2023年の幕開けに、パーソナルコンピュータのハードウェア技術の動向を占う「PCテクノロジートレンド」をお届けする。本稿はFlash Storage編だ。
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2022年はPCIe 4.0対応Storageが急速に普及した年であり、またYMTCを皮切りに各社が200層超えの3D NAND Flashの量産を始めた年でもある。その一方でコンシューマ向けに早くもPCIe 5.0のI/Fが提供された事で、PCIe 5.0対応NVMe M.2 SSDが登場し始めた。
今のところはこれに代わるStorage Deviceは存在しておらず、2023年もNAND Flashが引き続きメインストレージになるのは間違いない。
NVMe M.2 SSD(Photo02)
まず容量から。現状で言えば、2280(22mm×80mm)のM.2 SSDでは2TB品が多く出荷されているし、中には4TB品まである。中華メーカーだと2242(22mm×42mm)ですら2TB容量の製品が存在する。もっとも主要なFlashメーカーの製品だと最大容量は2280は2TB、2242が512GBといったあたりが一般的である。ただこれはNAND Flashチップの容量に依存する話でもある。
ここで、イントロで書いたNAND Flashの大容量化の話に繋がる。先陣を切ったのは中国YMTCで、2022年7月に同社の232層 3D NANDを採用したPC300 SSDを発表した。フォームファクタは2242と2280だが、実は2280の方は半分使っておらず(Photo03)、なので仮に2280サイズをフルに使えば2TB容量が問題なく実現可能である。負けじとMicronは2022年12月にやはり232層NANDを採用したMicron 2550 SSDを発表。Samsungも2022年8月に最大容量4TBのSSD Pro 990シリーズを発表、同年11月には同社の第8世代V-NANDの量産開始を発表している。こちらは容量1Tbitであり、8月に発表したSSD Pro 990シリーズの容量4TB版は、この第8世代V-NANDを利用して製造されていると思われる。SK Hynixも2022年8月に、232層の512Gbit 4D NANDを発表しており、今年前半中に量産を開始する。
ということで、NAND Flashの容量は2022年の256Gbit~512Gbitから、2023年には512Gbit~1Tbitに容量増が期待できる事になる。これはそのままSSDの容量増加に繋がる格好で、今年は2280で4TB品、2242で1TB品が多く流通を始めるものと思われる。
もっとも容量単価の方は、どこまで下がるかというと微妙なところ。勿論この大容量Flashの本格量産が始まると、同じ容量ならばチップの数を減らす事が出来る訳だが、NVMe SSDの場合難しいのは「チップの数を減らすと速度も落ちる」あたりで、なので速度を維持しようとするとチップの数が減らせない。結果として、それほど価格下落の効果を享受できないという訳だ。ただDRAMもそうだが、NAND Flashについても2023年は価格下落のトレンドが予測されており、それもあって同じ容量であれば2022年よりは安く入手が可能になるだろう。また特に4TB品に関して言えば、2022年はプレミアがついて結構高価であったが、2023年はそのプレミア分が殆どなくなり、純粋に2TB版の倍程度の価格で入手可能になると思われる。
次に速度の話。昨年の記事でも説明したが、既に2021年の段階でPCIe 5.0対応のコントローラのサンプル出荷は始まっており、これを利用した製品も既に2022年中に出荷が始まっている。一例はこれだが、他にもGIGABYTEのAORUS Gen5 10000 SSDとかもある。ただどの製品も、猛烈にブ厚い(というか、背の高い)ヒートシンクを付けているのが特徴である。しまいにはASRockのBlazing M2の様な背の高い専用空冷クーラーとか、Teamgroupの水冷クーラーまで出てくる始末である。水冷まで使って、正直これが現実的か? と言われると、厳しい。
理由は簡単で、現在出ている爆熱のPCIe Gen5 SSDはいずれもPHISONのPS5026-E26コントローラを利用しているからだ。E26は確かに値段は安く、しかもちゃんと性能が出る優れものであるが、製造プロセスはTSMCの12nmである。そもそもPCIe Gen5は5nmあたりが想定プロセスで、「中には7nmで利用したい企業もあるだろう(PCI-SIG Developer Conferenceにおける質疑応答)」という話だったが、12nmは流石に想定外である。PHYSON自身の発表では、Micronの3D TLC NANDと組み合わせてRead 12GB/sec・Write 10GB/secが実現した(Photo04)としているが、これは相当回路を高速動作させる必要がある。普通ならそれこそTSMCのN6とかN5を使ってこれを実用的な消費電力で収める工夫をするのだろうが、PHYSONはこれによるコスト増(初期コストまで含めると、12nmのものをN7に移行するだけで倍以上のコストになる)を嫌い、12nmプロセスのまま電圧を上げて無理やり動かす方向に振った。その結果がこの爆熱という訳だ。
幸いというか、別にPCIe 5.0に対応したコントローラの開発を行っているのはPHISONだけではない。昨年も幾つか例を紹介したが、主要なFlash Memoryベンダーの大半は既にPCIe 5.0に対応したNVMe SSDのコントローラの開発を手掛けており、Kioxiaの様にサンプル出荷を始めているところもある。ただ、各社とも先行するのはEnterprise向けでConsumer向けはその後となっている。何故かと言えば、CXLへの対応を考えて居るためだ。
CXL 1.1ではPCIe Gen5のPHYを使って、その上にCXLのプロトコルを通す形になっている。そしてこのCXLのプロトコルでSCM(Storage Class Memory)としてNAND Flash SSDを扱える様にすることを想定している。このためには、常識的な消費電力(つまり爆熱にならない)のPCIe 5.0対応NVMe SSDコントローラが必要という訳だ。恐らく2023年の中旬までには、7nmあるいは5nmプロセスで製造されたPCIe Gen5対応のSSDコントローラが登場し、今年後半には爆熱にならないPCIe Gen5 NVMe SSDが入手できる様になると考えられる。「今すぐPCIe 5.0のSSDがどうしても欲しい!」というのでなければ、もう少し待つのが吉である。
ところでこのスピードについてはもう一つ考えることがある。PCIe 5.0だとLaneあたり32Gbps、NVMe M.2 SSDだと通常x4 Laneだから帯域は128Gbpsである。一方でFlash Memoryの側は? というと、Samsungの最新の第8世代V-NANDでも最大2.4Gbps/pin。パッケージがx16構成だとしてチップあたり14.4Gbps。128Gbpsを使い切るには8個だと足りず、9個近く必要になる計算だ。実際Enterprise向けではフォームファクタ的にゆとりがある関係で、NAND Flashを16ch接続できるものが多いが、Consumer向けのM.2で16個搭載は(不可能ではないが)かなり困難である。実際はここまでスループットが出るNAND Flashはまだ限られている事を考えると、コントローラがPCIe 5.0対応かつ爆熱でなくなったとしても、PCIe 5.0の帯域をフルに使い切るのは2023年中には難しいと考えられる。実際PHISONのデモでもRead 12GB/sec程度であり、理論帯域の16GB/secにはまだ足りていない。とりあえずPCIe 4.0の8GBを超える製品は2023年中に出てくるだろうが、16GB/secを使い切れるような製品はNAND Flash側の高速化が実現しないと難しく、2023年中にこれが達成できるかどうか微妙、というあたりが正直なところかと思う。