累計発行部数1,000万部を突破した『ライフ』に次ぐ、すえのぶけいこの漫画『ライフ 2 ギバーテイカー』を実写化したドラマ『連続ドラマW ギバーテイカー』(毎週日曜 22:00~全5話※第1話は無料)が、2023年1月22日よりWOWOWプライム&WOWOWオンデマンドで放送・配信スタートする。最愛の娘を殺され、事件後、小学校の教師から刑事に転身した主人公・倉澤樹を演じた中谷美紀と、倉澤の娘を殺した猟奇殺人犯・貴志ルオトのその後を演じた菊池風磨/Sexy Zone)に、お互いの印象や、撮影時のエピソードなどを語ってもらった。

  • 中谷美紀(左)と菊池風磨

    中谷美紀(左)と菊池風磨

――お二人は初共演だそうですが、もともとお互いにどのような印象をお持ちでしたか?

菊池:それこそ、僕にとって中谷さんはテレビや映画で一方的に観ているような存在の方だったので、共演させていただけると聞いたときはめちゃめちゃ背筋が伸びましたし、「えっ!?」という驚きがありました。実は、うちのマネージャーさんが中谷さんの大ファンでして……。中谷さんとの共演が決まって誰より一番喜んでいたのは、マネージャーさんでした。

――(笑)。中谷さんは、そのことをご存知で?

中谷:いえ。撮影が終わった後に伺いましたが、現場を盛り上げるためにおっしゃってくださったのかなと思っておりました(笑)。

菊池:いや、本当なんですって!

中谷:私は、大変失礼ながら、皆さんがご存知の菊池風磨像を存じ上げなかったんです。

菊池:(笑)。ありがたいです。むしろ。助かります。

中谷:ただ、直前まで出演されてたドラマを拝見したところ、とても明るいキャラクターを演じていらして。あの風磨くんがどのようにこのルオトという役を生きられるのかと楽しみにいましたら、最初にお目にかかった時点ですでに普段の姿を封印されて、完全に役として存在している印象を受けました。とりわけクライマックスで対峙するシーンではもう、完全に彼に追い詰められまして……。ですから、たとえ世界中の女性が菊池風磨くんに黄色い歓声を上げようとも、私は、未だに彼を殺してやりたいと思っている唯一の人間だと思います。

菊池:その言葉は僕にとって最大限の褒め言葉です。

中谷:それこそ、撮影現場ではきっとこちらにお気遣いくださって、離れたところにポツンと一人でいらっしゃったので、ほとんどお話もしていなかったのですが、撮影が終わってから、バラエティで風磨くんが全裸でのたうち回る姿を見てしまって。「えーっ!?」と驚いて。「私が知っている菊池風磨はこんな人ではない!」と思って、途中で観るのを止めたんです。

菊池:いやいや、あのドッキリの情報は間違っています。今の僕の方が本当ですから。

中谷:本当にびっくりしたんです。きっといかようにも引き出しがあるんでしょうね。

菊池:いやいやいや……。

写真:伊藤彰紀(aosora)
ヘアメイク:下田英里 スタイリング:岡部美穂

――改めまして、本作に出演が決まったときの心境は?

中谷:すえのぶけいこ先生の原作では、倉澤は母親ではなく、被害者である穂乃花の姉として描かれていたんです。年齢のギャップや原作の世界観を壊さずにどうドラマ化するのかと、正直不安がありました。もっと適役の方がいらっしゃるんじゃないかと思い、当初は迷いもあったのですが、台本を読んで自然と涙が溢れてきたんです。少年犯罪に関してもリサーチを重ねた上で丁寧に書かれた脚本に心を動かされて、お引き受けさせていただきました。原作はあくまでも柱として読ませていただいて、すえのぶ先生が伝えようとなさったエッセンスを大切に吸収しつつ、大人の母親としての母性や、犯人に対する憎しみや痛みの感情を醸成するようにしておりました。とはいえ、これまでに経験をしたことのないほどの痛みだったので、その痛みが自分の中に自然な感情として湧き上がるまではどうすればいいのか悩みましたが、現場に入り、風磨くん演じるルオトの天使のような眼差しを見つめ、血も涙もなく気怠い声を聞いていさえすれば、自然とそういった気持ちにさせられたので、とてもありがたかったです。

――菊池さんは、これまでにないほど猟奇的な役柄でしたが、アイドル業に支障をきたしたりすることもなく……?

菊池:いや、それは全然なかったです。現場にいるときはさすがに静かでしたけど、撮影現場を一歩出たら普段の僕に戻っていました。役作りとしては、自分の中にはない要素を探す作業が、一番苦労しました。猟奇殺人犯が出てくる漫画を読んでみたりとか、こんな映画があったなぁとかと思い起こしたりして。プレッシャーはもちろんありましたが、ここまで幅のあるキャラクターを演じるのは初めてだったので、ワクワクしたのを覚えています。本読みもなく、最初はどうやって演じようかと悩みました。ルオトは猟奇的な役ではあるものの、そこまでずっと暗いわけでもなくて、優しそうな青年を装っているキャラクターなので。

――事件後、離婚して教師から刑事になった倉澤と、医療少年院を退院したルオトは12年ぶりに再会します。描かれなかった空白の期間を踏まえて、お二人はどのように演じられましたか?

中谷:あの事件以来、隣人であり、教え子でもあったルオトという少年の微笑む姿が、倉澤の中でことあるごとにフラッシュバックしていたと思うんですよね。きっと夢にも出てきたでしょうし、食器を洗っていようが、街を歩いていようが、常に頭の中にあったと思います。12年の歳月を経て、防犯カメラの映像で見た以外は、断崖絶壁のあの海辺で出会うまでは、ずっと少年の姿で想像していて。成人したルオトにも少年時代の面影を重ねていたんだと思うんですよね。なので私には、常に二重に重なってお顔が見えていました。しかも、お二人の唇や微笑みが似ているんです。キャスティングの妙もあり、素晴らしかったですよね。

菊池:僕は、医療少年院に入っていた間にいかに樹先生への思いを膨らませていたかを想像して、空白を埋めるようにしました。母親への愛情みたいなところから始まって、思春期を迎えて、女性としても好きになったのかなぁ……とか。マネージャーさんの"中谷さん愛"を自分自身に置き換えたりもしながら(笑)、固執する愛の形をいろんな角度から考えていきました。

――予告編にも登場しますが、倉澤が娘の遺体を発見したときの叫びに衝撃を受けました。

菊池:あのシーンに登場するのは少年時代のルオトなので、僕はその場ではあの叫びを直接聴いていないのですが、実はあのシーンを撮り終えられた数日後に仮編集した素材を監督から見せていただいたんですよ。

中谷:えーっ!? そうだったの?

菊池:はい。監督から「この記憶がルオトの中にはずっとあるはずなので、この映像をちゃんと見て想像してください」と言われて見たんですが、中谷さんが本当に穂乃花ちゃんのお母さんに見えて、苦しくなってしまうぐらい迫真の演技をされていて……。完成したドラマを観た時も、「あ! これこれ!」って、はっきり覚えていたほど衝撃的でした。もし僕があのシーンを見ないままその後のルオトを想像で演じていたら、芝居の濃さが全然違ったと思うので、最初に見せていただいててよかったです。樹先生の叫び声には、ドラマを観ている方々も一気に引き込まれると思います。現場で対峙したときも、役柄にクッと入る瞬間の中谷さんは鳥肌モノでした。

――あの叫びを、中谷さんはどのような思いで演じられたのでしょうか?

中谷:娘の遺体を目の当たりにしたときの、痛み、苦しみ、憎しみ、あるいは自責の念、そういった感情を掘り起こす作業が、今回はとりわけ必要な役柄で。「『叫び』と言えばムンクだなぁ」と思いまして、ムンクの展覧会を観に行きました。

――ムンクの「叫び」の絵をご覧になるために?

中谷:はい。ムンクは幼くして母親と実の姉を亡くすという、なかなか複雑な生い立ちを抱えて生きていた人間なので。その人間がこの世にもたらした絵画から、何かいただけるのではないかなと思いました。彼は、「心をむき出しにしていないアートはアートではない」「アートとは芸術家の心の血液のことである」というような意味合いのことを述べていたので。その思いをお腹の奥のほうにずっと大切にしまって。それを自分の拠り所として演じました。実はあのシーンを演じる直前に、穂乃花役の松岡夏輝ちゃんが「お母さんへ」って、私宛てに手紙を書いてきてくれたんです。

菊池:えーっ!

中谷:中に折り紙が入っていて……。彼女が私をお母さんにしてくれたように思います。そういえば、「好きな食べ物はなんですか?」って聞いてみたら「エンガワ」って言うんです。

菊池:渋いなぁ~。

中谷:そう答えたら大人が面白がるのを分かっていて、言っているような節もあり……(笑)。よくできたお嬢さんでした(笑)。ちなみにルオトの幼少時代を演じた志水透哉くんの好きな食べ物は何だと思います?

菊池:ハンバーグとかですか?

中谷:サワラ。

菊池:サワラ?

中谷:給食でおかわりするそうです。

菊池:へ~。給食にサワラが出てくるんですね! 面白いなぁ~。

――撮影中はシリアスな場面の連続で、きっと心身共に負担も大きかったと思うのですが、過酷の撮影を乗り切る上で、お二人はどのようにリフレッシュされていたのでしょうか?

中谷:何かあります?

菊池:中谷さんからクランクアップの日にいただいたクッキーがすごくおいしかったです。

中谷:本当?

菊池:ちょっとだけ食べて残りはお酒と一緒にいただこうかなと思ったら、止まらなくなっちゃって……。

中谷:あら、それはごめんなさい(笑)。

菊池:いえ、全然。結局すぐに全部食べちゃいました。

中谷:いや、それはさすがに食べ過ぎだろう(笑)。

菊池:おいしかったです。あのクッキーでリフレッシュされました。

中谷:あれね、女性に差し上げるとすごく喜ばれるから。風磨くんは「モテたくてこの仕事を始めた」とおっしゃっていたので、ピッタリかと(笑)。

菊池:そうです(笑)。あのクッキーは見た目も可愛かったですし。メモしておきます。

――(笑)。中谷さんはいかがですか?

中谷:今回はリフレッシュしちゃいけないと思って、リフレッシュしなかったんです。撮影中はもう何もする気が起きなくて。通常でしたら自宅に着いたら仕事のことは一切忘れて、リフレッシュするんですね。もちろんセリフは覚えなくてはならないので、本当に何も考えないかと言ったら嘘になりますが、極力切り離すようにしていて。でも今回に関してはもう、「リフレッシュも何もない」みたいな感じで。靴下を手で洗う気力さえもなく、靴下をクリーニングに出しました。「高いなぁ」と思いながら(笑)。「でももう無理!」と。自分の身の回りのことは、一切しなかったです。

でもそうじゃないと、張り詰めた倉澤の感情は出せなかったと思います。実際に少年犯罪で生涯癒えぬ傷を負った方々がいらっしゃいますし、その方々に失礼にならないように演じたいと思っていたので。もちろんドラマはスリリングなエンターテインメントとして作られていますが、演じる側としては、本当にどんよりとした真っ黒い、どす黒いものを常に肩に背負っていないと出来なかったんです。クランクアップした後も、虚無感というか、サバイバーズギルトみたいな感覚に陥ってしまって、すぐにリフレッシュする気持ちにもなれず、そこから脱するのも大変でした。風磨くんに屋上の上で追い詰められてから、身体の使い方が変わってしまったようで、うまく呼吸が出来なくて……。理学療法士の先生に何日か来ていただいて。ちゃんと呼吸が出来るように、身体を緩めていただきました。