研究チームはこのメカニズムの詳細を調べるため、JASRIが運用する大型放射光施設「SPring-8」において、吸着状態および脱離状態の結晶構造などを精査。その結果、CO2導入圧が10~20kPaである付近を境に、高圧側で磁石層間の距離が大きく伸長していることが判明した。
これまでの研究から、層間距離が磁気秩序の決定に重要な役割を果たしていることは理解されていたという。そして、これまで扱ってきた物質系において、10.6Å(オングストローム)を境界として、これより短ければ反強磁性体、長ければフェリ磁性体となる傾向にある(10.6Åを境に層間の磁気相互作用が反転する)ことがわかっていたとする。
そして今回観測された磁気秩序の変化と層間距離の伸長は、まさにこれまでの経験則に合致する結果だったとのこと。つまり、今回の物質系における磁気相変化が、CO2吸着に伴う構造変化、特に層間距離の変化に起因することが解明されたのである。なお、今回の化合物は窒素や酸素などCO2以外のガスも吸着したが、磁気相変化が起こるに足る構造変化を誘起できたのはCO2のみだったとした。
研究チームはMOF磁石について、電場や磁場などの物理的な刺激とは異なり、分子吸脱着という化学的な刺激により駆動する材料であり、化学物質の性質を磁化という物理量に換える、「化学-物理変換」を可能にする材料ともいえるとする。
また、格子内での電子状態変化や特殊なガスの利用などを前提としない今回の機構は、ほかの層状磁性化合物へも応用可能である点において、高機能分子デバイスの実現へ向けての基礎・応用の両面から大変意義深い結果とした。そして今後は、化学-物理変換のコンセプトを用いて、多成分認識などの応用研究へと展開していく予定としている。