東南アジアの国々で、プラスチックごみが問題になっている。世界経済フォーラムの2020年版報告書によれば、インドネシアでは年間約680万トンのプラスチックが廃棄され、その70%は焼却や埋め立て、海洋投棄といった、環境に悪影響を与える方法で処理されているという。

プラスチックごみといえば海洋汚染と関連付けて語られることも多いが、海のプラスチックごみの排出源は、陸上で分別されることなく埋め立てられている廃棄場だ。2019年には廃プラスチックのインドネシアへの輸入が禁止され、都市部では分別リサイクルの取り組みが始まっている。しかし、分別されることなくトラックで運びこまれ、そのまま埋め立てられる「オープンダンプ式」という処分方法も大きな問題となっている。これから排出されるプラスチックごみを適切に処理していくためには、現状の野放図な廃棄場をデータ化してモニタリングし、歯止めをかけることが大切だ。そこで、衛星データを利用して広域のプラスチックごみの状態を把握する手法の開発が始まっている。

米国航空宇宙局(NASA)の元副長官のローリー・ガーバー氏やキャスリン・コールマン元宇宙飛行士らがアドバイザーを務めるカリフォルニア州の環境保護団体「アースライズ・メディア」は、オーストラリアのミンデルー財団と共に、オープンソースの光学衛星画像や深層学習を用いて、東南アジアのプラスチックごみ廃棄場を検出する手法を開発した。インドネシアでこの手法を用い、公的記録で報告されている数の2倍以上となる374カ所の廃棄場を検出したという。そこで検出された廃棄場の2割近くが川から200m以内にあり、いずれ海へ流出する可能性も高い。

プラスチックごみモニタリングの意義は間違いないが、衛星画像からどのようにそれが可能になるのだろうか?「宇宙」「AI」とつくだけで「すごそうだけれど面倒くさい」とスルーしてしまうのはもったいない。オンラインジャーナル「PLOS One」に掲載された論文「Satellite monitoring of terrestrial plastic waste」から、衛星画像でプラスチックごみ廃棄場を洗い出すプロセスと、その考え方を追ってみよう。

  • プラスチックごみ問題の解決に向けて開発が進む、衛星画像とAIを活用したモニタリングとは、どのようなシステムなのだろうか(C)THE MINDEROO FOUNDATION

    プラスチックごみ問題の解決に向けて開発が進む、衛星画像とAIを活用したモニタリングとは、どのようなシステムなのだろうか(C)THE MINDEROO FOUNDATION(出典:ミンデルー財団)

衛星画像は「下ごしらえ」が必要

  • Maxar提供の高解像度衛星画像によるプラスチックごみ廃棄場(左)とセンチネル2の画像(右)。赤いマーキングは、既知の廃棄場を囲んだもの。解像度10mのセンチネル2画像から目視で廃棄場を見つけ出すことは困難だ

    Maxar提供の高解像度衛星画像によるプラスチックごみ廃棄場(左)とセンチネル2の画像(右)。赤いマーキングは、既知の廃棄場を囲んだもの。解像度10mのセンチネル2画像から目視で廃棄場を見つけ出すことは困難だ(出典:Kruse et al., 2023, PLOS ONE)

プラスチック廃棄場の検出には、欧州の光学衛星「Sentinel-2(センチネル2)」の画像を利用している。センチネル2は、5日おきとかなり高頻度に撮影でき、無償でデータが公開されているという利点がある。一方で分解能は中程度の10mで、画像を見ただけではぼんやりとしたグレーの地面が認識できるだけ。ここからプラスチックごみ廃棄場を区別することは非常に難しい。一方で、機械学習のトレーニングに使用された米・Maxarの光学衛星画像「WorldViewシリーズ」は分解能が0.3mと非常に高く、むき出しになった地面や周囲の施設との境界線、地面が盛り上がった場所なども判読できる。センチネル2の画像よりもMaxarの画像は観測頻度が少ないため、無償で豊富に利用できるセンチネル2で、廃棄場を検出できるようにするのが目標となる。研究では、まず10カ所の既知の廃棄場のMaxar画像から、廃棄場所をマーキングしてトレーニング用のデータセットを作っている。

プラスチックごみの埋立地は、薄いグレーまたは茶色っぽい色で、埋立作業を行っている場所へつながる仮設道路があるなど特徴を持っているという。また、さまざまなプラスチックごみが混ざりあった独特の表面状態を「高周波テクスチャ」と表現していることも、非常に興味深い。「高周波」とは細かい模様が混ざりあった画像の部分に使われる表現で、砂嵐状のパターンなどを指す。こうした特徴を「ピクセル・スペクトログラム分類器」というCNNの手法を使って検出する。

検出に向けた機械学習によるトレーニングを行う前に、その下ごしらえとして、画像から雲の除去を行っている。東南アジアで雲がない好条件の衛星画像はほとんどなく、「雲マスク」と呼ばれるツールを使って画像から雲のエリアを除去する必要がある。ただし、既存の雲マスクは精度が低いことも多く、雲の縁の部分を誤判定しやすい。論文によれば、雲マスクの判定を厳しくすることで雲の縁やもやを排除することができたという。

その後、2019年6月から2021年6月までの2年分の衛星画像から、50カ所の正規の廃棄物処理場の画像を用いて、試験用のデータセットが作成された。廃棄場で雑草が伸びて表面が覆われてしまうことも珍しくないため、植物の活性度を示すNDVIを適用して草に覆われたエリアを除外し、純粋に埋め立てられたプラスチックごみがむき出しになっている場所を試験に用いている。