物価や光熱費の高騰で生活費が圧迫されつつある昨今、家計管理や老後の備えはますます重要になってきています。中でも独身・将来も結婚の予定がないというおひとりさまは、シングルライフならではの対策が必要なようです。
そこで今回は、『ひとりで楽しく生きるための お金大全 「もしかして結婚しないかも?」と思ったらやっておきたい50のこと』を出版された、税理士の板倉京さんにインタビュー。2023年に始めたい、おひとりさまの節約と投資の方法について伺いました。
■一人暮らしはコストが高い! 老後についても独身ならではの対策が必要
――結婚はコスパが悪いなんて言われることもありますが、逆におひとりさまが経済的に不利な面はあるのでしょうか?
まず、独身の方は扶養する家族がいないことから扶養控除を利用できず、家族持ちの方より税金が高くなりがちです。次に、例えば世帯年収が1,000万円だとして、1人で1,000万円稼ぐほうが夫婦2人で500万円ずつ稼ぐより所得税率は高くなるので、手取りは共働きより少なくなりますね。健康保険料に関しても扶養の多い方のほうがメリットは大きくなっています。
――生活コストに関しては、いかがですか?
水道光熱費は2人になったからといって2倍にはなりませんよね。家賃も2人で住んだほうが1人あたりの負担は減るでしょう。また食事も2人分まとめて作るなら食材を無駄にしにくくなります。
一方、独身の方の中には「1人分だけ作るのは手間がかかるから外食や総菜に頼りがち」という方もいらっしゃるでしょう。
実際、1人あたりの食費では、2人以上の世帯と比較して独身の方のほうが高くなる傾向にあります。
――お金以外にも考えておくべきことはあるでしょうか?
これは独身の方に限らないかもしれませんが、高齢になって病気や介護状態になったとき、頼れるパートナーやお子さんがいらっしゃらない場合は、事前の備えが必要です。ケア・手続きなどを担ってくれる親族や信頼できる方との関係を築いたり、利用できるサービスを調べておいたりできるといいですね。
それから兄弟がいたとしても、親の介護については「独身なら時間に余裕があるんだからあなたがやってくれない?」と言われてしまうケースも聞きます。または介護費用を多めに出すよう要求されることも考えられます。親にしても、独り者の子どものほうがいろいろ頼みやすいでしょうし。
さらに自分が亡くなった後の財産の名義変更や引き継ぎ、遺品整理など、事前にどうするかについても考えておきましょう。独身の方は、これらのことを自分の意志で好きなように準備しやすいといったメリットもあるので、対策もスムーズに始められますよ。
■おひとりさまの節約術で重要なのは"お金に興味を持つこと"
――節約に関しても、注意すべき点はありますか?
例えば「出費を止めてくれる家族が近くにいないので、使いたいだけ使ってしまう」という独身の方のお話を聞いたことがあります。もしかしたら夫婦で暮らしていたほうが、お互いが出費のストッパーの役割を果たして、節約できるという方もいらっしゃるかもしれませんね。
ですからまず大切なのは、"お金に興味を持つ"ということだと思います。
例えば、毎月銀行口座の残高をチェックしてみましょう。先月末より今月末の残高が少し増えていると「出費を減らせた」とうれしく感じられます。逆に大きく減っていると、何に使ったのか反省する機会になります。
銀行残高だけでなく、ATMの利用履歴、クレジットカードの利用履歴などを確認できるようにして、お金の動きを"見える化"すると、少ない金額で何とかやりくりしようとゲーム感覚で節約を楽しむことができますよ。
また、定期的に発生する固定費の出費を見直すこともおすすめしたいです。例えば、携帯電話のプランであれば、一度見直すだけで継続的に出費を減らすことができるので、節約効果が高いです。
それから、ふるさと納税も楽しみながら活用してみてはいかがでしょうか? 返礼品は「どのみち自分でお金を出すことになるもの」がおすすめです。ふるさと納税サイトには、「美容品」「お食事券・旅行券」など、カテゴリー別に検索できる機能もついていて便利です。
ふるさと納税の返礼品というと大容量の食品や日用品などをイメージする方も多いと思いますが、最近はバリエーションも広がり、家電や調理器具をもらうこともできます。ゴルフのボールやパターのように、趣味で使うものも良いですね。
■資産運用はインデックスファンドの長期投資から始めよう!
――資産運用の第一歩としてはインデックスファンドがおすすめだそうですね。
インデックスファンドのメリットは、まず手数料が安いことです。インデックスは指数に連動するので運用銘柄が決まっています。どの銘柄を採用するかを考える必要がないため、人件費が安く済むことが手数料の安さにつながっています。
次に、ファンドマネージャーが運用するアクティブファンドでも、インデックスファンドに勝る成績を残せるものは多くなく、全体の10%~30%程度しかありません。勝てそうなアクティブファンドを投資の初心者の方が見分けるのは難しいでしょう。
――インデックスファンドの中でもどのようなタイプのものを選ぶと良いでしょうか?
日本の株式は長期的には上がっていませんよね。一方で米国の株式は長期的に上昇を続けています。今後の将来性や、お金を増やしていくことを考えると、海外の株式を組み込むことが必要になるのではないでしょうか。実際に、米国のS&P500や全世界株式などのファンドが人気を集めているようですね。
――著書を拝読して「iDeCoは運用に失敗しても良いほどの節税効果」という表現がとても印象に残りました。iDeCoにはそれほど大きなメリットがあるのでしょうか?
一言でいうと「所得控除のパワー」です。iDeCoの掛金は所得から控除できますから、その分所得税と住民税が安くなります。年収500万の人で、所得税10%+住民税10%程度で合計20%程度、年収1000万円だと所得税率20%+住民税10%程度の合計30%程度ですから、拠出した掛金の約20~30%が翌年の税金から差し引かれることになります。つまり毎年20~30%の利回りが出ているのと同じような状態と言えるわけです。
ここまで高い利回りを出せる金融商品は現在ほとんどありませんのでお得と言えますね。
――iDeCoやつみたてNISAの口座開設におすすめの証券会社はどこでしょうか?
私が良いなと思うのは、楽天証券やSBI証券で、個人的にはマネックス証券も使っています。楽天証券はやはりポイントの貯まりやすさが魅力ですね。
つみたてNISAで選べる銘柄も、楽天証券とSBI証券は飛びぬけて多くなっています。
対面の証券会社だと銘柄本数が少なく、一度訪れるとその後もいろいろ相談していかなくてはならない状況になります。手数料の高いサービスを勧められてしまう可能性も高いです。
総じて楽天証券をはじめとしたネット証券のほうが手数料は安いので、iDeCoやつみたてNISAでも活用していただきたいですね。
『ひとりで楽しく生きるための お金大全』(板倉京 著/ダイヤモンド社 刊)
男性や4人に1人、女性は6人に1人が生涯未婚と、独身者は急増中。税金・年金面で不利になりがちな独身者が陥りがちな7つの罠を避け、ひとりで自由に生きていくためには、早めのお金対策・老後対策が必要です。おひとりさまのクライアントを多く持つ税理士が、幸せな老後を安心して迎えるためにやるべきことを教えます。
板倉京
保険会社・財産コンサルティング会社、税理士法人等で税理士業務に携わる。開業独立している女性税理士の組織(株)ウーマン・タックス代表。「あさイチ」、「ワイドスクランブル」などのテレビ出演や全国での講演、書籍の執筆などの活動も多数。著書に「夫には読ませたくない相続の教科書」(文春新書)、「定年前後のお金の正解」(ダイヤモンド社)など。