第73期ALSOK杯王将戦(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟主催)は、一次予選の松尾歩八段―中村太地七段戦が1月23日(月)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、182手で勝利した中村七段が次回戦進出を決めました。

角換わり早繰り銀の持久戦

振り駒が行われた本局、先手となった松尾八段が角換わり腰掛け銀の戦型を選びます。これを受けてすぐに早繰り銀の速攻を見せたのが後手の中村七段用意の作戦でした。開始30手にして早くも歩がぶつかったものの、松尾八段が腰掛け銀を矢倉に引き付ける穏やかな受けを選んだためにすぐの戦いは回避されました。

しばらく囲い合いの手順が続いたのち、中村七段は7筋の歩の折衝を放置したまま自玉を穴熊に組み替える動きに出ました。放置しては堅陣に組まれると見た松尾八段が「開戦は歩の突き捨てから」の格言通りに歩を突き捨てたことで、本局は本格的な戦いに突入しました。

中村七段の勝負手

盤上は、先手の松尾八段が後手の玉頭に対して継ぎ歩の手筋を繰り出して攻勢に出ています。手順に跳ねた桂で後手玉を守る銀を取れた戦果が大きく、まずは松尾八段が優位に立ちました。受けていては活路を見いだせないと中村七段も攻め合いに出て、ここから局面はいっそう激しさを増していきます。戦いの中でお互い敵陣に馬を作って様子を伺いました。

形勢不利と見た中村七段は自陣で眠っていた桂を跳ね出す勝負手を繰り出します。これは松尾八段の馬によってすぐにタダ取りされてしまいましたが、そうすることで中村七段はこの馬と自身の飛車の働きを逆転させることに成功しました。

中村七段が激戦を制する

この勝負手が奏功し、中村七段有利に転じて局面は終盤に突入しています。松尾八段も豊富な持ち駒を武器になんとか中村玉に迫ろうとしますが、「中段玉寄せにくし」の格言が示す通り、手順に五段目に逃げ出した中村玉は容易に捕まりません。両者一分将棋の秒読みに追われる中、中村七段は正確な受けを続けてついに先手陣への入玉を果たしました。

持将棋を目指す松尾八段もここから自玉を後手陣に向け出発させますが、あとから入玉する側は「入玉できてようやく引き分け、できなければ負け」という困難を乗り越える必要があります。最後は後手陣二段目に打たれた中村七段の金が大きな拠点となり、松尾八段の入玉の夢を打ち砕きました。終局時刻は18時1分、入玉の望みなしと認めた松尾八段が投了を告げて中村七段の勝ちが決まりました。

水留啓(将棋情報局)

  • 勝った中村七段は公式戦の連敗を3で止めた

    勝った中村七段は公式戦の連敗を3で止めた