自分ではきちんと説明したつもりなのに、相手はどうも納得していない顔をしている。そんな経験をお持ちの方も多いことでしょう。なぜ、あなたの話は伝わらないのか。それには、いくつかの「誤解」が重なっている可能性があります。
一般的に正しいと思われている方法でも、本質を理解せずにトレースするだけでは上手くいきません。『「説明が上手い人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)の著者でビジネス系ユーチューバー、ハック大学 ぺそさんに、どうすれば説明がうまくなるのか聞きました。
右脳を刺激しないと話は伝わらない
ビジネスの現場では、論理的な話し方が好まれます。
そのため「ロジカルトーキング」は一見、マストな説明法のように思えるかもしれません。もちろん、短い時間で端的に「報告」する場合は、それでいいケースもあります。でも多くの場合、「論理だけ」だと、わかりにくい説明になりがちです。
例えば、いま流行りの「サブスク」について、あまり詳しくない人に説明する場合、
「サブスクというのは、一定期間、定額料金を払うことで、継続的に商品やサービスを利用し続けられるビジネスモデルです」
とロジカルに説明されたらどうでしょうか。確かに正しい説明ではあるのですが、わかるような、わからないような、相手はそんな受け取り方をするかもしれません。
一方で、
「サブスクというのは、要するに、1ケ月単位の焼き肉食べ放題のようなもので、飲食以外にも、ファッションや音楽配信などいろんなモノがある感じですよ」
と説明したらどうでしょうか。イメージしやすいですよね。
ポイントは左脳と右脳を両方働かせること。自分たちの生活に身近なものにたとえることで、「なるほど」と相手も納得してくれますできるなら、自分の半径3メートル以内で起きるような出来事で説明すればわかりやすく話せます。
実は、説明において、噛み砕いて分かりやすく話す方が難易度は高いものです。
むしろ小難しく「かしこく」見せようとするほうが簡単です。たとえば、カナ用語や、業界用語を挟み込んで話すやり方です。しかし、それは決して分かりやすい説明とは言えないでしょう。
相手のレベルで理解可能な説明ができるかどうかは、説明力を上げる大切なポイントになります。
分かりやすく説明する際の、絶対的な原則は、「相手の理解できるレベルで説明する」こと。そして、言葉や用語、言い回しに限るなら、「相手にとって未知な言葉は使わない」ということになります。
なぜなら、わからない用語や言い回しを使われると、相手はそれだけでストレスを感じてしまうからです。
説明でマウントを取ろうとしても見破られる
やさしい言葉で説明をすれば誰もがすんなりと理解しやすいのに、実際、世の中には話を小難しく振り回したり、やたらと専門用語やカタカナ語を使いたがったりする人がいると思いませんか? 彼らは、なぜそうするのでしょうか。
まず、何らかのバリアを張りたがっているケース。自分が責められたくない、自分の領域に立ち入られたくないと思っていたり、自分に不利な展開になることを嫌っていたりして、知識レベルや説明の量で相手を圧倒しようとしているわけです。いわゆる「マウント」もこの類いです。これは、裏返せば自信のなさそのものです。
また、単にいい気持ちになりたいという人もいるかもしれません。流行のビジネス用語を語る自分、業界の細かい事情や一般に知られていない知識を開陳している自分が快感で、これ見よがしに、積極的に使ってくる人もいます
ただ、そんな人を見て「すごい」と思う人は少数派でしょう。むしろ「ちょっと痛い人」とさえ感じるかもしれません。私なら「この人、説明がうまくないな」と率直に感じます。
相手のレベルに合わせた説明とは、より細かく言えば、「相手が理解可能な範囲の言葉を使って説明する」ということでもあります。2点、テクニックを考えてみましょう。
まずは、相手に寄せたたとえ話です。
説明する自分は〝サッカー〟のプロ選手、説明を受ける相手は〝野球〟のプロ選手だとしましょう。サッカーの専門用語を多用してサッカーのプレイを解説するのは簡単ですが、それでは伝わる説明の範囲が、相手の知っているサッカーについての知識を越えることが難しくなります。
そこで、たとえ話を使います。「野球でたとえるなら、○○みたいなものです」と説明すると、相手はその用語を知っているため、すんなり受け取れます。ただこれは、当然説明するサッカー選手の側が知っている野球の知識の範囲に限定されることになるので、やや高度なテクニックだと言えるでしょう。
もうひとつは、たとえ話の一般化です。
誰にでもわかる話に落とし込むのが一般化で、これは「抽象化」とほぼ同じです。「知能指数(IQ)の出し方は、要するに受験の偏差値と同じです」や、冒頭でも例として出した「サブスクは食べ放題が1ケ月単位になったようなものです」と言われれば、知らない人にも途端に理解できるはずです。
半径3メートル以内の身近なたとえ話だからこそ、相手からは自分に寄り添ってくれていると信用、信頼されますし、「説明が上手だな」と思われるのです
結論から話さない方がいい時もある
一見、わかりやすいようで、実は必ずしも分かりやすくない話し方は「ロジカルトーキング」だけではありません。一般的によく言われている話し方のコツ「結論から話す」という方法も、鵜呑みにしない方がいいメソッドです。
もちろん「端的に報告」をする必要がある場合には有効です。
ただし、いつも結論から話す人が、説明上手かと言えば、そうとも言い切れません。説明といっても、その形態はさまざまです。今回の説明にはどんな形態が適しているのか。それを考えるとき、私は説明を「納品物」だと捉えるようにしています。
映画の内容を説明するときにまさか結論から言う人はいないと思いますが、忙しい上司への報告が映画の予告編めいていたら100%怒られます。
同じ話は、説明全体の形態の違いとしても考えられます。
ひと昔前であれば、上司への報告やレポート、取引先や顧客への提案などを、「ペラ1枚にまとめる」という作業がありました。
ペラ1枚とは通常、A4用紙1枚を指します。そこに収められる範囲で、説明内容の概要をまとめるのです。これは、「説明を短く、簡潔にする」という作業でもあります。「ペラ1枚」で説明されることを好む人、場合によっては「ペラ1枚」以上は決して見ようとしない人もいたようです。つまり、その人への提出資料は「ペラ1枚」が上限だったわけです。
しかし、一生に一度の、しかももっとも高価な買い物である自宅物件を選ぶときの説明が、「ペラ1枚」だったらどうでしょうか?
1億円ほどのマンションを、高額の頭金と長期の住宅ローンで購入する際に、売主からの説明が「話は短く、簡潔に」という考えのもとA41枚だったら、おそらくその物件がどんなに魅力的でも決断を躊躇するのではないでしょうか。
新製品の魅力を上司に伝える場合と、もっとも有力な顧客に伝える場合でも違ってきます。上司に説明するのは商材としての競争力や利益率、宣伝の方法などでしょうが、顧客には新商品の開発ヒストリーや他社商品にない魅力、あるいはその新商品み出した会社の文化でさえも有益な情報になるかもしれません。
よく考えれば、このようなやり方は世の中にあふれています。常に結論から言うべきならテレビCMは「買ってください! なぜなら……」の流れになっているはずなのに、実際は俳優やタレントが出てきてストーリーを見せ、想像させながら飽きさせない工夫がこらされています。
「相手」と「目的」を考えよう
つまり、説明は「相手」と「目的」に応じて、適した形態があるということです。
ペラ1枚から長編映画まで考えられますし、その間には200ページの資料が必要な場合も、紙芝居形式での解説がベストなこともあります。メールで送るべき場合もあれば、映像や音楽、照明にまで気を配ったプレゼンテーションが最適かもしれません。
自分がこれからするべき説明は、ペラ1枚の報告なのか、200ページの年次報告書なのか。15秒のCMなのか、2時間の映画なのか。相手はどういう形態で説明されることを好み、また適切だと考えるのか。
まずそこを決められると、説明全体のスタイルが見えてきます。
同時に、説明の表現も変わってきます。結論だけでいいのか、むしろ結論に至る流れをしっかり見せるべきなのか。文字だけでシンプルに行くのか、図版や写真を多用した方がいいのか。文章で書くべきか、箇条書きにするべきか。さらには、文字の大きさやデザインなどより細かい部分まで、大枠が決まれば落とし込んでいけます。
このように、自分の説明を納品物として捉えられる視点を持っておけば、説明される側の求める形態にできるだけ近い形で説明ができるようになるのです。
これは、見た目の違いとしても大きく影響します。相手が、自分の好むスタイルで説明されることを予感した時点で一定の納得感を演出することができるわけで、すでに説明の導入部は成功しているとさえ言えるからです。
著者プロフィール:ハック大学ぺそ
1988年生まれ。主にYouTubeチャンネル「ハック大学」を通じて、仕事術、キャリア戦略などビジネスに役立つ情報を発信。チャンネル登録者数は25万人を超える。チャンネルにアップされた動画のなかでも、説明に関する動画は人気のコンテンツ。
専業YouTuberではなく、普段は外資系金融機関に勤める現役のビジネスパーソンで、年収は約2,000万円。著書に『「説明が上手い人」がやっていることを1冊にまとめてみた』(アスコム)などがある。