日本将棋連盟は2023年1月31日、将棋世界Special『藤井聡太BOOK2023―不敗の王者が望む盤上の景色』(発行=日本将棋連盟、販売=マイナビ出版)を発売した。本稿では、前後編にわけ、本書に収録されたコンテンツより一部抜粋し、ご紹介。前編に続き後編では、藤井聡太を追う実力派若手3棋士のインタビューをお送りする。
高見泰地七段「藤井竜王と戦いたい」
(以下、本書より抜粋)
――最近の将棋界はAIの研究合戦が加速しているという評判ですが、どう思いますか?
高見 そう思いますね。先日、大阪から来た若手棋士と東京の若手棋士との3人でパソコンを使って研究する機会がありました。そのときに関西の子が述べた変化を、関東の子が『ああ、あれね』とか言いながら、そこにあったハイスペックのパソコンに入力したら、一瞬で答えが出ました。それを見た大阪の子は『ひえ~』って驚いていました。大阪の子が持ってるパソコンのスペックからすると、『そんなに早く答えが出るの。怖すぎる』ということのようです。ちなみに自分はそういう変化があることも知らなかった(笑)。やっぱり答えが早く出ればその分の時間が有効活用できるので、大きいことだなと改めて感じました。
――高見さんもハイスペックのパソコンを使っているのですか?
高見 使っていることにしておいてください。警戒してもらえるんで(笑)。
――AIで序盤を研究する目的は何ですか? 局面を有利にするため? それとも互角を維持するため?
高見 有利にするために使う人と、出遅れないために使う人の2パターンがありますよね。自分は後者で、特に後手番の研究で使っています。先手番ではもちろんプラスになったらうれしいけど、研究するのは『ここからは地力の勝負』という局面くらいまでですね。でも、ガチガチに使う人は序盤でリードしてそのまま勝とうとするので、AIのレールに完全に乗ろうとしています。
――高見さんがAIで調べていて、「これは対局に使えそうだな」と思うのは、どういう変化なのでしょうか?
高見 他の棋士は最善手だけを調べていそうな局面で、次善手や3番目の手をうまくぶつけて意表を突ければいいですよね。そういう手をいくつか探しておけば、時間の面でも不利になりにくい。あとは評価値が大きく変わらないのであれば、最善手でなくてもその後の展開が勝ちやすそうと思えば採用します。
(高見泰地七段「藤井竜王と戦いたい」より)
佐々木大地七段「復調が肉薄への第一歩」
(以下、本書より抜粋)
――佐々木さんは先手だと相掛かりが多いですが、どういう意識で指していますか?
佐々木 具体的な手順よりも部分的な形や手筋をたくさん知っておいて、いいイメージで指す感じですかね。どういうときに銀冠を目指して、そのとき相手はどういう形だとどれくらいの評価値になるのかとかを知っておくといい。
――タイトル戦は一時期、相掛かりが多用されていて、最近はまた角換わりが増えてきました。その流れをどう見ていますか?
佐々木 藤井竜王が6月ぐらいまで先手で相掛かりを用いていて、棋聖戦五番勝負の途中から角換わりにシフトチェンジしましたよね。自分の感覚では、相掛かりのほうが後手も五分にしやすい気がします。穏便な指し方でリスクを控え目にする手法が有力です。
――佐々木さんが先手相掛かりを指す理由は?
佐々木 経験値が生きやすいんです。角換わりも研究会では指してるんですけど、実際に公式戦で使えるかというとまだ経験や知識が足りない。角換わりは先後共に手順が大事なので、全部暗記できるかどうかみたいなところがあります。AI研究の手順は人間目線だと難しいので、先後ともにしっかり覚えてないといけない。いま永瀬先生主催の研究会は7割くらい角換わりのイメージがあります。
――矢倉はいかがですか?
佐々木 若手ではあまり流行していません。先手番だと桂の出足が遅くなりますし、角道が止まると評価値が落ちることが多いので、自分はちょっと嫌な感じがします。手数をかけて、角の働きを弱くしている感じです。矢倉は堅く囲えるメリットがありますが、7七の銀が後手の右桂に当たりやすい。矢倉は他によりよい作戦があるから用いない感じですかね。
(佐々木大地七段「復調が肉薄への第一歩」より)
増田康宏六段「勝利を積み重ねた先に」
(以下、本書より抜粋)
――AIはよく使っているのですか?
増田 いや、AIを使った序盤研究はあまり好きじゃないんです。検索させて答えを覚えるよりも自分で考えたい。だから私はハイスペックのものではなく、ノートパソコンを使っています。自分もクラスが上がってトップ棋士とたくさん指すようになれば考え方が変わるかもしれませんけどね。いまの相手だと研究していない人も多いので、最新形が現れるのは体感として10局中1、2局ぐらい。だから自分も最新形を研究するようになってから、先手で角換わりを使っています。相掛かりよりも研究した順になりやすいので。
――いまのやり方を続けていくのですか?
増田 そうですね。あと勉強法とは違いますが、自分は気が散りやすいタイプなので、集中力を身につけたい。やっぱりスマートフォンや電子機器の影響で、いまの時代は集中が切れやすくなっている気がするんです。あと自分はコンピュータを使って序盤戦の研究をしていると、集中力が落ちてくる。でも藤井竜王は対局姿を見ていても、気が散っている様子がまったくありません。
――増田さんは昔、「詰将棋意味ない」と発言して話題になりましたけど、いまもそう思っていますか?
増田 あまり意味がないと思っていたんですけど、集中力を鍛えるために長編詰将棋を解くのはいいのかなという気がし始めています。詰将棋は一つの局面をひたすら考えるじゃないですか。順位戦とか長い持ち時間だとそういう力が必要になります。やっぱり集中力がないと、形勢が悪くなったときに『もういいや』となって粘り強さがなくなるので。
――将棋を指すうえで体力は大事ですか?
増田 長時間の対局では特に重要な気がします。だから自分は定期的に有酸素運動や筋トレをしています。運動をしないと疲れやすくなりますし、将棋のキレが悪くなる気がする。長期的に見ても、運動は将棋に相当いいと思うんです。脳にいい影響を与えるようで、海馬など記憶力を司る部分が縮まなくて済むという研究結果もあるので
(増田康宏六段「勝利を積み重ねた先に」より)
書籍概要、収録コンテンツ
上記コンテンツのほかにも注目記事が目白押し。将棋ファン、藤井ファンに必見の内容となっている。『藤井聡太BOOK2023―不敗の王者が望む盤上の景色』は、Amazon.co.jpなどのネット書店、またはお近くに書店にて購入できる(Amazonの紹介ページはこちら)。
・巻頭カラー「写真で振り返る藤井聡太の2022年」
・木村一基九段が語る「羽生世代と藤井世代―読み? 研究? 激変する将棋の価値観」
・藤井聡太を追う者たち―高見泰地七段、佐々木大地七段、増田康宏六段の実力派若手3棋士のインタビュー
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『藤井聡太BOOK2023―不敗の王者が望む盤上の景色』
発売日:1月31日
価格:1,380円+税
判型:B5判128ページ
発行:日本将棋連盟