みなさま~、本日は「埼玉県こども動物自然公園」へお越しいただき、ありがとうございます。向かって左手をご覧ください。低木が多く、草も多く生い茂っています。では、次に右手をご覧いただけますでしょうか。低い樹木が少なく、緑がまったくないですよね。なぜ、このように違うのでしょうか?

埼玉県こども動物自然公園にある、シカのいる森(右)といない森(左)の比較展示。園内の谷をそのままシカの飼育スペースにし、谷の真ん中に移動防止柵を設置するというシンプルな展示ですが、「野生鳥獣による森林被害の約7割は、シカによる枝葉の食害や剥皮の被害」と言うのがよくわかる。

  • (Twitter 郡司芽久(キリン研究者)@AnatomyGiraffe より引用)

そう、答えは鹿がいるか、いないか。左右のスペースで鹿の往来をなくしたところ、森林環境に大きな差異が生じました。それにしても、こんなに端的に違いが出るものなのですね。

日本における野生鳥獣による森林被害面積は約5,700ヘクタールで、そのうち鹿による被害が約73パーセントを占めているというデータ(2020年度)もあります。写真を見るとデータが実感を持って伝わってきます。キリン研究者である 郡司芽久さんの投稿に、フォロワーたちの反応も様々でした。

「緑がぜんぜんちゃう…」「丹沢はこんな感じらしい」「かなり衝撃的」「捕食する存在が無いと増える一方ですね」「鹿居たら食害で右の状態の山ばっか」「植林した幼木も食われかねんからな…」と鹿による被害を案じる声が多く寄せられる一方で、「人間がいる地球と人間がいない地球も比較展示しないとアンフェアな気がする」といった人間の行いに言及する意見も。投稿者である 郡司芽久さんにお話を伺いました。

■投稿者に聞く

……この森はどこにあるのでしょうか。

埼玉県こども動物自然公園の東園側にある「コバトンロード」という散策路にあります。

……この森を実際に見た時の感想は?

鹿の食害が大きな問題になっていることは知っていましたが、たった数頭を飼育するだけでこんなにも大きな差がでることに驚きました。

……鳥獣被害に思うことは?

森の木々が減っていくと、森を利用する多くの動物たちの棲家がなくなってしまうだけでなく、土砂崩れが起きやすくなるなど、私たちの日常生活にも悪い影響が生じます。鹿が増えすぎても良くないですし、減りすぎてもやっぱりまた別の悪い影響が出るでしょう。「何頭くらいの鹿が生息しているのが一番良いのか? 」といったことを研究している方々がたくさんいらっしゃるので、そう遠くない未来、鹿とヒトがうまく共存できるようになることを願っています。

……印象的だったリプライや引用ツイートはありましたか。

埼玉県こども動物自然公園を訪れたことがある方から「素晴らしい展示なんだけれども、奥まったところにあるのでほとんど人が来ていない」という引用ツイートがありました。私が行った時も、園内にはたくさんの人がいましたが、このゾーンでは1組の親子とすれ違ったくらいでした。展示はもちろん、野鳥の声や木漏れ日が心地よい素敵な散策路なので、もっと多くの方に見てもらいたいなぁと私も思います。

▼埼玉県こども動物自然公園にある、シカのいる森(右)といない森(左)の比較展示。園内の谷をそのままシカの飼育スペースにし、谷の真ん中に移動防止柵を設置するというシンプルな展示ですが、「野生鳥獣による森林被害の約7割は、シカによる枝葉の食害や剥皮の被害」と言うのがよくわかる。