同解析は、AFGL 2006の南側に広がった、密度が高く温度が低い領域の7点のスペクトルに対して行われ、2.5~5μmの間の近赤外線スペクトルが取得された。それらのスペクトルは、低温の領域で観測される3μmの水の氷、4.26μmの二酸化炭素の氷の吸収に加えて、観測した位置で変化する複雑な吸収構造を持つ4.5~4.8μmにかけての吸収を示すという。

詳細な解析の結果、これら複雑な吸収構造は、シアネートイオンの氷が持つ4.62μmの吸収バンドに加え、一酸化炭素の氷とガス、および電離ガスから生じる水素の再結合輝線の組み合わせで説明できることが判明。そしてシアネートイオンの氷の吸収強度が、紫外線強度の指標である別の水素の再結合線強度と明確な相関を持つことが得られたという。研究チームはこの結果について、同分子の生成に紫外線が重要な役割を果たしている可能性があることを示すとする。

一方、取得されたスペクトルにおいては、芳香族の重水素と炭素の結合に起因すると考えられる4.4μm付近に超過放射も確認されている。今回の観測スペクトルは、この超過放射強度が3.3μmの重水素化していないPAHの水素と炭素の輝線バンド強度と良い相関を持つことが示されており、低温環境下で重水素がPAHに取り込まれている可能性を初めて支持する結果が得られたとした。

シアネートイオンの生成には低温環境が必要な一方で、3.3μm、4.4μmの輝線バンドを励起するには、十分な紫外線が必要だ。AFGL 2006は、これまでほとんど近赤外線での分光観測の例のない電離領域を持つ。これは、紫外線が強く若い大質量星の周りの高密度かつ低温領域である。同天体のシアネートイオンや重水素化したPAHは、同天体近傍の平面上の高密度・低温領域に分布し、その中で紫外線の影響を受けた化学反応が進行していることが考えられるという。

  • AFGL 2006の想像図。中心にあるAFGL 2006は紫外線を放射し、周りのガスを電離している。その周りを中性ガスが取り巻き、観測者との間にはシアネートイオンを含む氷の層がある。4.4μmの重水素-炭素結合による超過は、氷の層と中性ガスの境界近くで放射されていると考えられている

    AFGL 2006の想像図。中心にあるAFGL 2006は紫外線を放射し、周りのガスを電離している。その周りを中性ガスが取り巻き、観測者との間にはシアネートイオンを含む氷の層がある。4.4μmの重水素-炭素結合による超過は、氷の層と中性ガスの境界近くで放射されていると考えられている(出所:新大プレスリリースPDF)

研究チームは、このような特殊な環境の天体の赤外線スペクトルを初めて詳細解析したことで、シアネートイオンと紫外線、重水素化したPAHと重水素化していないPAHの間の相関を明確に得ることができたとしている。