伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)は挑戦者決定リーグが開幕。白組1回戦の渡辺明名人―池永天志五段戦が1月31日(火)に関西将棋会館で指されました。対局の結果、109手で渡辺名人が勝利してリーグ成績を1勝0敗としました。
渡辺名人の相掛かり研究
先手となった渡辺名人は相掛かりの序盤に誘導します。後手の池永五段が飛車先の歩を交換したのを見て、飛車取りに角を上がったのが渡辺名人の用意した一手でした。この定跡で部分的に出現する手筋ながらもこの局面での前例はなく、盤上は早くも新局面に突入しました。渡辺名人の研究を前に、池永五段は序盤から時間を投入して対策を練ります。
後手の池永五段が6筋の歩を突いて持久戦を志向したのに対し、渡辺名人は飛び道具を活用して積極的に局面を動かしにいきます。十字飛車の要領でこの歩をかすめ取ったのち、8筋に飛車を回って飛車交換を迫ったのが継続の構想。手順に後手を歩切れに追い込んで渡辺名人が首尾よく主導権を奪うことに成功しました。
機敏な仕掛けで渡辺名人がリード
機先を制された後手の池永五段は、飛車交換を拒否したのに続いて自陣の金銀を動かして自玉の形を整える方針を採りました。5筋の歩を差し出してまで金銀を盛り上げたのは陣形の進展の早さを主張するものでしたが、いかんせん急所の2枚の歩が先手に奪われているのが大きく囲いの薄さは否めません。
苦労の時間が続く池永五段を尻目に、先手の渡辺名人は手にした歩を生かして軽快に1筋からの端攻めに転じます。垂れ歩や合わせの歩といった基本手筋を組み合わせて香得の戦果を挙げたのち、軽い桂跳ねでうまく飛車を成り込んだところでは渡辺名人の優勢が明らかになっていました。
左右からのパンチで渡辺名人が快勝
優勢を自認する渡辺名人は先に作った竜を後手の角と刺し違えて攻めを継続します。後手の2筋が愚形になったのに機敏に反応して今度は敵陣左方に香を打ち込んだのが視野の広い攻め方でした。飛車金両取りの狙いがあるため後手はこの香を取ることができず、駒損が避けられません。ここを起点に渡辺名人の最後の猛攻が始まりました。
終局時刻は18時13分、最後まで攻めの手を緩めなかった渡辺名人が無駄のない攻めで池永五段の玉を寄せきって開幕局を制しました。これでリーグ成績は勝った渡辺名人が1勝0敗、池永五段が0勝1敗となっています。次局2回戦で渡辺名人は岡部怜央四段と、池永五段は冨田誠也四段と対戦します。
水留啓(将棋情報局)