NTT東日本では2022年5月より、調布市にあるNTT中央研修センター内に「NTT e-City Labo」を開設し、法人の見学ツアーを受け入れている。そして10月からは、修学旅行生の受け入れも開始。学生のSDGs教育に最適な教材がそろっており、学校関係者にも好評だという。
修学旅行のコーディネートを務める日本旅行の担当者は「SDGsや進路というテーマで見学先を探している学校にマッチするものとして提案している」と言う。今回は、新潟県立村上高等学校の2年生たちによる、同施設の見学ツアーの模様を取材したので紹介したい。
地域循環型社会の実現へ
本施設では、地域の課題解決に向けてNTT東日本グループが取り組んでいるソリューションを体験できる。その守備範囲は広く、ローカル5G、次世代農業、スマートストア、陸上養殖、再生可能エネルギー、ドローン、eスポーツ、文化芸術など、多岐にわたる分野をカバーしている。
村上高校の生徒たち146名は複数の班に分かれ、順番に施設を見学していった。
屋外施設の「都市型バイオガスプラント」は、食べ残しなどを活用してエネルギーや肥料を作ることのできる超小型の施設。省スペースのため、施設の敷地内に設置できる。NTT東日本グループでは本施設を通じて、循環型エコシステムの実現を目指しているという。
「最先端農業ハウス」では、ローカル5G、4Kカメラ、自動走行ロボットなどを活用して遠隔農業支援を実現する。例えば、作物の生育状況をリアルタイムで農業専門家に見てもらい、スマートグラスを通じてアドバイスをもらえば、栽培未経験者でも安心して農業に従事できるそうだ。
「陸上養殖プラント」は、ICT×水処理技術を用いたベニザケ養殖の取り組み。本来は川で生まれ、海で成熟し、再び川に遡上して産卵するベニザケだが、先端技術を活用したスマート陸上養殖により、稚魚から成魚になるまで一貫して陸上の水槽で養殖することが可能になった。
このほか屋内のブースでは、ドローンを飛ばすデモも行われた。農薬散布、カメラと組み合わせた測量点検など、さまざまな活用方法により地域の課題を解決していくドローン技術。生徒たちはその安定した飛行性能、リアルタイムで送られてくる高精細な映像などに驚きの声をあげていた。
「スマートストア」は、働き手不足の解消と売上の向上を両立する次世代型店舗。実際に施設内で使われている無人運営店舗(Grab and Go型ストア)にて購買体験のデモが行われると、生徒たちも強く興味を示していた。
生徒たちの反応は?
施設見学を終えたところで、引率する同校教員の田島氏、および生徒を代表して田中さん、高橋さんに話を聞いた。
施設の印象について聞くと、田島氏は「世間では盛んに『SDGs』が言われていますが、普段、子どもたちが暮らす生活圏内では実感しづらい部分もありました。でも今回、施設において実際にさまざまなSDGsの取り組みに触れることができ、これまでの学びとつながったのではないかと思います。スマートストアをはじめ、子どもたちが今後、興味を持ちそうなものを体験できたのも嬉しかったです」と答えた。
ちなみに村上高校では1年生のときに村上市が抱える地域の課題を学び(SDGsの17項目と照らし合わせて考え)、2年生になると校外学習でより実践的な知識を身に付けていくという。
印象的だった施設について、田中さんは「どれも素晴らしかったんですが、イチバン印象に残ったのは都市型バイオガスプラントです。食品廃棄物を無駄にしないためにどう応用していくか、という施設でしたが、その背景には『食品廃棄物が多い』という問題に加えて『日本の食料自給率が低い』という問題もあると思うんです。担当の先生も、この2つの課題を解決していくことが必要だと仰っていました。これからの時代に必要なのは、広い視野を持って課題解決に取り組んでいくこと。SDGsの問題と絡めて学習することができました」。
また、高橋さんは遠隔からフルオートでベニザケ養殖できる取り組みについて「これから地球温暖化が進んで食糧難の時代が訪れたときに、漁業に携わっていない専門外の人でも養殖に携わることができるのではないでしょうか」と関心を示す。
学校のある新潟や、生活する地域の周辺で実際に導入できそうな取り組みはありましたか、そんな問いかけに高橋さんは「私が住んでいる地域は過疎化が進み、高齢者が増えています。電車の本数は少なく、周囲は山です。そんな場所ですから、買い物が困難だというお年寄りが少なくないので、ドローンで配達してもらえたらとても便利だろうな、と感じました。これはSDGsの『住み続けられるまちづくりを』ということにもつながるのかな、と思います」と応じる。
そして田中さんも「小・中学校の頃、給食の残飯が非常に多かったんです。でも、あれがそのまま廃棄されていることについて、あまり考えたことはありませんでした。そこで先ほども挙げましたが、バイオガスプラントを活用できたら、と。学校にも導入すれば、持続可能な社会に向けてより強い対策ができるのかなと思います」と回答してくれた。
ツアーに参加してみて、SDGsに対する意識は変わるだろうか。そんな質問に、田中さんは「はい」とうなずき、次のように話してくれた。
「今回、いろいろな取り組みを見学させてもらいました。地域にはどういう課題があるのか、その原因までしっかり探ったうえで、先進的な技術を応用していけたら良いと思います。今後は国内だけでなく、海外にも発信していけたら、という視点も持てました。やっぱり、どういう人が困っていて、具体的に何が必要とされているのか、それをしっかりと学んでいくことがSDGsの課題解決に向けて重要になってくるのかな、と思います」。
最後に改めて教師の立場から全体の感想を田島氏に尋ねた。
「子どもたちが熱中しそうだな、と思ったのはスマートストア、あるいは5Gなどの取り組みでした。今後、生徒のなかにはこちらの分野で頑張っていきたい、と考える子も結構いるのではないかと思います。高橋さんの住んでいる地域は新潟県の県北、あまり人口も多くないところ。ドローンが使えたらもっと住みやすい地域になるのに、という意見もありました。
先進的な技術やサービスはどうしても都市部で展開されるケースが多いでしょうが、将来、彼らが成人し、そうした技術を地元に持ち帰ってくれると、地域活性、地域創生できるのかなぁと想像します。『将来、こういった分野で頑張ってみたい』といった意識を育成するため、進路指導担当としてさまざまな試みをしてきましたが、今回の見学を機に多くの生徒が『この最先端の分野で仕事をしてみたい』という意識を持てた気がします。それくらい、いろんなヒントがありましたね」(田島氏)。
今後のNTT東日本に期待することを聞くと「私もだんだん、人口が減少している村上市が地元です。NTT東日本さんには本日見聞きした『先端技術の取り組み』を地方に導入してもらって、地域活性といいますか、地元の人たちの元気が出るようなことをしてもらえたらと期待したいです」。
生徒に響く案内を目指して
続いて、今回のツアーで施設を案内したNTT東日本 経営企画部 営業戦略推進室の下野このみ氏にも話を聞いた。
同氏によれば、法人組織は平均して1日3件の訪問があり、この半年間でのべ300ほどの企業が施設を訪れたという。一方で修学旅行生は、村上高校が3校め。現在のところ、年度内に10校ほど(約700名)の予約が入っていると明かす。
「法人と学生では、見学ツアーも別の見せ方をしています。例えば学生さんには楽しんでもらえるよう、デモ体験を多く取り入れています。また後から振り返り学習ができるように、イラストを交えたパンフレットも用意しました」と案内をするうえで気を付けていることについて語った。
学生たちの反応について聞くと「地方からいらっしゃる生徒さんが多いんですが、私たちの事業も地方を活性化していくことに力を入れています。そのため、NTTの取り組みに非常に共感いただけていますね。例えば、先ほどの生徒さんも仰っていましたが、住んでいる地域では過疎化が進んでいる、だからこの技術を地元にも取り入れたい、そんな風に”自分ごと”にして考えてもらえています。学校を卒業したら地元で頑張るんだ、地方を元気にしていくんだ、そんな思いが強い生徒さんに強く響く展示になっていると思います」。
どんな施設にしていきたいか、今後の展望について聞くと「ツアーで見学したら終わり、という一過性ではなく、今後は『ここに来ると、いつも何か新しいアイデアが思い浮かぶよね』というような施設にしていけたら良いですね。入居企業と連携してオープンイノベーションを生み出すのも良いでしょう。何かを一緒に作り上げていく”共創”の場にしていきたいという思いがあります」。
地域連携については「すでに近隣のドルトン東京学園さんと連携協定を結んでおります。弊社のスマートストアを学校内に導入してもらい、生徒さんたちが運営しているんです。あとはシルバー人材派遣と連携してセカンドキャリアで利用いただくようなことも考えています。このように地域と共に、幅広くご利用いただける施設にしていければ良いですね。SDGs関連では、養殖プラント、農業ハウスの拡張なども進めています」と今後の展望について下野氏は話してくれた。