藤井聡太王将に羽生善治九段が挑む第72期ALSOK杯王将戦七番勝負(毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟主催)は、第1局が1月8日(日)・9日(月)に静岡県掛川市の「掛川城 二の丸茶室」で行われました。対局の結果、91手で勝利した藤井王将が対戦成績を1勝0敗として防衛に向けて好スタートを切りました。

羽生九段の一手損角換わり

振り駒が行われた本局、後手となった羽生九段は序盤早々に角交換をする趣向に出ます。一手損角換わりと呼ばれる戦法で、お互いが腰掛け銀を目指した場合に後手は右桂を使いやすい点が主張になります。羽生九段の作戦提示を受けて、先手の藤井王将は右銀を素早く前線に繰り出して後手の手損をとがめにいく積極的な構えを取りました。

駒組みが進んで、盤上はお互いが早繰り銀に出る相早繰り銀の戦型に決まりました。藤井王将は先手番の利を生かしてさっそく戦いを仕掛けると、やがて銀交換ののち手順に飛車先の歩を交換することに成功しました。これに対して羽生九段も交換した銀を盤上に放って応戦。再度の銀交換が確約されたところで羽生九段が次の手を封じて1日目の戦いが終わりました。形勢は互角で、急戦の将棋らしく一手の価値が非常に高い中盤戦が続きます。

藤井王将の猛攻

羽生九段の封じ手が開封されて2日目の戦いが始まると、それまでの穏やかな展開が打って変わって激しい流れになります。羽生陣の空いたスペースに持ち駒の銀を放り込んだのが藤井王将の最初の強手。素直に応じることはできないと羽生九段も飛車取りに銀を打って返しますが、さらにこれを放置して駒の取り合いに持ち込んだのが藤井王将の一連の構想でした。飛車を取られても自玉は問題ないという判断で、読みに裏打ちされた藤井王将の大局観が光ります。

飛車を失った藤井王将ですが、この折衝で入手した桂を軸に攻めを継続します。飛車取りの桂打ちを見せて羽生九段に受けの手を強要し、さらに突き捨ての歩から控えの桂と手筋の連続技で追撃の手を緩めません。控室の棋士たちが羽生九段のほうによりよい手があったかどうか検討する間に、藤井王将は遊んでいた自陣の左桂まで攻めに活用して全軍躍動の体制を築いてしまいました。

2枚の桂を駆使して攻め切り完勝

急所の桂跳ねを見せられた羽生九段は持ち駒の角を犠牲に藤井王将の桂を食いちぎりますが、非常手段の感は否めません。反対に角を手にした藤井王将は、竜取りと馬作りを狙う角打ちの好打でリードを広げにかかります。優勢になってからの藤井王将の指し手は明快で、「終盤は駒の損得より速度」の格言を地でいく猛攻でここから一気に羽生玉を寄り形に導きました。

反撃を試みた羽生九段でしたが最後は攻防ともに見込みなしと見て、17時47分に投了を告げました。中盤の駒の取り合い以降を完璧な指し回しで乗り切った藤井王将が開幕局を制して自身初の王将防衛に向けて好スタートを切りました。注目の第2局は1月21日(土)・22日(日)に大阪府高槻市の「摂津峡花の里温泉 山水館」で行われます。

水留啓(将棋情報局)

  • 藤井王将は先手番となった開幕局を堅実にキープした(提供:日本将棋連盟)

    藤井王将(右)は先手番となった開幕局を堅実にキープした(提供:日本将棋連盟)