AI技術を用いた「リアルタイム認識AF」の搭載で被写体認識AF性能が大幅に高まったソニー「α7R V」ですが、カメラをジックリ試用した落合カメラマンは「リアルタイム認識AFは、あくまでもリアルタイムトラッキングのフォローに回るサブ的な位置づけ」という大胆な見解を示しました。そして、α7R Vの撮影性能に高い評価を与えた落合カメラマンが手にしたカメラは…!?
リアルタイムトラッキングに磨きをかけるリアルタイム認識AF
ソニー「α7R V」が搭載する被写体認識AFの劇的な強化には、何故かさほどの感動を覚えなかったヘソ曲がりなワタシではあるのだけど、前編で触れている通り、それは既存の「リアルタイムトラッキング」の素晴らしさを熟知しているがゆえの個人的感想である。「R」でいえば先代の「IV」に採用され、そして同世代である「α7C」にも搭載されているリアルタイムトラッキングによるAFの動作は、その高い有用性を日常から深く実感してきているところだ。仕事ではなく“私事”において現状、末弟α7Cの使用頻度が飛び抜けて高いのは、リアルタイムトラッキングを活用しての撮影が、ピント合わせに関わる負担軽減とそれに伴う撮影効率の高さにおいて、飛び抜けて良好な感触を有しているからにほかならない。動体への対応のみならず、静止物を撮る際も、実はフォーカスロック代わりに使えちゃうリアルタイムトラッキング。おかげで、どこで何を撮るのにも、ほとんどAF-CのままでOKなスタイルを確立することができている“私事”事情なのである。
そして、α7R Vのリアルタイム認識AFとリアルタイムトラッキングにコンビを組ませることで、被写体の認識効率とピントの追従性を著しく向上させられることにも気づいた。両機能が互いを補完することで、α7R VのAFは底力を発揮する、そんな印象だ。リアルタイムトラッキング推しのワタシにとっては、リアルタイム認識AFってのは、あくまでもリアルタイムトラッキングのフォローに回るサブ的な位置づけ。それが一番しっくりきた。
ちなみに、今回の試用は、背面のC1ボタンに被写体認識の「認識対象切換設定」を割り当てて使っている。アレコレ撮りたい浮気者ゆえ、認識対象をワンタッチで迅速に切り替えたいと思ったからだ。で、実際に使ってみると・・・。
最初の一押しから切り替えが実行されてしまうってのが今ひとつだ。1回押した段階では「現在設定されている認識対象」を呼び出す(表示する)のみの方がベターだろう。そうなっていれば、「現在の設定を確認する」ことと「それを認識した上で行う切り替え操作」が誤りなく確実にできるようになる。すでに希望する認識対象が設定されているにも関わらず、不用意に切り替えてしまうことの防止にも効果的だ。
フォーカスエリアの切り替えはAELボタンに割り当ててみた。そもそもC2に割り当てられているフォーカスエリアをわざわざAELボタンに割り当て直す理由は、操作効率の向上にある。C2ボタンのフォーカスエリア切り替えは、「C2ボタン押下」→「セレクター、もしくはダイヤル回しでエリア選択」の手順を踏むところ、AELボタン割り当てだとボタンを連打するだけで選択肢を順に呼び出す(設定する)ことができる。その操作性を重視したというワケ。
ただし、連打による切り替えだと、望む設定を通り過ぎてしまった場合に選択肢すべてを再び一巡しなければならない。これは、上記「認識対象切り替えのボタン割り当て」でも遭遇する事態であり、結局は「手間は変わらず」に陥ることの多い“哀しき工夫”ではあった。
万能性がさらに磨かれたα7R V
さて、α7R Vの「新次元AF」には、どうやら知性が備わっているらしいのだが、それが実感できたかどうかでいえば、確かに妙な自己主張を感じることはあった。「なんで、そこに、ピントを、合わせようと、したん、だいっっ!?」と、なかやまきんに君ばりにカメラに語りかけたくなることが時々あり、そんなときには、もしやこれがα7R Vが隠し持つ知性の発露なのかっ? なんて思うこともチラホラ・・・。
電子シャッターによる20コマ/秒、30コマ/秒の連写速度を知るカラダには、メカシャッターが奏でる秒間約10コマのリズムには物足りなさを感じてしまいそうにも見える。しかし、動きモノを撮るのに十分なシャッターレスポンスとAF追従性を有していることから、実際に動体を追いかけ回しているときに不満を感じることはなく、撮りたいと思ったモノを確実に射止められる手応えには、得体の知れぬ頼もしさすら感じることさえあった。
それに加えての6100万画素の高解像度であり、対応範囲の広い被写体認識AFである。そしてさらに、禁断のトリミング耐性にまで目を向けるとするならば、α7R Vの動体適性はα1に次ぐレベルにあるといっても過言ではないだろう。まさしく「何でも撮れる」1台に仕立てられているのだ。
このマルチパーパスなキャラクターは随一のものであり、他社ミラーレス機に追い越されることは当面・・・いや、未来永劫ないようにも思う。「α7S」シリーズとはベクトルを異にしつつも、見事に同質の存在感を有しているということだ。αの「R」としては、実に正しい在りようを見せているのである。
α7R Vの登場でα7R IVの価格がジワリ下がり始めた
AIのプロセッサーが大食いなのか、バッテリーの減りは結構、早いように感じた。一番、燃費が悪かったのは、初回の撮影「1292コマで残量28%」。連写中心の撮影におけるこのバッテリー消費には、正直かなりビビったのだけど、2回目は「2538コマで残量41%」、その後は「1298コマで残量45%」「997コマで残量76%」というデータが残っており、平均すれば、まぁこんなものなのかな・・・という気がしないでもない結果だ。バラツキが大きく明確な傾向が掴みづらいのは、カメラの使い方、撮り方による差が大きいからであると思われ、ということはユーザーによって印象が大きく異なる可能性が大。油断は禁物だろう。
さて、ここで自分の過去を振り返ってみると、何度か「α7R IV」を買おうとしたことがあったのを思い出す。カートに入れてポチる寸前で急遽、撤退!! を何度、繰り返したことか・・・。さすがに、安易に手を出せる価格ではなかったからだ。最後の最後でビビるのである。
一方、α7R Vの実売価格は、ついに50万円の声を聞くレベルになっていて、さらに壁が高くなってしまった。あらゆるモノの値が上がっているこのご時世、そうでなくともハイエンドデジカメが見せる価格の上昇には、カネではなくタメ息しか出せないままのここ数年。そんな中、α7R IVの実売価格がα7R Vの登場により緩やかに下降線を描き始めたことは、ワタシ個人にとっては注視すべき状況の変化だった。
そこで、ワタシはとある量販店の実店舗における販売価格の動向監視を開始。同店のネット販売の価格設定はピクリとも動いていないのに、実店舗での販売価格がジリジリ下がりつつあることに気づくことができたのはラッキーだった。そして、店舗での価格があるラインを割った某月某日、ワタシは完全武装(現金握りしめ)での店舗内突入を決意&敢行! 無事、α7R IVを救出する・・・いや、入手することに成功したのだった!!
まさしく、α7R Vに背中を押される形でのα7R IVの入手だったといっていいだろう。α7R IVに期待するものは、8割方「禁断のトリミング耐性」に絞り込まれているといっても過言ではない個人的事情であるがゆえ、不満なきリアルタイムトラッキング動作が得られることを前提に、さほどの迷いもなく「前のモデル」に手を出したカタチだ。いやー、やっとここまで来られたよー。
でも、α7R IVを手に入れたことで、αのボディに関し「あがり」になってしまった気がするところには、チョイとした引っかかりを感じていたりもする。この、自ら幕を引いてしまった空気感は一体ナンなんだろう。なんか「ジ・エンド」な雰囲気が濃厚じゃね? 3年とか4年が経った後、もし「α7Rの6型」が登場したとして、ワタシはそのときカメラに対する購買意欲を維持できているのだろうか・・・。
α7R Vが、それだけ素晴らしくも悩ましい仕上がりであったということなんだと思う。しかし、カメラって、このままいくと昭和前期みたいな「家を買う覚悟で買うモノ」になってしまいそうだよねぇ。ここらで「あがっておく」のが、安寧な人生にとっては得策ってこと? いやー、さすがにそんなコトはないと思うけれど、全力で否定できないってのが、なんか妙に哀しいんだよねぇ…。