そうした状況を踏まえ、研究チームは今回、新たな方法でΛ(1405)を合成する手法を考案することにしたという。
具体的には、陽子と中性子がゆるやかに結合した「重水素原子核(重陽子)」に、負電荷を持つK中間子を照射すると、中性子が蹴り出され、その反動でエネルギーを失ったK中間子が残った陽子と融合することで、Λ(1405)が合成されるというものだという。そして研究チームでは、その一連の反応過程を測定することにも成功したという。
Λ(1405)の合成では、反応に関わるごく短い時間内で許される量子力学的不確定性関係を利用して、反跳K中間子と陽子の取りうる衝突エネルギーの下限を下げ、Λ(1405)の質量領域に到達させることが鍵となると研究チームでは説明している。この反応過程が散乱理論にしたがって分析され、Λ(1405)の複素質量(共鳴粒子の質量は、虚数を含む複素数で表される)が求められた結果、Λ(1405)という名前の由来となっている1405MeV/c2よりも約13MeV/c2ほど重いことが判明したという(そのため、将来的には名称変更の可能性もあるとする)。このことは、Λ(1405)がK中間子と陽子の散乱における共鳴状態であることを直接示しているという。
さらに、Λ(1405)がK中間子と陽子に結合する割合が、π中間子とΣハイペロンに結合する割合よりも優勢であることも示されたとする。この結果は、最新理論による解析とも矛盾なく、Λ(1405)がK中間子と陽子の結合状態であることを支持するものだとしている。
なお、今回の成果について研究チームでは、直接的にはK中間子と核子間の相互作用を与え、最近発見された新奇なK中間子原子核の性質を理解するための基礎情報となるとしているほか、中性子星の中心部でK中間子が凝縮した状態が実現しているかどうかなど、超高密度核物質に関する理論の進展も期待されるとしている。