ベネッセコーポレーションの社内シンクタンク、ベネッセ教育総合研究所は2022年3月に、首都圏に住む0歳6か月〜6歳(就学前)の乳幼児をもつ保護者4,030名を対象に「第6回幼児の生活アンケート」を実施した。

1995年、2000年、2005年、2010年、2015年の実施に続き6回目となる同調査。少子化や共働き世帯の増加などの社会環境の変化の中で、子どもの生活や、保護者の子育ての実態や意識がどのように変化したのかを、27年間の比較を通して明らかにしている。

  • 図1-1 子育てへの肯定的な感情(経年比較)

2015年から2022年にかけて、子育てへの肯定的な感情は減り、否定的な感情が増えている。肯定的感情の比率はどの項目も高いものの、いずれの項目も前回から5ポイント以上も下がっている。

  • 図1-2 子育てへの否定的な感情(経年比較)

一方、母親の子育てへの否定的感情は増えている。特に、「子どものことでどうしたらよいかわからなくなること」は13ポイント増、「子どもを育てるためにがまんばかりしていると思うこと」は約20ポイント増と、前回に比べて大幅に増加した。

  • 図1-3 子育てへの否定的な感情(母親就業別 15・22年比較)

なかでも、働いている母親の育児負担感(「子どもを育てるためにがまんばかりしている」「わずらわしくていらいらしてしまう」)や育児不安感(「子どものことでどうしたらよいかわからない」)の上昇が顕著で、従来高かった専業主婦との間の差が縮まり、5ポイント以上の差はみられなかった。

  • 図1-4 3歳児神話(経年比較)

子育て観の項目をみると、「子どもが3歳くらいまでは母親がいつも一緒にいたほうがいい」と回答した比率は徐々に減り、2022年では44.9%と半数を切った。一方、「母親がいつも一緒でなくても、愛情をもって育てればいい」は55.1%となり、母親の子育てに対する役割意識が変わり始めている。

  • 図1-5 子育てと自分の生き方(経年比較)

2005年以降、「子どものためには、自分ががまんするのはしかたない」は増えていたが、2022年では「子育ても大事だが、自分の生き方も大切にしたい」が増えている。

  • 図1-6 子育てと自分の生き方のバランス(母親就業別 15年・22年比較)

特に、専業主婦において「自分の生き方も大切にしたい」という意識が高まっており(44.5%→60.2%)、母親の就業形態による差は縮まっている。

  • 図2-1 しつけや教育の情報源(人)(経年比較)

「しつけや教育の情報を誰から得ていますか」に対して身近な人と回答した比率は、2015年に比べて減っている。

大幅に減少した項目は、「母親の友人・知人(72.0%→36.0%)」「(母方の)祖父母(43.1%→26.6%)」「母親のきょうだいや親戚(23.8%→13.0%)」であり、コロナ禍のため対面で会う機会が減り、子育てに関する情報が集めにくくなっていると考えられる。

また「子育てサークルの仲間」「園の先生」も減少しており、情報交換や相談をする機会が減っていることがわかる。

  • 図2-2 家を空ける時、子どもの面倒をみてくれる人・機関の有無(経年比較)

母親が家を空ける時、子どもの面倒をみてくれる人・機関が「いる(ある)」と回答した比率は、7年前に比べて約15ポイント減少した(78.0%→62.3%)。

  • 図2-3 家を空ける時、子どもの面倒をみてくれる人・機関(経年比較)

特に、「祖父母や母親のきょうだい、親戚」が減っている。また「保育園の一時預かりや幼稚園の預かり保育」の利用も減っている。

面倒をみてくれる人・機関が全体的に減少するなか、「父親」と回答した比率は増加(65.7%→82.0%)。核家族中心に子育てせざるを得なくなっている状況がうかがえる。

  • 図3-1 子育てへの不安(低年齢児・就園別22年)

1歳6か月〜3歳11か月の未就園児がいる母親は、「子どものことでどうしたらよいかわからなくなること」に対し「よくある」と回答した比率が、保育園児の母親より4.6ポイント高くなっている。

  • 図3-2 将来への不安(低年齢児・就園別22年)

「子どもが将来うまく育っていくかどうか心配になること」も同様に、未就園児の母親のほうが「よくある」の比率が高く、保育園児の母親とは7.7ポイントの差が生じている。未就園児がいる母親は、より困難を抱えていることがわかる。

  • 表3-1 しつけや教育の情報源(人)(低年齢児・就園別 22年)

子どもの就園状況別に、誰からしつけや教育の情報を得ているかをみると、低年齢の保育園児がいる母親は「園の先生」が54.2%と一番高くなっている。

他方、未就園児がいる母親は「あてはまるものはない」が一番高く、保育園児の母親の回答率とは10.7ポイントの差がみられる。

なお。今回の調査結果について、白梅学園大学 名誉教授 無藤隆氏は以下のように考察している。

本調査は2022年3月に首都圏の乳幼児をもつ保護者(母親)に対して行われた。その時期はコロナによる自粛が続いていた頃であり、幼稚園・保育所などもかなり学級閉鎖や登園の自粛が広がっていた時期である。
 
おそらくその時期の特徴が今回の結果に反映されているが、同時に時代的なトレンドの現れの面もある。保育所の就園率が急速に上がっていることと、高学歴化が進行していることも影響しているはずである。
 
母親の育児への否定的感情が増し、肯定的感情が減ってきている。特に未就園(1歳6か月〜3歳11か月)の子どもがいる場合にそれが大きい。また助けてもらえる相手が祖父母や友人が大幅に減り、父親が中心となっている。
 
そのことは子育てが核家族として進める状況にあるということと、園にいろいろな点で頼ることが増えてきていることを意味するだろう。他の項目などを見ても園への期待が高まっている。
 
子どもを園に預け、園からの情報を(ネットからの情報とともに)頼りにし、さらに園での幼児教育を重視するようになった。就業形態・専業主婦を問わず、子育てと自分の生き方の両立を図ることが主流になってきており、子どもを大事にしつつも、その子育ての時期は長い人生の一部としてとらえるようになってきたのではないだろうか。