そしてこの目的に好適な分子種の探索が行われ、増感分子として「CBDAC」、発光分子として「PPO」が選択され、CBDAC:PPO=1:30,000というモル比の混合粉末を用いて、厚さ200μmのCBDACが微量ドープされたPPOの多結晶膜が作製された。
そして、作製された固体膜に空気中で波長440nmの青色レーザー光を照射。すると短波長シフトしたUC光が得られ、その発光フォトンの約60%が紫外域(λ<400nm)に存在していることが確認されたのである。最適条件で生成された試料では、UC量子効率として最大値50%の定義で4%(最大値100%の定義では8%)という比較的高い効率が達成された。
さらに、空気中で波長440nmの光を、励起閾値強度を十分上回る30mW/cm2の強度で照射し続けたところ、少なくとも100時間以上安定であることも判明。これはUCの研究分野において、不活性ガス中で行われたものも含め、材料の形態を問わず最長記録となる光照射安定性の実証だという。
また併せて、太陽光のような低強度光への適用を考慮し、照射光として波長413nm以下をカットした模擬太陽光を用いて、空気中においての計測が行われた。すると、励起閾値強度が自然太陽光強度の約3分の1と極めて低いことが確認されたとする。つまり、レンズなどの集光系が不要だということだ。このことから、今回の固体膜を大面積化してシート化すれば、それを壁面などに貼り付けた使用形態も想定できるとした。
今回の成果により、太陽光程度の低強度な可視光を空気中で安定に紫外光に変換することが可能となった。これにより、紫外域で高い効率を示す光触媒、人工光合成、樹脂硬化などの反応について、紫外光源や太陽光中の紫外光の直接利用などが必要がなくなる。このことは、太陽光エネルギー利用の目的に限らず、光に関係する広範な産業技術に革新をもたらしうる根幹的な発明とした。
今後の展開として研究チームは、たとえば大面積の基板やシートに今回の固体膜を生成し、光触媒や人工光合成などと組み合わせることが考えられるとする。しかしその課題として、現状の最大値が50%の定義で4%(最大値が100%の定義では8%)というUC量子効率がある。研究チームは今後その向上のため、増感分子・発光分子の探索や成膜条件の最適化などを通じて、引き続き効率向上の研究を遂行してゆくとした。