第16回朝日杯将棋オープン戦(主催:朝日新聞社・日本将棋連盟)は、本戦トーナメント1・2回戦の6局が1月14日(土)・15日(日)に名古屋国際会議場で行われました。このうち、藤井聡太竜王は阿久津主税八段との間で行われた1回戦に93手で勝利。続いて行われた増田康宏六段との2回戦も169手で制してベスト4進出を決めました。本記事では藤井竜王―阿久津八段戦の模様をお伝えします。
青野流の定跡形
振り駒で先手となった藤井竜王は横歩取りのオープニングに誘導します。藤井竜王が近年流行の青野流の構えを取ったところで、後手の阿久津八段は早々に飛車交換を挑む指し方を披露しました。その後、取れる歩を取らずに角を自陣深くに引いたのが阿久津八段の選択で、前例の少ない局面へと突入していきます。
10手ほどのやり取りののち、盤上にできた両者の竜を交換で消し合ったのが阿久津八段の用意していた構想でした。これによって盤上は穏やかな流れに落ち着き、第二次駒組みに入ります。おたがい自陣に飛車を打ち込まれないよう気を遣う時間が続くなか、阿久津八段が7筋の歩を伸ばして藤井竜王の桂頭を狙ったことで局面が動き出しました。
阿久津八段好調の中盤戦
藤井竜王が苦心の自陣飛車を放って桂頭の弱点を守ったのに対し、阿久津八段は突き捨ての歩からたたきの歩の連続技を放って藤井陣を乱しにかかります。藤井竜王が局後「相当苦しいと思っていました」と振り返ったように、ここでの手筋によって藤井陣に飛車を打ち込めたのが大きく、局勢は阿久津八段有利となって展開していきます。
非勢を認める藤井竜王は1筋に角を成り込んで反撃を目指します。藤井竜王が6筋に桂を跳ねてこの馬で遠くの竜に当てたときに、阿久津八段の指した桂跳ねが味よい手に見えて結果的に緩手となりました。感想戦で両対局者が確かめたように、ここは単に竜を逃げてと金攻めを間に合わせる方針を採れば先手有望の戦いが続いていました。
藤井竜王が逆転で1回戦突破
急場をしのいだ藤井竜王は、先に作った馬を起点に盤面右方からの反撃に転じます。「寄せははがすことなり」の格言通りに執拗に桂を打って後手の金を狙ったのが基本に忠実な攻めでした。こうなってみると阿久津八段の玉型は6筋の金銀が玉の逃走を妨げる壁形として祟っています。要の金を奪うことに成功した藤井竜王は、最後は華麗な馬捨てで阿久津八段の玉を即詰みに討ち取って1回戦突破を決めました。
藤井竜王はこのあと行われた2回戦で増田六段と対戦。角換わり腰掛け銀の定跡形から一度は非勢に陥るものの、驚異的な玉さばきで増田六段の猛攻をかわしてギリギリの逆転勝利を果たしました。ベスト4に進出した藤井竜王は準決勝で豊島将之九段と顔を合わせます。
水留啓(将棋情報局)