「親の介護は、在宅か、施設かで、肉体的、精神的、経済的負担は大きく変わります。いずれかの負担を小さくするための準備が必要」と話すのは、ファイナンシャル・プランナーとして、5000名以上のクライアントに運用指南を行ってきた杉原隆さん。
「公的介護保険制度」の仕組み、「介護費用と準備」について、杉原氏がわかりやすく解説します
■介護はいつから必要か
いつ始まるか、いつまで続くか、いくらかかるか…なにもわからない親の「介護」に備えることは非常に難しいことだと思います。介護期間中、要介護の状態が同じということも考えにくく、介護度合いが高くなればかかる費用も増していきます。
では、介護の必要な時期はいつからでしょうか。WHOが提唱している「健康寿命」とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間と定義されています。ゆえに、その年齢を超えると、日常生活が制限される…つまりは、介護が必要な年齢であるということです。
平均寿命―健康寿命=「介護・療養」が必要な期間
女性の場合、平均寿命と健康寿命の差は約12年(87.45―75.38歳)、男性の場合は約9年(81.41―72.68歳)です。この期間にがん治療で療養が必要になったり、脳疾患等で介護状態になってしまうことが想定されます。
その際QOL(生活の質)が極端に落ちてしまわぬように、お金の面だけでなく住居内の段差をなくしておいたり、身の丈にあった介護施設を探しておいたり、食事が楽しいものと思えるように口腔ケアをしておいたりすれば、ご家族で介護を前向きに捉えることができるでしょう。
■公的介護保険制度とは
公的介護保険制度とは40歳以上の人が加入して介護保険料をおさめ、介護が必要になったときに、所定の介護サービスを受けられる社会保険です。65歳以上の人は「第1号被保険者」、 40~64歳の人は「第2号被保険者」となります。
公的介護保険制度は、必要な費用の「現金給付」ではなく、介護サービスの「現物給付」です。受ける介護サービスコストの一部を個人が負担し、その他の部分を制度でカバーするという仕組みです。
要支援と要介護
2000年に制度ができた公的介護保険は、身体状態により現在、「要支援1、2~要介護1~5までの7段階」に分かれています。要支援とは、基本的に一人で生活できますが、部分的な介助が必要な状態です。要介護は、運動機能の低下と思考力や理解力の低下がある状態です。
実際の認定は自治体の職員と医療従事者で行いますが、一般的な目安として以下を参考にしてください。認定は基本的に毎年行われ、自治体によっては2~3年に1度のこともあります。
・要支援1:要介護状態には至っていないが、入浴や掃除など、日常生活の一部に支援が必要。
・要支援2:適切な介護予防サービスを受ければ状態の維持や改善が見込まれそうな人。
・要介護1:食事や排せつはほとんど一人でできるが、生活の一部に部分的な介助を必要とする状態。
・要介護2:食事や排せつに何らかの介助が必要だが、衣服の着脱は自分でできる。物忘れや直前の行動理解の一部に低下がみられる。
・要介護3:食事や排せつに一部介助が必要で、衣服の着脱や入浴には全面的な介助が必要で、いくつかの問題行動や理解の低下がみられる。
・要介護4:食事はときどき介助が必要で、排せつや衣服の着脱、入浴には全面的な介助が必要。多くの問題行動や全般的な理解の低下がみられる。
・要介護5:食事や排せつは一人でできず、日常生活を行う能力は著しく低下している。意思の伝達がほとんどできない。
■介護費用は
上述の認定状態に、平均的な「『療養・介護』の必要期間」に照らし合わせると、介護の必要金額は以下のようになります(公益財団法人 家計経済研究所2016年調査、及び生命保険文化センター、セールス手帳社の調査数字を千円単位に著者修正)。
在宅介護の場合
基本的には、自宅で家族による介護なので自己負担の費用は他の方法に比べて少なくて済みますが、ご家族の肉体的負担や精神的負担は大きくなります。
1)要介護2の場合:4万4000円/月×12カ月=年間52万8000円
女性:12年間で633万円 男性:9年間で475万円
2)要介護5の場合:7万5000円/月×12カ月=年間90万円
女性:12年間で1080万円 男性:9年間で810万円
施設介護の場合
施設で介護を受ける場合、在宅介護に比べてご家族の肉体的、精神的負担は少なくなりますが、経済的負担は大きくなります。比較的その負担が少ない公的介護保険による介護保険施設(特養・老健)はほぼ満室状態。介護の必要性は待ってくれないので、民間の介護施設に頼らざるを得ないというのが現状です。
1)特別養護老人ホーム(特養):9~14万円/月×12カ月=年間108~168万円
女性:12年間で1296~2016万円 男性:9年間で972~1512万円
2)介護老人保健施設(老健):10~15万円/月×12カ月=年間120~180万円
女性:12年間で1440~2160万円 男性:9年間で1080~1620万円
3)介護付き有料老人ホーム(民間): 10万円台~50万円超/月×12カ月=年間120万円台~600万円超(+入居一時金)
女性:12年間で1440~7200万円超(+入居一時金) 男性:9年間で1080~5400万円超 (+入居一時金)
上記のように、介護生活をおくる場所で必要なコストは大きく変わってきます。
・ご自宅でご家族が介護をしてくれる場合(低額)
・介護保険施設(特養・老健等)で介護を受ける場合(中額)
・民間の施設(介護付き有料老人ホーム)で介護を受ける場合(高額)
介護が必要な状態になってからの平均介護期間は59.1カ月(約6年間)ですが、7人に1人は10年以上の介護を必要としていますので、余裕をもった準備が転ばぬ先の杖になるはずです。
■具体的な準備方法
では、どのような方法で準備をするのが良いのでしょうか。教育資金や住宅ローンのように「期間」があらかじめ決まっていないのが「介護」。そのためにも、期間が長くなっても準備したお金が底をつかぬような工夫が必要になります。たとえば、
・準備しているお金を運用で増やしておくように少し勉強する 。
・介護状態になったとき以降は定額を無期限で手にできる民間の介護保険(保険金お支払い条件は、保険会社により異なります)を元気な内に手にしておく。
・親の財産を生前贈与で先に受け取り、ご自身の介護費用の準備に充てる。
準備の方法は人それぞれです。
ご家族の負担を考えたときに、やはり一定のコストで必要な介護サービスを十分に施せる状態にしておくことが心身財の安定のためにも良いと思います。
それには、預金での準備よりも「民間の介護保険」での準備に一日の長があります。積立預金をするように、保険会社へ保険料を払い続けることで、払い込んだ保険料金額に拘らず約定通りの介護保険金が一般的には無期限(一生涯)で受け取れます。
しかも、保険料のお支払いは終了し、受け取る介護保険金は「全額非課税(所得税基本通達9-21)」です。預けた金額しか使えず、少ない預金金利から金融所得税が源泉徴収されてしまい、介護が長引けばいつか底をついてしまうという不安がつきまとう預金と、比較するに値するのではないでしょうか。
ここまで記したとおり、療養・介護が必要な期間(女性12年、男性9年)の、ご本人はもちろんのこと、ご家族の肉体的、精神的、経済的な負担は相当なものです。 すべてではなくとも、そのいずれかを小さくするための準備をしてほしいと思います、
文/杉原隆