ビジネスの現場では、「自分より立場が下の人」へ説明するシーンもあります。そんな時に、外してはいけないポイントをご存知でしょうか。説明の下手な人は、どんな相手に対しても同じような話し方をしますが、説明がうまい人は相手によって内容を変えることができます。

『「説明が上手い人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)の著者でビジネス系ユーチューバー、ハック大学 ぺそさんに、後輩や部下への説明のコツを聞きました。

「やること」だけを伝えるのはNG

私が今まで試してダメだった説明法の中に『指示する場合、「やること」だけを端的に伝える』というものがあります。

一見いいように見えると思いますが、なぜ、ダメなのか?

自分より上の立場の人(例えば上司)への説明と、後輩や部下など下の立場の人への説明には、決定的な違いがあります。上司であれば、相手は自分よりも能力が優れ、基本的には上司の指示に伴って説明をすることになります。

一方、後輩や部下に対する説明は、自分よりも能力や経験の不足している人に、自分の意図を説明してうまく動いてもらうためにあるからです。

つまり、過不足なく指示を出し、適切な報告を求めるという表面的な目的以外に、「最大限部下の力を引き出し」、「チームとしてできるだけ大きな成果を上げ」、さらに「後輩や部下自身も成長できるように誘導していく」必要があるわけです。

したがって、上司に対するやり方と同じようにしていては、問題が生じることもあります。特に上司から「鍛えられた」と感じている人ほど、部下にも同じように接してしまいがちです。本当にそれでいいのか、一度考えてみる必要はありそうです。

期待以上の成果を引き出す説明とは?

私は部下に指示を出すとき、常に「内容」よりも「目的」に比重を置いて説明することを心がけています。

部下への指示は、「データを調べておいて」「資料を作っておいて」といった形になりがちです。「こういう手順でやって」というレベルまで指定することもあり得ます。

しかし、そのデータや資料は、本来は何らかの目的があって必要になったはずです。私はまず、その「目的」から説明するようにしています。

顧客であるA社に新製品への乗り換えを促したいためのデータであるとか、私の上司である役員に提出する四半期の売上をまとめた資料であることを、先に明らかにするのです。

なぜなら、「○○をしておいて」という指示、それも手順まで指定した場合はなおさら、部下が最高のパフォーマンスを発揮しても、最高の結果は「指示通り○○が完成した」であって、それを越えることは100%ありません。

むしろ、指示されてないことに時間を使うと叱責されるリスクがありますから、賢明な部下ほど、余計なことはしないほうがいいと考えるでしょう。そして最悪なのは、怒られることを恐れていったん「わかりました」と返事したものの、実はどうすればいいかわからず、期日ぎりぎりになってそれが発覚するようなパターンです。

ところが、先に目的を説明すると、部下なりに考え始めるわけです。「最近こんないいデータが出たみたいです」「新発売のソフトを使うとすぐ処理できます」「××常務、最近老眼がきつくて、文字が大きい方が好みらしいです」なんて、私の知らない知識や情報が漏れ出てくることもあります。ある分野や技能に絞ると、私以上に部下が優秀なことも往々にしてあるわけです。

そんなとき、私は部下の得意分野をできるだけ引き出して、役立ててくれるように仕向けます。「そうなんだ! 知らなかった。それでやってみてよ」と応じます。すると部下も、自分の考えが採用された、自分の得意分野や知識が生きたと思い、楽しく働き始め、指示だけされたケースよりもパフォーマンスはよくなります。

同時に、部下ごとの得意・不得意も把握できてより効率よく担当を割り振りできますし、コミュニケーションが生まれるため、必要な部分についてはていねいに説明できます。

部下にはむしろ気楽に話してもらう

こういうやり方は、結局部下自身の力を伸ばすことに直結します。

指示されたことだけをするのではなく、目的に応じて何をすればいいかを自ら考え、自ら学ぶ人が育ちます。一朝一夕には行きませんし、最初はていねいに時間をかける必要があるので、正直楽ではありません。しかし長期的に見た場合、上に立つ側としても、こうした説明を心がけることのメリットは大きいと思うのです。

それによって多少時間的には非効率が出てしまうとしても、私はそれを見込んでスケジュールを立て、むしろ「時間をかけてミスをしてもらう」ことも許容する余裕を持ちたいと思っています。

最近は、最初からわざと指示を説明しないこともあります。「新商品の○○の話、聞いた?」とか、もっと広く「どう? 最近?」なんて切り出し、まず部下に自由にしゃべってもらいます。すると、彼らの考え方や捉え方、現在の多忙度や、もっと一般的な悩み、問題点まで、情報収集できたりするのです

「何のために」を伝えることが重要

上司と部下は、立場は違えど同じチームに属する仲間。たとえるなら、上司は監督、部下はプレイヤーとして、それぞれが果たすべき役割を担いながら、ともにビジネスでの勝利を目指しています。

つまり、同じ目的を持っているのです。監督の指示通りの戦術で動くべき場合ももちろんありますが、フィールド上で状況が変われば、プレイヤーは自分の判断で臨機応変に対応することが求められます。せっかくゴール前でボールを受け取ったのに監督の指示があるまでシュートをしない、そんなプレイヤーでは困るのです。

とっさの質問に対して自分の意見が述べられない、自分の考えを説明できない人は、普段の仕事ぶりを振り返ってみましょう。自分の頭で考えず、指示待ちになっていないでしょうか。

説明できないということは、「考えが言葉にならない」のではなく、「考えていないから言葉にならない」可能性が高いのです

また、こうした人が自分の部下や後輩、あるいは外部の協力会社の人たちへ説明する必要が生じた際は、注意が必要です。というのも、「指示待ち」タイプは、自分の上司から言われた内容を自分の中で咀嚼せずに、そのまま外部の人に伝えてしまうことが、よくあるからです。

説明している本人が「なぜ、何のために」その指示が必要なのか理解しないまま話しているため、周囲はチンプンカンプンになるのも当たり前です。こういったケースでは、質問などされたら、さらにしどろもどろになってしまうでしょう。

自分の頭で考えるクセがつく簡単トレーニング

どうすれば、自分の頭で考えることができるのか? 冒頭のセリフを例に、トレーニングをしてみましょう。会社の新商品について「ところで、君はこれについてどう思うの?」と意見を求められたとして、どう答えればいいでしょうか。

「いいと思います」では、答えになっていないというのはわかりますよね。これでは何も考えていないとか、場合によっては上から目線だと思われかねません。

ちゃんと考えているのに……と思うかもしれませんが、これは頭の中に漠然としたイメージしかない状態。「考える」ではなく、「思う」「感じる」といったイメージの段階で、これでははっきりとした言葉にして説明することはできません。

では、考えて言葉にするには具体的にどうすればいいかというと、「仮説思考」が大きな武器になります。

新商品がテーマですから、例えば「この新商品は顧客の悩みを解決するだろうか」という質問を自分自身に問いかける。そして、できる限りデータを調べ、顧客の声を集め、自分なりに考えると「こうすれば、顧客の悩みの解消に大いに役立ちそうだ」などの答え(仮説)が浮かびます。これこそが、あなたが自分の頭で考えたことなのです。

この仮説は常に正しくある必要はありません。むしろ、仮説など正しくないことの方が多かったりもします。ただ、日頃からこのような思考のトレーニングをしていれば、冒頭のセリフも怖くなくなります。つまり説明力アップにつながるのです。

著者プロフィール:ハック大学ぺそ

1988年生まれ。主にYouTubeチャンネル「ハック大学」を通じて、仕事術、キャリア戦略などビジネスに役立つ情報を発信。チャンネル登録者数は25万人を超える。チャンネルにアップされた動画のなかでも、説明に関する動画は人気のコンテンツ。
専業YouTuberではなく、普段は外資系金融機関に勤める現役のビジネスパーソンで、年収は約2,000万円。著書に『「説明が上手い人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)などがある。