ドルビージャパンは、東京ビッグサイトで1月25日から3日間開催される「第15回 オートモーティブワールド」に、車内で立体音響コンテンツを再生できる技術「Dolby Atmos for Cars」の体験デモブースを出展します。ひと足先に、メディア向けの体験会で体験してきました。
展示スペースは東5ホール 42-52 Dolby Japanブース。日本国内の展示会でDolby Atmos for Carsを搭載したデモカーを展示するのは今回が初の試みです。なお、オートモーティブワールドは業者向けの商談のために開催される展示会なので、一般の人や学生、18歳未満の人は入場できません。
Dolby Atmos for Cars、採用する自動車メーカー増!
まずはDolby Atmos for Carsの動向について。現在、自動車業界では「CASE」(Connectivity, Autonomous, Shared & Service, Electricの頭文字をそれぞれ取っている)を軸にした技術開発がトレンドとなっています。
これに伴い、車内での過ごし方に変化が起き、「車内におけるエンタメの重要性」が上がる可能性があるとのこと。たとえば、30分間以上かかる電気自動車の充電時間の使い方や、自動運転の技術発達による運転からの解放など。ドルビージャパンは「人々が自動車での移動に求める価値を変わっていくと考えている」といいます。
その変化の一つとして、映画館やホームシアターのようなリアルサウンドを車内で楽しめる、Dolby Atmos for Carsを採用するメーカーが最近増えています。まず、2021年3月21日にLUCID(ルシード)から、世界で初めてのDolby Atmos対応車として「Lucid Air」が発表されました。
その後、中国メーカーのNIO(ニオ)や、理想汽車(リ・オート)、XPENG(シャオペン)、さらにはメルセデス・ベンツやボルボといった自動車メーカーが立て続けに空間オーディオ採用を発表。新興メーカーだけではなく、老舗メーカーも次々に参入しており、今後日本での展開にも期待されています。
車内には21個もスピーカーが
Dolby Atmos for Carsのデモ用に用意されたクルマに乗り込むと、たくさんのスピーカーが目につきます。今回のデモカーに使われているのはトヨタ自動車のミニバン「アルファード」で、3列シートの広い車内に21個のスピーカーを装備し、7.1.6chのサラウンド環境を実現しています。
ひとつずつスピーカーの位置を確認していきましょう。まず、運転席と助手席周辺には、センタースピーカーとその左右にフロントスピーカーが配置。後部座席には、後部座席の両リアドアにサラウンドスピーカー、3列目の座席には、サラウンドバックスピーカーを搭載しています。
上記3種類のスピーカーはすべて30mm径ツイーターと170mm径ウーファーがセットになっており、ユーザーとの多少距離は異なりますが、それぞれ近い位置に配置されています。
天井スピーカーはフロントハイト(運転席・助手席のサンバイザー下に各1基)、ミドルハイト(両リアドア上に各1基)、リアハイト(トランク上に2基)が備わっており、すべて50mm径。
サブウーファー(250mm径)は、トランク部分に設置されていました。ふと「荷物をこの上に置いてしまってもいいのかな」と思い、聞いてみたところ「音に影響はあるとは思う」とのこと。
現在海外で販売されているAtmos対応車のサブウーファーの位置は、メーカーによってそれぞれ違うといいます。今回はデモカーであるため、今後Atmos対応車が国内で販売されたとき、サブウーファーの位置には注目したいところ。
「計21カ所のスピーカーが車内に搭載されている」と聞くと、その分車内が狭まり、圧迫感があるのではないかと思うかもしれません。しかし、ほとんどが壁や天井に埋め込まれていることや、出っ張っているものが30mm径ということもあり、通常のアルファードに乗ったこともある筆者としては、圧迫感などは感じませんでした。
車内で立体音響、すごさに言葉が出てこない……
Dolby Atmos for Carsは、車に搭載されているスピーカーシステムに合わせて2種類の再生ソリューションを用意しています。ひとつめが7.1.6chのスピーカー(計21個)をすべて使った、天井スピーカー“あり”車両向けソリューションの「Configuration A」、ふたつめが天井スピーカーを使わない、天井スピーカー“なし”車両向けソリューションの「Configuration B」。
今回はその両方を体験しました。車はエンジンを切って停車した状態で、楽曲はApple Musicで配信されているものを使っています。2列目のシートが最適な環境になるようチューニングしたとのことで、2列目の席で聴いてみました。
まずはConfiguration Aで、Tiesto&Sevennの「BOOM」を試聴。四方八方から立体的な音を楽しめるのはもちろん、まるで音が自分の周りを駆け回るようで、前後左右の移動感が分かりやすく、臨場感があって楽しかったです。
続いて同じ曲をConfiguration Bで体験。天井スピーカーがオフになって天井からの音が減り、上方向の立体感は薄まったものの、移動感は横方向だけではなく満足度十分。Configuration Aを先に聴いていなかったら100点満点をつけていたと思います。
その後、Configuration Aで、「John Williams in Vienna」に収録されている「帝国のマーチ(『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』から)」を聴いてみました。想像以上に臨場感たっぷりの音に驚き、言葉が出てきません。こちらは音の移動感を楽しむというよりも、目の前でオーケストラが演奏しているような没入感が楽しめました。アルファードの心地良い感触の座席も相まって、目を閉じれば「ここ、コンサートホール?」と本当に錯覚してしまうレベル。
最後に、映画の一場面も視聴。映像自体は当然小さい画面でしたが、音響は映画館やホームシアター環境に近いクオリティで、車内での映画鑑賞がまったく違った印象になります。映画における音響の重要性についても再認識しました。
なお、今回は2列目の席で聴きましたが、座席の位置によって立体音響の感じ方には差があるそうです。既に海外で販売されているものには「どの座席を最適な環境にするか」を個人が選べる仕組みもあります。
今後、EVの充電時間や子どもを迎えに行った待ち時間など、これまで「この環境で映画を見るにはもったいない」と映画を見てこなかった人も、音響の進化で停車時間が画期的に楽しくなりそうだと感じました。