第81期A級順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)7回戦は糸谷哲郎八段―菅井竜也八段戦が1月11日(水)に関西将棋会館で行われ、151手で菅井八段が勝利しました。この結果、今期成績は勝った菅井八段が5勝2敗、敗れた糸谷八段が1勝6敗となりました。
菅井八段の中飛車
先手となった菅井八段は得意の5筋位取り中飛車に構えました。両者の銀が6筋でにらみ合う「銀対抗」の形を作ったのち、菅井八段は5筋の歩を突いて歩交換に出ます。交換で手にした歩をすぐに敵陣近くの四段目に垂らして糸谷八段の動きをけん制しました。おたがいに想定済みの進行だったか、このあたりは速いペースで指し手が進んでいきます。
糸谷八段が右金を寄せて自玉を引き締めたとき、菅井八段は7筋の歩を突いて戦いを起こしました。放置していては5筋に飛車を回って逆襲されると見た急戦策で、この手によって菅井八段は1年前に指した自身の前例を離れました。素直に対応すると王手桂取りを狙われると見て、糸谷八段もここは強気に対応。激しいやり取りのすえ、後手の糸谷八段は自陣の銀を犠牲に先手の角を取って駒得を主張としました。
糸谷ペースの中盤戦
形勢互角の中盤戦が続くなか、菅井八段は自陣にいた飛車をふわっと四段目に浮きます。これは糸谷八段の玉頭の歩をかすめ取って王手する含みでしたが、この手に対して糸谷八段が強気に飛車交換を迫ったのが実戦的な好手でした。二人の読みが衝突した結果、ここは菅井八段が飛車交換を拒否してじっと辛抱。この結果、戦いの流れは主張を通した糸谷八段のペースに傾きました。
攻めの手番を得た糸谷八段は持ち駒の桂を生かして調子のよい攻めを繰り出しますが、菅井八段もその狙いを巧みに察知して相手に決め手を与えません。盤面全体を使ったねじり合いが長く続いたのち、やがて糸谷八段は敵陣中央に桂を成り込むことに成功しました。これに対して菅井八段は1筋からの端攻めを主張として、戦いは難解な終盤戦に突入しました。
勝負手を通して菅井八段が逆転
逆転を目指す菅井八段は、両者の玉の急所に当たる1筋の歩を伸ばして執拗に勝負を挑みます。この直後、飛車を犠牲に糸谷玉に王手をかけたのが迫力のある勝負手で、糸谷八段の玉も囲いの外に追い出される格好になりました。ここまで進んでみると形勢は混とんとしており、菅井八段としては勝負手を通すことに成功した形です。
時刻は21時を過ぎ、すでに手数は100手を超えています。おたがいに相手玉への寄り筋が見えない混戦のなかで、ついに菅井八段が抜け出す手段を見つけました。7八に打たれた糸谷八段の飛車に対して▲8九金と金を打ち付けたのが実戦的な手段。飛車を捕獲して自玉への攻めを緩和しつつ、手にした飛車を使って中空に逃げ出した糸谷玉を寄せるめどが立ちました。
終局時刻は23時18分、最後は追いすがる糸谷八段の反撃を冷静に振り切って菅井八段が熱戦をものにしました。これで勝った菅井八段は5勝2敗で今期の勝ち越しを決めました。敗れた糸谷八段は1勝6敗となって残留に向けて黄信号が灯っています。▲佐藤天彦九段―△菅井八段、▲稲葉陽八段―△糸谷八段戦を含む次局8回戦は2月1日(水)に各地の対局場で予定されています。
水留啓(将棋情報局)