今回の研究で電子スピン波の電気的観測に用いられた原理は、半導体の電気伝導測定で観測される抵抗変化の「量子干渉効果」だ。同効果は、さまざまな材料において観測できる普遍的な現象で、半導体においては古くから、スピン情報が失われるまでの緩和時間を検出するために用いられてきた。今回は同効果を利用して、電子スピン波を電気的に検出できる新たな理論モデルを導いたという。そして、ガリウムヒ素(GaAs)半導体材料に同理論モデルを適用することで、電子スピン波の緩和時間を実験的に求めることに成功したとしている。

これにより、理論モデルによる曲線は、磁気伝導測定で観測される量子干渉効果の実験結果をよく再現できることがわかり、半導体における電子スピン波の電気的観測を可能にしたことが確かめられた。

加えて研究チームは、ガリウムヒ素半導体トランジスタにおいてゲート電圧を変化させながら、電子スピン波の緩和時間とゲート電圧の関係を調査した。その結果、電子スピン波の緩和時間はゲート電圧を減少させることで増大し、電子スピン波を安定に保持できる条件が突き止められたという。研究チームによるとこの成果は、さまざまな材料において電子スピン波が観測できる基盤技術を構築したことになり、電子スピン波を活用できる半導体材料の開発を一気に加速させることが期待されるとする。

また、電気的な観測を実現したことにより、将来的には爆発的に増大する情報を同時一括処理できる半導体ベースの超並列演算素子へと展開することができ、革新的な省電力技術に貢献できることが考えられるという。さらに、量子コンピューティングでは、特定問題に対し量子力学的な重ね合わせを利用することで超並列処理が可能となるが、電子スピン波では古典的な波の重ね合わせにより汎用並列演算が可能となるため、より汎用性の高い演算を並列処理できる将来展望が期待されるとした。