せた気配りと躊躇が知性の片鱗であるというなら、そうかもしれない。でも、哀しいかな、ピントは向こう側のガードレール(濃緑のパイプ製)、もしくは立て看板の裏側に合っていて、どちらの自転車もピンボケ。AI君が伝えたいことは分かったけれど、AF屋さんがそれを汲み取ってくれなかったって感じ?(タムロン28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD使用、ISO5000、1/4000秒、F5.6)

  • どうしてそこにピントを合わせようとしたの? と、優しく問い詰めたくなった例。実際には、ほぼ同一のフレーミングで撮影した十数枚のうち、9割以上のカットで手前の消防車のフロントマスクにピントを合わせてくれていたのだけど、ときどき2台目の車が気になるみたいで、こんな感じの認識動作を見せることがあったのだ。なお、ここでは被写体を認識した位置とピントの位置に齟齬が生じることはなかった(タムロン28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD使用、ISO320、1/200秒、F5.6)

電子シャッターによる20コマ/秒、30コマ/秒の連写速度を知るカラダには、メカシャッターが奏でる秒間約10コマのリズムには物足りなさを感じてしまいそうにも見える。しかし、動きモノを撮るのに十分なシャッターレスポンスとAF追従性を有していることから、実際に動体を追いかけ回しているときに不満を感じることはなく、撮りたいと思ったモノを確実に射止められる手応えには、得体の知れぬ頼もしさすら感じることさえあった。

それに加えての6100万画素の高解像度であり、対応範囲の広い被写体認識AFである。そしてさらに、禁断のトリミング耐性にまで目を向けるとするならば、α7R Vの動体適性はα1に次ぐレベルにあるといっても過言ではないだろう。まさしく「何でも撮れる」1台に仕立てられているのだ。

このマルチパーパスなキャラクターは随一のものであり、他社ミラーレス機に追い越されることは当面・・・いや、未来永劫ないようにも思う。「α7S」シリーズとはベクトルを異にしつつも、見事に同質の存在感を有しているということだ。αの「R」としては、実に正しい在りようを見せているのである。

  • 被写体を種別で認識する機能より、精度とスピードをより高めてきた瞳AFに、さらに大きな魅力を感じている。もちろん、瞳がない被写体を撮る場合はこの限りに非ずなのだけど、そんなときはリアルタイムトラッキングの賢さに助けられるなど、得られるフォローはとにかく手厚い(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO8000、1/4000秒、F6.3)

  • EVFは、歴代もっとも大きなサイズ(0.64型)と倍率(約0.9倍)を確保。最高約10コマ/秒の「Hi+」設定ではなく、最高約8コマ/秒の「Hi」設定であれば、連写中のファインダーorモニターがリアルタイム表示になるので、より正確に動体を追いかけることができるようになる(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO1000、1/4000秒、F6.3)

  • 撮影感触はおしなべて軽快だ。常識的な範囲の連続撮影でバッファ詰まりを起こすことはなく、動作全般に「重さ」を感じることも基本的にはない。ただし、ズームレンズを装着しての連写中に行うズーミング操作(連写しながら実行する画角変更操作)で連写速度が不規則に低下する様子が見られ、そこからは「やっぱり裏では重い仕事をしているんだなぁ・・・」と思わされることも。連写中、用もないのにわざと画角変化を与え、苦しそうに連写速度が落ちるのを確認しながらニヤけるプレイが楽しかったです(笑)(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO2000、1/4000秒、F6.3)

  • 画面内に小さく存在する被写体をカメラまかせのまま種別認識する能力に関しては、他社機に譲る部分があるように思う。しかし、リアルタイムトラッキングを併用すれば、その点の不満を解消することはさほど難しくはない。被写体認識にすべてを押しつけようとしないのが使いこなしのコツかも?(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO800、1/2000秒、F6.3、+1.3露出補正)

α7R Vの登場でα7R IVの価格がジワリ下がり始めた

AIのプロセッサーが大食いなのか、バッテリーの減りは結構、早いように感じた。一番、燃費が悪かったのは、初回の撮影「1292コマで残量28%」。連写中心の撮影におけるこのバッテリー消費には、正直かなりビビったのだけど、2回目は「2538コマで残量41%」、その後は「1298コマで残量45%」「997コマで残量76%」というデータが残っており、平均すれば、まぁこんなものなのかな・・・という気がしないでもない結果だ。バラツキが大きく明確な傾向が掴みづらいのは、カメラの使い方、撮り方による差が大きいからであると思われ、ということはユーザーによって印象が大きく異なる可能性が大。油断は禁物だろう。

さて、ここで自分の過去を振り返ってみると、何度か「α7R IV」を買おうとしたことがあったのを思い出す。カートに入れてポチる寸前で急遽、撤退!! を何度、繰り返したことか・・・。さすがに、安易に手を出せる価格ではなかったからだ。最後の最後でビビるのである。

一方、α7R Vの実売価格は、ついに50万円の声を聞くレベルになっていて、さらに壁が高くなってしまった。あらゆるモノの値が上がっているこのご時世、そうでなくともハイエンドデジカメが見せる価格の上昇には、カネではなくタメ息しか出せないままのここ数年。そんな中、α7R IVの実売価格がα7R Vの登場により緩やかに下降線を描き始めたことは、ワタシ個人にとっては注視すべき状況の変化だった。

そこで、ワタシはとある量販店の実店舗における販売価格の動向監視を開始。同店のネット販売の価格設定はピクリとも動いていないのに、実店舗での販売価格がジリジリ下がりつつあることに気づくことができたのはラッキーだった。そして、店舗での価格があるラインを割った某月某日、ワタシは完全武装(現金握りしめ)での店舗内突入を決意&敢行! 無事、α7R IVを救出する・・・いや、入手することに成功したのだった!! 

まさしく、α7R Vに背中を押される形でのα7R IVの入手だったといっていいだろう。α7R IVに期待するものは、8割方「禁断のトリミング耐性」に絞り込まれているといっても過言ではない個人的事情であるがゆえ、不満なきリアルタイムトラッキング動作が得られることを前提に、さほどの迷いもなく「前のモデル」に手を出したカタチだ。いやー、やっとここまで来られたよー。

でも、α7R IVを手に入れたことで、αのボディに関し「あがり」になってしまった気がするところには、チョイとした引っかかりを感じていたりもする。この、自ら幕を引いてしまった空気感は一体ナンなんだろう。なんか「ジ・エンド」な雰囲気が濃厚じゃね? 3年とか4年が経った後、もし「α7Rの6型」が登場したとして、ワタシはそのときカメラに対する購買意欲を維持できているのだろうか・・・。

α7R Vが、それだけ素晴らしくも悩ましい仕上がりであったということなんだと思う。しかし、カメラって、このままいくと昭和前期みたいな「家を買う覚悟で買うモノ」になってしまいそうだよねぇ。ここらで「あがっておく」のが、安寧な人生にとっては得策ってこと? いやー、さすがにそんなコトはないと思うけれど、全力で否定できないってのが、なんか妙に哀しいんだよねぇ…。

  • 【ホワイトバランス:AWB】

  • 【ホワイトバランス:太陽光】オートホワイトバランス(AWB)の制御に一捻り加えられるようになった点は、個人的に一番気になっている「薄暮時のAWBがシアンに傾いた色再現を招きがち」なところに関しては、まだ同様の傾向を見せるにとどまっているとの印象だった。まぁ、薄暮時の寒々とした風景であればこれでもよいのだけど、風景ではなく、その中に対象とする被写体が存在している場合は、太陽光固定の方が安心できる色再現になってくれるとの認識だ(タムロン28-200mm F/2.8-5.6 Di III RXD使用、ISO1600、1/8秒、F8.0、-0.7露出補正)

  • カメラがある(外部測光センサーがある)場所と被写体が存在する場所の光線状態(色温度)が必ずしも同一であるとはいえない中、AWBに完全無欠の動作を求めるのには、まだまだムリがあるのかもしれない。しかし、AWBの制御に格段の進歩があるのは確かなので、近い将来そのあたりも変わってくるはずだ(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO160、1/500秒、F6.3、-1.7露出補正)

  • 動体を追いかけるのにも力不足を感じさせない高品位なEVFに関しては、ズーミング時に表示がジラジラする感じがあったのが唯一、気になったぐらいの優秀な仕上がり。モニターとの自動切り替え動作がヘンなクセを見せることもなかった(FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS使用、ISO160、1/500秒、F6.3)

  • αの新世代(現世代)操作系の最大の特徴でもある「露出補正専用ダイヤルの消滅」は、α7R Vで始まった変化ではないにせよ、個人的にはやはり残念至極。露出補正操作が初期設定されているダイヤルがほぼ同じ位置に存在することから、旧来ボディと変わらぬ操作性は維持されているものの、手にしているボディをパッと見て露出補正設定の有無や設定値を認識することが難しいので、実際の使い心地には大きな違いがあるのだ(FE 24-105mm F4 G OSS使用、ISO1600、1/8秒、F8.0)

  • EVFだけではなく背面モニターにも露出補正値は表示される。それでいいだろうという話もわからんではない。でも、どのタイプの表示を選んでも露出補正値の表示は小さく、とりわけ日中屋外における瞬時の視認性は、専用ダイヤルの効能には到底およばない。この点の不満を消し去るには、任意のタイミングで背面モニター全面にデカデカと露出補正値のみを表示できるよう改修してもらうしかないような気がしている(FE 24-105mm F4 G OSS使用、ISO100、1/15秒、F22.0)

  • 圧倒的である解像度メインの興味や使用目的であるならば、同じく6100万画素のイメージセンサーを搭載しつつ以前よりもお買い得になってきているα7R IVを入手する選択もアリだと思う。厳密に言えば違いがあるのであろう仕上がり画質も、そうと分かって検証しない限り、差を見いだすには至らないというのが個人的な印象であり、だからこそワタシはα7R IVの入手を決断。いや、仮に多少画質が劣っているとしても、結局は4型を買っていただろう。以前から欲していたα7R IVが実質30万円を切る価格で手に入るのなら、コスパは非常に高いといえるからだ(FE 24-105mm F4 G OSS使用、ISO100、1/160秒、F8.0)

  • チルトとバリアングル、両方のモニターのオイシイところ取りを狙う「4軸マルチアングル液晶モニター」の仕上がりが素晴らしい。ゴツくはなく、さりとて華奢でもないスマートな構造にも関わらず、ガッチリとした剛性感が備わっているところにも好印象だ。ただ、自在に動かせる(理想的なカタチでモニターに対峙できる)だけに、日中屋外でのモニターの見づらさがより強調されてしまうという思わぬマイナス面も。いや、それよりも、この素晴らしき使い勝手を知ったあとに旧来のチルトモニター搭載機を手にしたときの、その融通が効かない作りに対するガッカリ感のハンパなさがツラい(笑)(FE 24-105mm F4 G OSS使用、ISO320、1/30秒、F4.0)

  • α7R Vをジックリ試してAF性能の向上を確認した落合カメラマンが手にしたカメラは、なんとα7R IVだった。両者の間には20万円近い価格差があることを考えると、そのチョイスも悪くないだろう