フジテレビが、また深夜に攻めた番組を放とうとしている。挑戦的な作品を発信するドラマ枠『火曜ACTION!』で、きょう17日(24:35~)にスタートする『City Lives』は、VFXを駆使した“新感覚モキュメンタリーSFドラマ”。不気味な雰囲気が覆う中で、随所にジワるネタも散りばめられ、実に不思議な感覚が味わえる作品だ。

  • 『City Lives』第1話 (C)フジテレビ

    『City Lives』第1話 (C)フジテレビ

■比喩ではなく「街は生き物」

このドラマは、「世界最大の生き物<街>の生態を調査する保護官に密着するドキュメンタリー」という設定。これだけでは意味不明だが、巨大生物<街>について事前に公開されている情報を整理すると下記の通りとなる。

・世界最大の生き物
・荒野を移動する
・人間の記憶を読み取って擬態する
・ビルなどが生えてくる
・人間そっくりの「擬態住民」が存在する
・番組に登場する<街>は、日本国内で確認されている中の1個体「E604」

今回登場する<街>に唯一の本物の人間として駐在する「都市型生物保護機構」(通称・都生保)の保護官・高城(広田亮平)に、ドキュメンタリー番組『Lives』のクルーが密着。同番組のナビゲーターは高嶋政宏(本人役)が務めている。

様々な顔を見せることや、常に変化し続ける姿に「街は生き物」と表現することは珍しくないが、比喩ではなく真面目に「生物」と捉えているのがこのドラマだ。

  • <街>に生えてくるビル (C)フジテレビ

■絶妙な小ネタで恐怖感を中和

巨大生物なので、高城への密着中に時折、遠くから低いうめき声のような音が聞こえてくる。<街>の“呼吸”の仕方やビルが生えてくる様子などは、VFXを駆使しているので妙にリアルだ。また、「擬態住民」とはコミュニケーションを取ることができず、まるでゾンビのよう。こうした要素が常に映し出されるため、とても不気味な気持ちで番組を見続けることになる。

こうしていると次第に恐怖感が募り、「実は自分が今いるこの街も、巨大な生き物なのでは…」と余計な想像をして、また恐怖が増していく。深夜にホラー感が強い番組と思われるかもしれないが、そこはご安心を。

「街に飲まれる」対策用のアイテムや、架空の映像や密着中に表示される「映像協力:都市型生物保護機構」「※特別な許可を得て立ち入り・撮影しています。」といったドキュメンタリー番組ならではのテロップ、高城に対して<街>が仕掛ける「地味な嫌がらせ」など、不気味な雰囲気にマッチした絶妙な小ネタが随所に配置されており、恐怖感を中和させる役割を果たしている。

よくよく考えると、高城が真面目に密着取材のインタビューに答え、何かを発見するたびに写真に記録する違法駐車の監視員のような姿も、だんだんシュールに思えてツボに入ってきた。

これはあくまで「ドラマ」なので、<街>の生態を紹介するだけではなく、ストーリーが展開される。取材が進む中、クルーたちは意図せずして、<街>が読み取った高城のある記憶と想いに触れ、淡々と仕事をしていたはずの彼に変化が現れるのだ。それまでの場面に、ヒントが隠されているのか――考察欲が出てくるタイミングで、次週の第2話に続く。

  • (C)フジテレビ

■“フェイク”番組豊作の中、より現実と錯覚

年末年始は、例年テレビ各局で様々な特番が放送されるが、2022~23年は“フェイク”な番組が豊作だった。超売れっ子の麒麟・川島明に密着したドキュメンタリーと言いながら、すべての顔をディープフェイクにして他人が演じた『カワシマの穴』(日本テレビ)、視聴者の保有するビデオテープを募集したという体で架空の番組『坂谷一郎のミッドナイトパラダイス』を流した『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』(BSテレ東)、30分間ポリスから逃げきれたら100万円という架空の“逃走中”的番組がトラブルに見舞われる『ここにタイトルを入力』(フジテレビ)、知られざる芸能人の“夜の顔”に迫るというフェイクドキュメンタリー『夜の顔』(同)といった具合だ。

上記はいずれもバラエティがベースだが、『City Lives』はフィクションであるドラマからのアプローチであるにもかかわらず、本格的なVFX技術によって緊迫感が生まれ、より現実と錯覚するような気分になってくるのが面白い。

原作・脚本・監督を務める針谷大吾氏と小林洋介氏は、動画コンテスト「BOVA」協賛企業賞、「SSFF & ASIA 2021」スマートフォン映画作品部門優秀賞、「文化庁メディア芸術祭 」エンターテインメント部門新人賞を獲得するなどの実績を持つコンビ。これらの受賞作品『スカイツリーの惑星』『Viewers:1』でもVFX技術は折り紙付きなので、リアルなフェイク映像で不思議な世界にぜひ没入してほしい。