東映創立70周年を記念する大型映画として話題を呼んでいる『レジェンド&バタフライ』(1月27日公開)。「大うつけ」と呼ばれていた尾張の織田信長(木村拓哉)と、信長の元に嫁いできた「マムシの娘」と呼ばれる美濃の濃姫(綾瀬はるか)の姿を描いた物語で、最悪の出会いで始まった2人は次第に強い絆で結ばれ、誰も成し遂げたことのない天下統一という夢に向かっていく。

同作で信長の小姓である森蘭丸を演じ、時代劇映画初出演となった市川染五郎。「とにかく信長という人を心から慕っている」という蘭丸の姿は鮮烈な印象を残している。どのような思いで蘭丸として生きていたのか、話を聞いた。

  • 市川染五郎 撮影:宮田浩史

    市川染五郎 撮影:宮田浩史

■歴史上の人物を演じるにあたって

――今回演じた森蘭丸という役柄についてはどう捉えられていましたか?

歴史上の人物として広く知られる人なので、なんとなくのイメージもあったのですが、衣装合わせの時に初めて大友監督にお会いして資料をいただき、撮影期間中にもいろいろ蘭丸ゆかりの場所を回ったりもして、演じながら捉えていく感覚はありました。蘭丸自身10代で若い命を散らした人ですから、演じる側としても同年代でなければなかなかできない役だと思うので、そういう意味でも、今挑戦しておきたい人物だという思いで話を受けさせていただきました。

  • (C)2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会

とにかく信長という人を心から慕っていて、常に信長のために全部の神経を使っている。最後のアクションシーンは特に「殿を守る」いう気持ちでしたが、そうではないシーンでも、常に危険を察知しようと緊張感を持っていました。

――蘭丸について調べられたとのことで、日本史などは得意だったりするんですか?

歌舞伎の題材としてよく出てくる時代は、割と好きではあるんです。歌舞伎でも自身の役が歴史上の人物であったら調べますし、今回もそれは同じでした。もちろん、作品に合わせて脚色されている部分も多いので、作品ならではの演出を1番大事にしますけど、基本的なところとして、知識として「こういう人だった」ということは絶対に入れるようにしています。

――今回の蘭丸はなぜ信長のことをそんなに慕っていたのか、自分の中での答えはありますか?

蘭丸のセリフに「天下布武のためにござりまする」というものがあります。信長の「天下を取ってやろう」っていう、人としても将としても芯の強いところに感銘を受け「この人についていこう」と思ってそばにいたことが伝わるのが、あのシーンだと思いました。

――染五郎さんご自身はどういう男性がかっこいいと思いますか?

表面的なかっこよさだけではなく、にじみでるかっこよさもあるような人は、素敵だなと思います。役者として、もちろん祖父(松本白鸚)や父(松本幸四郎)もかっこいいと思いますし、一生をかけて、一歩でもいいから近づかなければいけない人たちだと感じています。

■壮絶すぎて覚えてない「本能寺の変」

――一つひとつのセリフが印象的でしたが、意気込みなどはありましたか?

どんなセリフもそうですけど、同じ言葉でも状況によって言い方もスピードも変わってくると思います。今回本能寺で「敵襲にございまする!」というシーンで、「明智殿の軍勢と見受けまする」というセリフが続きます。思いもよらない人が敵になったという状況で、蘭丸自身も戸惑いがあると思うのですが、相手がすでに攻め込んできてるわけで、戸惑いを長く見せずに言った方がいいんじゃないか、と。そういうことは舞台でもなんでも、いつも考えています。

――また散り際も見事でした。そのシーンの思い出はありますか?

あのシーンの撮影は壮絶すぎて、自分としても覚えていない部分もあるんです。やっぱり蘭丸としては殿を守り切れなくて申し訳ないという気持ちや、早く逃げてほしいという気持ちが強かったです。あれだけ殿を慕っているのに、急に敵がせめ込んで来て、突然の別れになってしまう。色々と伝えたかったこともあるだろうけど、それをあの一瞬、目だけで伝えるという思いでやっていました。

おそらく、自分が入らせていただいたシーンの中では、1番何回も撮ったシーンでした。何回も血糊を口にふくんでやって、それも大変でした。

――改めて、出来上がった映画を観ての感想も教えてください。

あえて、蘭丸が登場する以前のシーンの台本は読んでいなかったので、試写で初めて観たんです。殿にはこんなふうに色々な出会いや経験があった上で、自分が一緒の空気を過ごさせてもらったんだということにまず感動しましたし、蘭丸を演じた者としてではなく、いち観客として観たときに、信長と一緒に生きたような気持ちがありました。今は色々な映像を配信で観れたりもしますけど、映画館で観ないとこの迫力や臨場感は感じることができないと思います。だからこそ、公開してからも映画館にちゃんと観に行きたいと思っています。

■市川染五郎
2005年3月27日生まれ、東京都出身。2007年歌舞伎座『侠客春雨傘』で初お目見得。18年1月歌舞伎座高麗屋三代襲名披露興行で八代目市川染五郎襲名。主な出演作にテレビドラマ『妻は、くノ一』(13年)、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(22年)、アニメ映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』(21年 ※声の出演)など。