「どうしたら部下がやる気を出してくれるのか」と、悩んでいる上司・リーダーは多いのではないしょうか。上司・リーダーとして組織やチームを率いていくには、やはり部下の成長は欠かせませんよね。

アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど世界10カ国で20年のキャリアを積み、現在は「国際エグゼクティブコーチ」として活動するヴィランティ牧野祝子氏は、著書『国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織が劇的に変わる ポジティブフィードバック』で、ポジティブフィードバックの重要性と効果、具体的な方法を解説しています。

牧野氏は多国籍企業や世界的大企業のさまざまな分野で仕事をする中で、素晴らしいリーダーに出会ったといいます。彼らに共通していたのが、部下に「見ているよ」「認めているよ」とポジティブなフィードバックを行っていることでした。

そんな彼らと共に働いた経験をもとに、上司、コーチとして多くの人々を導いてきた牧野氏に、ポジティブフィードバックのコツの中からすぐにできる3つのコツを紹介いただきました。

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■ポジティブフィードバックは思いやりを言語化した良質なコミュニケーション

ポジティブフィードバックとは、「思いやりを言語化した良質なコミュニケーション」です。必要なときに相手を思って肯定的な言葉がけをし、良いところを見つけ出してこまめにフィードバックすることで、部下は仕事のやり方が明確になるだけでなく、効率的に高品質のアウトプットをすることが可能になります。

フィードバックとポジティブフィードバックは、似ているようで、実は大きく違います。 フィードバックとは、日常業務に関する意見や提案、報告・連絡・相談への反応や返事、結果・情報の伝達や行動の反省を促すことなどです。うまくいかなかったこと、改善すべき点にフォーカスして伝えるため、「フィードバック=批判されること」と認識している人も多いでしょう。

一方、ポジティブフィードバックは、相手の成長のために行う良質なコミュニケーション。相手の行動や存在、結果を「承認」したことを、肯定的な言葉で伝えます。相手の可能性を信じ、成長を第一の目的としているため、ポジティブフィードバックを受けた側が「大切に思われている」と感じ、お互いに前向きに進むことができるようになります。

■ポジティブフィードバック3つのコツ

「ポジティブフィードバックなんて、どうやればいいの?」とよくご質問をいただきます。著書 『国際エグゼクティブコーチが教える 人、組織が劇的に変わる ポジティブフィードバック』の中では、7つのコツをご紹介しているのですが、その中から、とりわけすぐにできる3つのコツについてお話しします。

1.承認と改善点の割合は『8対2』ネガティブはポジティブより少なくする

部下に伝わるポジティブフィードバックのコツは、「見ているよ」「認めているよ」などといった「承認」を伝える肯定的メッセージと「改善点」を伝えるメッセージは8対2の割合にするのが理想的です。

ポジティブフィードバックは、相手をポジティブにするために行います。しかし、部下や組織を成長させるためには、改善点を指摘し、どうしたらいいかを教えることも必要です。上司・リーダーとしては、「改善点」を伝えることばかりに注力してしまい、部下へのメッセージがネガティブになりがちです。そのため、相手をネガティブな気持ちにさせてしまいかねません。ですが、意識して伝え方を工夫することで、相手をネガティブな気持ちにせず、改善点を伝えることができます。

心理学の分野でも、ポジティブな言葉がけの効果は証明されています。ノースカロライナ大学のフレデリックソン博士と、世界中で「ハイパフォーマンスチーム」のコンサルティングをしている心理学者のロサダ博士が研究した結果によると、チーム内の言葉がけは、チーム全体のパフォーマンスに影響があるとされました。「ロサダ比率」によると、パフォーマンスの良いチーム、非常にパフォーマンスの良いチームのポジティブ対ネガティブの比率は、肯定的なフィードバックの割合が75~86%でした。つまり、フィードバックのうち全体の8割をポジティブが占めると、良い効果を発揮しやすいということです。

「8割もポジティブにするなんて難しい」と思うかもしれません。たしかに、部下が成長するには改善すべきポイントが山ほどあるでしょう。しかし、ネガティブなポイントを肯定的に伝えることで、メッセージはポジティブになります。意識するのは、伝え方なのです。

言い回しをポジティブにすることで、あなたのチームの業績はみるみるアップすることでしょう。

2.改善点は相手への期待と共に伝える

ネガティブになりがちな「改善点」を伝えるメッセージをポジティブにするには、「改善点」の裏にある「期待と承認」を前面に出すことです。改善点を指摘するということは、改善すべき箇所があるということ。つまり、その点を改善すれば相手が良くなるはずという、相手に対する「期待(像)」と相手のパフォーマンスの「現実」のギャップからくるものです。

上司やリーダーに意図はなくても、部下は上司に改善点を指摘されると自身を否定されたと捉えてしまうことがあります。「わざわざ」改善点を指摘するのは、相手が「できる」と信じているからですよね。なので、「改善点」を伝えるときは、「信じているよ。期待しているよ」「君ならもっとできると信じているよ」など、期待と可能性承認の気持ちも言葉にして一緒に部下に伝えましょう。

3.一緒に考えて、相手に答えを出してもらう

ポジティブフィードバックの目的は、部下が未来のためにポジティブに活動できるようになることです。

なので、部下を叱る前に、「なぜ、できなかったか」を「相手目線で一緒に分析」して相手に答えを出してもらいましょう。

改善点がある場合は、どのように改善すればよいかを一緒に考えることで、次に何をすればいいかがわかるようになることもあれば、部下自身がすでに持っている解決策を引き出すこともあります。

こちらから「〇〇して」と提案するより、相手から解決法を引き出したほうが、「自分で考えたアイデアだから」とより責任を持って取り組んでくれ、結果につながります。与えるだけでなく、部下の話を聞き、引き出すというポジティブフィードバックもあるのです。

15年ほど前にイギリスのメーカーで「社員1人ひとりの可能性を最大限に」というテーマで研修を受けたことがあります。チーム内で同僚や部下をコーチングするための手法を教えてくれました。当時の私にとって目から鱗(うろこ)だったのが、「チームメンバーや部下ができなかったときは、そのことを責めるのでなく、できなかった理由を(一緒に)探って、問題解決に向かって改善しましょう」というものでした。

うまくいっていない部下は、なぜできないのか、自分でも理由が明確でないことが多く、そのためになかなか改善できないことも少なくないので、「上司やリーダーは部下と一緒に玉ねぎの皮を1枚ずつはいでいくようにして理由を見つけ、それに対してさらなるフィードバックをすることで部下の背中を押すことができる」と講師が話してくれました。

理由がわかれば、やるべきことも見え、部下も頑張りようがあります。部下目線で一緒に考え、相手の考えを引き出すことにより、相手のモヤモヤが一気に晴れて、課題解決につながる。これもポジティブフィードバックなのです。

■想いを込めたポジティブフィードバックは「愛のギフト」

リモートで仕事をする機会が増えたことで物理的な距離もできてしまい、相手にどう思われているか、わかりづらいものがあります。上司・リーダーと部下という関係性は、なおさらでしょう。だからこそ、相手に思っていることを肯定的に伝えることはとても大切です。ちょっとした言葉でOKです。どんどん想いを伝えていきましょう。

想いを込めたポジティブフィードバックは、相手にとってもあなたにとっても「愛のギフト」。遠くない将来、何かが変わったことを感じるはずです。

ヴィランティ牧野祝子

国際エグゼクティブコーチ。東京生まれ。ミラノ在住。コロンビア大学、INSEAD(インシアード・欧州経営大学院)MBA 卒業後、国内外10カ国で、外資系の戦略コンサルタント、多国籍企業のマーケティング、新規事業の立ち上げ等、さまざまなキャリアを積む。リーダーとなり、文化、考え方、事情を持つメンバーが一緒に仕事をして結果を出すには、個々の良さを引き出し、最大限活用できる環境をつくることが必要だと考え、ポジティブフィードバックを実践し始める。現在は、独立し、国際エグゼクティブコーチ、企業研修講師、コンサルタントとして活動。ポジティブフィードバックを活用したコーチングが好評を博し、法人、個人問わず、グループ面談やセミナーなどを通じて年間約2000 セッションを行っている。最近は、企業から依頼を受け、経営者、リーダー等にポジティブフィードバックをはじめとするビジネススキルを伝授している。3児の母でもある。

『ポジティブフィードバック』(ヴィランティ牧野祝子 著/あさ出版 刊)

「リーダーが部下に伝えるべきことは何か?」と尋ねると、評価、注意、できていない(ネガティブな)ことの指摘と答える人は少なくありません。しかし、時代が変わり、部下が求めるもの、成長に必要なことが変わってきました。部下は、自分が会社や上司に対して「貢献できている」「成長している」と感じたときに、仕事へのモチベーションが最も高まります。つまり大事なことは、部下に対する「承認」です。本書では、世界10カ国でキャリアを積んだリーダーが、部下1人ひとりの強みを引き出し、成長させるポジティブフィードバック(FB)を使用した伝達法を指南します。