昨年12月にポール・バトラー(英国)を11ラウンドKOで下しバンタム級「4団体世界王座統一」を果たした井上尚弥は、2023年から新たな闘いに挑むことになる。1階級上げてスーパーバンタム級の扉を開くのだ。

  • 2023年、”モンスター“井上尚弥はスーパーバンタム級で王座を目指す(写真:PXB)

まず目指すは世界4階級制覇。さらにその先に、2階級における「4団体世界王座統一」を見据える。史上初の快挙に向けて井上陣営が描く青写真とは? そして井上尚弥が、いま闘いたい相手は?

■闘いたい選手は4人いる

「4本のベルトを返上します。2023年は一つ階級を上げてスーパーバンタム級への挑戦をしていきたい。体格ではバンタム級が適正ですが、この階級でやり残したことはない、もう闘いたい相手もいない。高いモチベーションを保つために、階級アップを決意しました。
ここから先が本当の闘いになる。どこまでやれるのか、いまはワクワクしています」

1月13日、横浜シェラトンホテルで開かれた記者会見。所属ジムの大橋秀行会長、父でありトレーナーの井上真吾氏とともに登壇した井上尚弥は、冒頭にそう話した。

その後、メディアからの質問に答える中で、次のように言葉を続けている。
「プロデビューした頃には、バンタム級で闘う自分がイメージできませんでした。でも当時、大橋会長に言われたんです。『後々には、バンタム級で闘うことになる。その時に一番力が発揮できる』と。だからバンタムはドキドキしながら闘えた階級でした」
「バンタム級で4団体の王座を統一するのに、4年8カ月かかりました。スーパーバンタム級でも本当にアジャストして闘えるようになり結果を残すには、それくらいの年月が必要かなと考えています。スーパーバンタム級が、おそらく(ボクシング人生の)最終章。大橋会長はフェザー級でも…と言ってくれますが、自分の中にそれはありません」

「スーパーバンタム級でも4団体王座統一が目標。2階級での4団体王座統一を果たした選手は、これまでに一人もいない。だから達成したい。4月に30歳になるが、反応も含めた肉体的部分はまだまだ向上しているので自分の今後が楽しみです」
「(次の試合は)スーパーバンタム級のトップ戦線にいる誰かとやれればいい。この階級はタレント揃いなので、どの選手と闘っても面白い。まだ交渉過程なので敢えて名前は言いませんが、闘いたい選手は4人います」

  • 井上尚弥、スーパーバンタム級初戦の相手は誰か? “無敗の野獣”ライース・アリームが名乗り─。

    記者会見でメディアからの質問に答える井上尚弥。新たな闘いを前に瞳を輝かせる(写真:PXB)

■アリームが挑戦表明

最後のコメントが気になった。
井上が闘いたい選手とは誰か?
スーパーバンタム級の2人の王者が、まず挙げられよう。
ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン/WBAスーパー&IBFスーパーバンタム級王者、11戦全勝<8KO>)と、とスティーブン・フルトン(米国/WBC&WBO同級王者、21戦全勝<8KO>)。

次いで、2人のトップランカー。
ライース・アリーム(米国/元WBA同級暫定王者、WBO同級1位、20戦全勝<12KO>と、アザト・ホバニシャン(アルメニア/WBA同級1位、WBC同級2位、24戦21勝<17KO>3敗)ではないか。

ほかにもスーパーバンタム級には、話題に事欠かないスター選手もいる。
ルイス・ネリ(メキシコ/元WBC同級王者、34戦33勝<25KO>1敗)、かねてから井上を挑発しているゾラニ・テテ(南アフリカ/WBO同級3位、IBF同級6位、34戦30勝<23KO>4敗)。
国内に目を向ければ亀田和毅(日本/WBA同級2位、42戦39勝<21KO>3敗)もいる。ここにバンタムから階級を上げる“因縁の相手”ジョンリル・カシメロ(フィリピン/元WBOバンタム級王者、36戦32勝<22KO>4敗)を加えてもいい。

だが、正統派の井上は実力重視で闘いたい相手を選んでいるはずだ。ならば、アフマダリエフ、フルトン、アリーム、ホバニシャンの4人となろう。

  • 記者会見後、返上する4本のベルトを両腕に吊るし笑顔を浮かべる井上尚弥(写真:PXB)

さて、2023年の井上尚弥のファイティングロードだが、会見で大橋会長は「調整中です」とだけ口にした。さまざまな交渉は行っているが、まだ発表できる段階にはないとの意だろう。加えて、状況の変化も見ていかねばならない。
現時点ではフルトン、アフマダリエフ両王者と井上がダイレクトで対峙するのは難しい。 フルトンは2月25日、2年前に激闘を演じたブランドン・フィゲロア(米国)と再戦を行うことになりそう。一方、アフマダリエフもIBFから命じられたマーロン・タパレス(フィリピン)との指名試合に合意している。

それでも、井上が階級アップ初戦でタイトルマッチに挑む可能性はある。
なぜならば、フルトンvs.フィゲロアがWBC世界フェザー級暫定王座決定戦として行われるからだ。この試合の勝敗にかかわらずフルトンは階級を上げることになろう。となれば、WBCとWBOのスーパーバンタム級王座は空位となる。
井上は、前回のポール・バトラー戦で勝利した際にWBOから階級アップと同時にスーパーバンタム級1位にランクされることを確約された。よって、現時点でトップランカーのライース・アリームとの間でのWBO王座決定戦が行われるのではないか。

すでにアリームは、井上と闘いたい旨をメディアに語っている。
「イノウエは真のチャンピオン、他のチャンピオンとは違う。誰からも逃げることなく果敢に挑んできた。ならば私とも闘ってほしい。無敗同士、どちらが強いか決めようじゃないか」
アリームは“ビースト(野獣)”のニックネームを持つ32歳のパワーファイター。相手と激しく打ち合うタイプで井上ともファイトスタイルが噛み合う。技術的には井上が上だと思うが凄絶な倒し合いは必至だ。
井上尚弥のスーパーバンタム級初戦は春か初夏、ライース・アリームとの対峙になると私は予想している。

文/近藤隆夫