就活になると、「自分のやりたいことってなんだろう」「やりたいことやりたいけど自信がない」と自分の「やりたいこと」で悩む人も少なくないようです。

そんなときどうすればいいのか? 『やりたいこと、全部やりたい。』(アスコム)の著者で、エシカルやSDGsが広まる前から、インドの小さな村でアクセサリー開発に着手し「MAYGLOBE by Tribaluxe(メイグローブ バイ トライバラクス)」を立ち上げ話題となったという、立花佳代さんに聞いてみました。

やりたいことのハードルを上げすぎ問題

就活などの人生の分岐点で「やりたいこと」で悩む人の相談を受けて思うのが「やりたいこと」と聞いて、小さいころからの「夢」や「趣味」を思い描いている人が多いように感じます。じゃあそれに少しでも関われる仕事はなにかと考えて「どうしよう」ってなっている。

もちろん、「夢」をかなえるために努力することは素晴らしいことですし、「趣味」を仕事にすれば、それは楽しいことも多いでしょう。

それが実際に行動に移せるのなら、移した方がいいと思います。しかし、そういった「夢」や「趣味」を仕事にするには、ハードルが高い場合が多いように見受けられます。悩んでいるなら、なおさらそのハードルに対して尻込みしているケースが多いのではないでしょうか。

その実現に対して、今すぐ行動に移せないのであれば、そういった昔からの「夢」や長年の「趣味」にとらわれないほうがいいのでは? 当たり前ですが、行動を起こさない限り、実現しないからです。

私はよく、まわりの人たちから「やりたいことを仕事にしていいですね!」と言われます。アクセサリーメーカーを立ち上げ、インドの郊外にある小さな村に、小さいながらも自社工場を建て、伝統工芸技術を利用したオリジナルブランドを作っている。

プロフィールの字面だけを見ると、そのような印象を持つかもしれません。確かに、ファッションには昔から興味があり、今の仕事もとても楽しんで取り組んでいます。しかし、それが自分の昔からの「やりたいなこと」だったのか、「夢だったのか」というと自分でも首をかしげてうなってしまうところがあるのです。

もちろんファッションのトレンドなどはチェックしますが、毎日欠かさずファッション誌やWebサイトなどを読むことはなく、服やアクセサリーもたくさん持たず、「むしろ少ないほうじゃないかな?」と思います。

つまり、それほど熱烈に好きなことを仕事にしたわけではなく、実家がパンスト店だったことで、自分が商売を始めるときにも、自然と雑貨や小物やアクセサリーが選択肢に入ってきたという感じでした。

そうして実際に仕事をやっていくうちに、「これやりたいな」「あれもやってみたいな」という意欲が湧いてきて、「やりたいこと、やっている」と今では思うようになったのです。

「夢」や「趣味」=「やりたいこと」ではなく、「やりたいこと」のハードルを下げ、自分が少しでもやれそうかなと思う、ちょっとした好きなことや興味あることを探してみてはどうでしょう。

未来の後悔は考えなくていい

就活では、なんとなくここで、しっかりと考えてないと、後で悔やみそうという不安も「やりたいこと」で悩む原因かもしれません。

仕事の選択肢が格段に増えたいまの時代は、自分が「本当にやりたいこと」を第一条件として、仕事に求める傾向が強くなったようです。その意味では、とても幸せな時代になりました。一方、自分が「自分が本当にやりたいこと」を思いつくのは難しくありませんか?

ちょっとした好きなことや気晴らしのレベルなら、やりたいことはいくらでも思いつくでしょう。でも「本当にやりたいことを仕事にしよう」と当然のように考えることで、むしろ足が止まってしまう可能性もあると感じます。

自分の「本当にやりたいこと」は、そのまま手つかずのかたちで、どこかに用意されているものではありません。そうではなく「やれること」や「やらなければならないこと」に一生懸命に取り組むなかで、おのずと「本当にやりたいこと」が見いだされていくのだと思います。

いま「本当にやりたいこと」を探して悩むぐらいなら、まずは自分が「やれること」「やらなければならないこと」をがむしゃらに頑張ってみる。そうすれば、自分の道についても少し考えやすくなります。

つまり、働くことは「やりたいこと」を広げることにつながります。

もちろん自分の未来を考えることはとても大切ですが、必要以上に不安がらないことが大切ではないでしょうか。

まず考えることは「誰かを幸せにする」ことではなく「自分の幸せ」

また「やりたいこと」を考えるとき、「世の中に役立つ仕事」とか「社会的に認められる仕事」というような他人の視点を考えすぎないようにすることが大切だと私は考えます。

もちろんそれ自体は素晴らしいことですが、最近少し「社会貢献」という言葉に縛られすぎな人が多いのではないかなと感じます。

やはり人間ですから、他人からどう思われるかを少なからず意識しがちです。社会貢献という考え自体はとても素晴らしいものでしょうが、私は、そこに縛られる必要はないように思います。

もちろん他人の迷惑になるような仕事はするべきではないと思いますが、他人の幸せの前に考えるのは、自分の幸せでなければならない。

インドで自社工場を立ち上げた取り組みが、現地に雇用を生み出したということで、エシカル、SDGsという文脈で注目していただくことも最近増えましたが、やりはじめはそんなこと一切考えていませんでした。

ただ、私自身がインドの高い刺繍技術を使ったアクセサリーが欲しかったのです。「ならば、自分で作ってしまおう」そうして、いわば自分が楽しむために、ほかのどこにもない質の高いオリジナルのアクセサリーを作ることを思い立ち、それが小さな村に産業を生み出すことにつながりました。

自分が楽しめないことではないと、続かないですし、社会貢献なんて一朝一夕でできません。私の事業も商品が発売されるまでに5年近くかかりました。

自分が楽しめることでないと、続けることはできません。ですから、まずは社会貢献や社会のためにという意識は一度捨てて、自分が楽しめる、自分がこれなら続けられそうだということから選んでみてはどうでしょうか。

著者プロフィール:立花佳代(たちばな・かよ)

エシカルアクセサリーメーカー 株式会社スプリング代表取締役
2008年、インドの小さな村でのオリジナルアクセサリー開発に着手。約5年の苦労の末、2013年「MAYGLOBE by Tribaluxe」(メイグローブ バイ トライバラクス)を立ち上げた。著者に『やりたいこと、全部やりたい。自分の人生を自分で決めるための方法』(アスコム)など。