芋焼酎「黒霧島」などでおなじみの霧島酒造が、気候変動対策にかける想いと取り組みが、熱い。2030年度までに工場・事務所のCO₂排出量を実質ゼロにするという目標を掲げ、このほど、その実現に向けた具体施策をまとめたアクションプラン「霧島環境アクション2030」を発表。“さつまいもをエネルギーに変換して100%循環させる”という壮大な構想と、その具体的な取り組みをのぞいてきた。
“さつまいも由来の副産物”をエネルギーに変えて、100%循環を目指す
1916年に創業された霧島酒造は、看板商品の「黒霧島」を筆頭にした本格焼酎をはじめ、クラフトビールやスピリッツなども製造する老舗の酒造メーカーだ。宮崎県都城市に本社と工場を置き、一升瓶25度換算で年間約5,000万本分もの焼酎を製造している。この焼酎造りに使われるさつまいもは年間約10万トン、これは国内で使用されるさつまいもの7分の1の量にもなるという。
「焼酎の原料となるさつまいもは“天恵”、焼酎粕(かす)や芋くずは廃棄物ではなく“宝”です。焼酎造りから生まれるすべてのエネルギーを無駄にしないという思いから、霧島酒造の“さつまいものリサイクル活動”が始まりました」(代表取締役専務 江夏さん)
焼酎粕はそれまでも堆肥として地元の生産農家に還元していたが、2006年に鹿島建設との共同研究により、焼酎粕や芋くずなどさつまいも由来の副産物からバイオガスを発生させる「焼酎粕リサイクルプラント」を本社工場エリアに建設したことで、本格的なリサイクル活動が始まった。
2012年に工場のボイラー燃料としてバイオガスの利用を始め、2014年にはバイオガスによる発電施設を「サツマイモ発電」と名付けて発電事業を開始。蒸留設備の熱源に活用するほか、九州電力にも売電している。2018年には志比田工場エリアに焼酎粕リサイクルプラントを増設し、見学もできる「KIRISHIMA ECO FACTORY」としてオープン。この工場を含む体験型の直営施設「焼酎の里 霧島ファクトリーガーデン」内のベーカリーでは、焼酎粕(焼酎モロミ)を使ったパンも製造販売している。
「焼酎モロミはパンやピッツァの原材料に、焼酎粕は堆肥に姿を変えて地域の畑の栄養に、焼酎粕や芋くずから生まれるバイオガスは燃料に。『サツマイモ発電』ではバイオガスから電気を作って、工場やEV(電気自動車)の電力として活用しています」(江夏さん)。
そして2021年11月、「2030年度までに工場・事務所のCO₂排出量実質ゼロ」を宣言。先ごろ発表された「霧島環境アクション2030」では、CO₂排出量実質ゼロの具体策として、「気候変動対策」と「自然環境保全活動」の2つの軸を掲げている。
2030年までにCO₂排出量実質ゼロ-その具体的な施策とは
「気候変動対策」に向けた主な取り組みとして、昨年4月より、都城市内の焼酎メーカー2社から焼酎の製造工程で出る焼酎粕を受け入れ、発生するバイオガスを有効利用。また9月にはさつまいもの保管や流通加工業務を受託しているニチレイロジグループ本社との協働運用を開始。流通加工業務の過程で発生する芋くずを、霧島酒造のリサイクルプラントに搬入してバイオガスを生成し有効利用している。
今後は、バイオガスの熱利用を最大限活用し、サツマイモ発電エリアを拡張、温排水の有効利用で熱利用率を向上させるなどで、2030年までに“さつまいも由来のエネルギー”によってCO₂排出量の50%削減を目指す。残りの50%は再生可能エネルギーの調達を含めて検討しているという。
「カーボンニュートラル実現目標は2050年ですが、我々は世界の先進企業が掲げている2030年を目指します。大自然の恵みなくして焼酎造りはできないからこそ、さつまいもを捨てずに使い、100%循環させていく。これからも自然環境と調和し、地域社会と共生していくためのアクションを続けていきます」(江夏さん)
畑で採れたさつまいもが焼酎になり、残った焼酎粕や芋くずはリサイクルプラントでエネルギーや堆肥となり、その堆肥がまかれた畑が地球温暖化ガスを吸収する。この循環サイクルを、霧島酒造は「SATSUMAIMO CYCLE(サツマイモ・サイクル)」と呼ぶ。老舗の酒造メーカーが本気で取り組む先進的なアクションに、これからも注目したい。