Tiの同位体である56Tiや58Ti、Vの同位体である55V~59Vなどを含んだ高速カクテルビームは、高周波ガスセルを主とするSLOWRIにより減速・冷却されてイオントラップに捕集され、MRTOFで質量測定が行われる。58Tiの原子質量については、58TiOH+イオンと同時に測定されたC2FO2+分子イオンの飛行時間との比から、高精度かつ高確度で決定された。しかも同時にクロム(Cr)-58、58V、59Vの質量も測定された。

このようにして今回の研究では、Sc、Ti、V、Cr、マンガン(Mn)の計15種類の同位体の質量測定に成功。文献値で高精度に報告されている核種については、よく一致することが確認され、55Sc、56Ti、58Ti、56V、58V、59Vについては遥かに精度を上げることができたという。

この質量測定結果を用いてΔ2nの導出も行われた。その結果、58Ti、59Vの新しい質量値が文献値に比べて遥かに小さくなっていることが判明。Δ2nがScやCrと同等になっていることから、これまで示唆されていた新魔法数N=34はTiとVでは消失していることが示されているとした。なおこの結果は、スーパーコンピュータ「富岳」を用いた最新理論の「モンテカルロ殻模型」においても支持されたとする。

  • 2中性子殻間隙エネルギーΔ2nの原子核全体の俯瞰図

    2中性子殻間隙エネルギーΔ2nの原子核全体の俯瞰図。中性子数が偶数の原子核について2020年版の原子質量編纂の質量の実験値(一部外挿値含む)を基に、勘定した2中性子殻空隙エネルギーを柱状図で示したもの。色調はΔ2nの精度を表し、濃いほど高精度の値 (出所:理研Webサイト)

魔法数の盛衰に代表される、安定核とその周においてこれまで成立していた原子核構造が、不安定な原子核では成立しないという現象の解明に向けては、今回の研究により高精度かつ高確度の質量測定が鍵であることが示された。たとえすでに測定済みで最新の原子質量編纂に採用されていたとしても、精度が不十分な値については再測定することで、結果が覆る可能性があることも今回の研究では確かめられた形だと研究チームでは説明している。

  • 今回の研究で精密質量測定された15種類のSc、Ti、V、Cr、Mnの同位体

    今回の研究で精密質量測定された15種類のSc、Ti、V、Cr、Mnの同位体(紫丸印)。中性子数N=34のΔ2nを導出するには、N=32とN=36の同調体の精密質量測定が必要となり、今回の実験の56Ti、58Ti、57V、59Vの測定が鍵となる。灰色のマスはAME2020で質量が1ppm以上の相対精度で報告されている核種で、元素記号が記されたマスは安定な同位体 (出所:理研Webサイト)

また、今回の研究で開発された装置は、ほかの実験と同時並行で質量測定を進められるため、能率よく網羅的精密質量測定を実施することが可能としている。