日産自動車が「GT-R」の2024年モデルを公開した。GT-Rは超強力なエンジンを搭載する日産の代名詞的なスポーツカーだが、このクルマを開発するうえで得られた知見は同社の電気自動車(EV)にも活用されているとのこと。GT-RとEVには、どんな共通点があるのだろうか。

  • 日産「GT-R」

    日産が「東京オートサロン2023」で公開した新型「GT-R」

2023モデルには「お叱り」の声が?

「東京オートサロン2023」でついに我々の前に姿を現した日産「GT-R」(R35)の2024年モデル(24Y)。発表後に行われたトークショーには「ミスターGT-R」とも呼ばれる日産自動車 ブランドアンバサダーの田村宏志氏が登壇、「思えば遠くへ来たもんだ」と現行型GT-Rの長い歴史に思いをはせた。

新型GT-Rの企画が始まったのは2000年のこと。2001年の「東京モーターショー」でコンセプトを展示し、2007年に発売となったのが最初の「R35型」だ。

「もう16年が経ちました。長く1車種1型式としてやってきたというのは、ベタですけど、ひとえに皆様のおかげだと思います。前回の23Yにも、ものすごい反響といいますか、はっきりいうとお叱りの声がありました。もっと作れないのかと」(田村氏)

そんな反響を受けて田村氏は、GT-Rチーフビークルエンジニアの川口隆志氏に「川口、音を消せばなんとかなるだろう、消せばいいじゃんか」と持ち掛けたのだという。

音を消すためにはマフラーの容量を3倍くらいにして、さらにトランク容量を半分にする必要があった。タイヤからのノイズを抑えるためには、グリップは落ちるもののフロント用の255タイヤをリアにも付けなければならない。それを聞いた田村氏は「それは、お客さんが欲しいGT-Rではないだろう」と考え、「音は消す、タイヤもそのまま、馬力は1馬力も減らさないということで頑張ってみてくれ」と無理難題(?)を吹っかけた。それが、GT-R 24Y開発のきっかけだったそうだ。

  • 日産「GT-R」
  • 日産「GT-R」
  • 日産「GT-R」
  • 新型「GT-R」は無理難題をクリアできているのか?

GT-Rの開発を率いる川口隆志氏は、24Yの開発をどう受け止めたのか。

「聞いているだけでも無理難題と思われるかもしれませんが、最初に24Yを作ると聞いた時は、正直にいうと、ちょっとワクワクしたんです。GT-Rを開発しているメンバーは、ずっと無理難題というか、そう簡単には達成できないハードルをどんどん超えてきたわけで、初期のエンジンなんかは仲田さん(後述)が知っていると思いますが、そう簡単に世の中に出せない技術を作り込んできたのがGT-Rの開発チームです。今回も無茶ぶりではあったのですが、我々のエンジニア魂にまた火をつけてくれたかと受け止め、よしやるぞ、ということで取り組みました」

では、24Yではどんな部分を改良したのだろうか。川口氏は「顔やリアウイング周りなどを変更してダウンフォースを稼いで操縦安定性をアップ」「コーナーを速く回るためにフロントメカニカルLSDを搭載するとともに、4WDの制御を見直した点」「昨年暮れからの車外騒音規制に対応するために新設計のマフラーを開発・搭載した点」の3つを挙げた。

  • 日産「GT-R」
  • 日産「GT-R」
  • ダウンフォースが向上して操縦安定性が増した新型「GT-R」

「07Y」の開発時にエンジンを担当し、現在は日産独自のハイブリッドシステム「e-POWER」の開発を担当しているチーフパワートレインエンジニアの仲田直樹氏は、「R32」「R33」「R34」などセカンドジェネレーション時代の猛者と呼ばれていて、R35の「VR38DETT」エンジンを開発したエンジニアの一人だ。「自分も乗っているセカンドジェネレーションのGT-Rでは、やりたいことを具現化することができました。コンセプトとしては、どこから踏んでも速い、そのままサーキットで走れる、進化の先を見据えた600馬力のポテンシャル、といったことを考えて設計していました」と話す仲田氏によれば、GT-R開発で得られた知見は日産の電動車づくりにもいかされているという。GT-Rと電動モデルがどうつながるのか、仲田氏は4つの例を挙げて説明した。

  • 日産のEV

    日産のEVに「GT-R」の知見が?

1つ目は「電動車らしいレスポンスや力強さ、伸び感のよさ」だ。「GT-Rでは、レスポンスを上げるために過給圧の制御を改良してみたんですが、その結果としては『応答は速くなったけど、気持ちよくない』クルマに」なったとのことで、過給の力強さやターボの押し出し感をどこで感じるか、それを参考にしながら電動車を作り込んでいるのだという。GT-RのようなハイパワーエンジンとEVでは全く違うクルマづくりをやっていると思っていたのだが、実はしっかりとシンクロしていたのである。

2つめはワンペダルドライビング。「イメージはワインディグロードをZやGT-Rで走っているとき、Mモードにして3速から4速でひらひらと気持ちよく走っている感じ」で、この状態を電気で再現しているのだ。

3つ目は音と加速のフィーリングが気持ちよくシンクロしている点だ。アクセル全開にしていなくても、60~100km/hとか80~120km/hとかの加速時に音がついてきて、トルクをグッと感じる加速ができるというGT-Rの感覚は、エクストレイルのe-POWERでもしっかりと実現できている。

4つ目は4輪駆動の制御。「前回のGT-RニスモではLSDをつけて4駆の制御を見直しましたが、その進化系がe-4ORCE(日産の電動モデルが搭載する4輪駆動技術)であると思っていただいて構いません」というのが仲田氏の言葉だ。前後にコントロール性の高いモーターを使うことでトルク配分をしっかりとコントロールし、コーナリング中はLSDの代わりにイン側のブレーキをチョンチョンとつまみながらコーナリング性能を上げていくe-4ORCEは、まさにGT-Rの血を受け継いでいるのだ。

このように、GT-Rの開発から日産の電動車にフィードバックされている要素はたくさんある。日産のDNAは、「結局は、ガソリンエンジンだろうがEVだろうが、人間がコントロールするというエモーショナルなところに響かせることがポイントなので、R33から言ってきている究極のドライビングプレジャーの追求というところは何も変わらない、一気通貫のフィロソフィーです」という田村氏の言葉に尽きるのだろう。