12月26日放送の『エルピス -希望、あるいは災い-』(関西テレビ・フジテレビ系)、『警視庁考察一課』(テレビ東京系)を最後に2022年の連ドラがすべて終了した。

視聴率では飛び抜けたヒットこそなかったものの、『ミステリと言う勿れ』(フジ系)や『silent』(フジ系)の配信再生数が驚異的な数字を叩き出し、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)はツイッターの世界1位を獲り続けるなど、連ドラがネット上で最も話題のコンテンツであったことは間違いなさそうだ。

ここでは今年ドラマ業界で何が起きて、どんな影響が出て、来年につながっていくのか。朝ドラから夜ドラ、深夜ドラマまで、全国放送の連ドラを全て視聴し続けているドラマ解説者の木村隆志が一年を振り返るべく、“2022年のドラマ業界10大ニュース”を選び、最後に“個人的な年間TOP10”を挙げていく。

■10位 苦労人の38歳女優・松本若菜が突然のブレイク

  • 『やんごとなき一族』の怪演で注目を集めた松本若菜 撮影:宮田浩史

鳥取県で生まれ育ち、高校卒業後に地元で就職するも、一念発起して21歳で上京した松本若菜。翌年、『仮面ライダー電王』(テレビ朝日系)でオーディションを勝ち抜いて女優デビューを飾るも、その後は多数の人気作に出演するが「1話限りのゲスト出演」が大半を占めていた。

実際、昨年も5作の連ドラに出演したが、すべて1話限りのゲスト出演。正統派美女であることも「印象に残りづらい」とみなされがちで正当な評価を受けづらいなど、雌伏のときを過ごしていた。

そんな松本の転機となったのが2022年春ドラマの『やんごとなき一族』(フジ系)。エキセントリックな主人公の義姉を演じて「怪演」とさわがれ、「#松本劇場」がSNSを席巻した。さらに続く夏ドラマの『復讐の未亡人』(テレビ東京系)で主演を務めたことで話題性が継続。同作は3月から動画配信サービス「Paravi」で配信されていたが、テレビ放送が『やんごとなき一族』の直後だったことが奏功した。

また、『ほんとにあった怖い話 夏の特別編2022』(フジ系)の1作でも主演を務め、秋ドラマでも『ファーストペンギン!』(日テレ系)にレギュラー出演。実は2022年最初の冬ドラマでも『ミステリと言う勿れ』(フジ系)のラスト2話にも出演していたため、全クールを完走したことになる。

しかも特筆すべきは、正義感の強い刑事、クセの強いセレブ、復讐に燃えるプログラマー、農林水産省のクールな職員と、まったく異なる役柄に起用されたこと。女優デビューから連ドラ初主演まで17年間を要したが、今年『Yahoo!検索大賞2022』の俳優部門1位に輝き、業界評価の高さに知名度が追いついた来年以降はさらなる活躍が期待できるだろう。

■9位 日本テレビ系ドラマが大不振……それでも変われない理由

  • 西島秀俊が主演を務めた『真犯人フラグ -真相編』はネット上でも話題に

2022年のドラマシーンは、引き続きTBSが『DCU』『マイファミリー』などをそろえた日曜劇場を筆頭に強さを見せ、フジテレビが『ミステリと言う勿れ』『silent』などで配信再生数のトップを独走し、テレビ朝日は中高年層をベースにしつつ下の年齢層への訴求をはじめるなど、それぞれが異なる存在感を放った。

一方、日本テレビのドラマ3枠は一年を通して不振。冬ドラマの『ムチャブリ! わたしが社長になるなんて』『逃亡医F』、春ドラマの『悪女(わる) ~働くのがカッコ悪いなんて誰が言った?~』『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』『金田一少年の事件簿』、夏ドラマの『家庭教師のトラコ』『初恋の悪魔』『新・信長公記~クラスメイトは戦国武将~』、秋ドラマの『ファーストペンギン!』『祈りのカルテ 研修医の謎解き診察記録』『霊媒探偵・城塚翡翠』。

いずれも視聴率が奮わず、配信再生数もネット上の話題性も、他局の作品に遠く及ばなかった。

その最たる原因として挙げられるのが、保守的なプロデュース。新作として放送された11作中6作が「視聴率獲得の点で失敗しづらい」と言われる保守的ジャンルの事件・医療モノであり、もはやその戦略は現在の視聴者に通用していない。『悪女』を30年ぶりに引っ張り出してきてリメイクしたこと、ジャニーズ主演の『金田一少年の事件簿』シリーズも含め、手堅くいこうとして裏目に出るようなケースが続いている。

この背景として考えられるのは、他局よりも強い視聴率至上主義のムード。「ビジネススキーム上、仕方がない」という事情はわかるが、このままでは配信再生数や周辺ビジネスも含めた“クリエイティブ・ファースト”の作品が増えている他局との差は開く一方だろう。

唯一、ネット上の反応がよく、話題性が高かった冬ドラマの『真犯人フラグ -真相編』は、2021年秋から放送されていたオリジナル作。日テレが2019年の『あなたの番です』に続いて手がけた他局では見られない攻めに攻めた2クールミステリーだけに、2023年は視聴率の確保にとらわれすぎず、アグレッシブなプロデュースを見せてほしい。

■8位 NHK帯ドラマの第2ブランド『夜ドラ』の挑戦

  • 『卒業タイムリミット』主演の井上祐貴 撮影:宮田浩史

朝ドラしかり、大河ドラマしかり。2022年、NHKのドラマは常に話題を振りまいていた。その3番手に浮上しかけているのが、2022年春に新設された「夜ドラ」。まず「夜にも帯ドラマを作る」という発想、しかも「若年層がターゲットである」ことに驚かされた。

その内容も、『卒業タイムリミット』は学園ミステリー、『カナカナ』は元ヤンと幼児のハートフルファンタジー、『星新一の不思議な不思議な短編ドラマ』は一話完結のオムニバス、『あなたのブツが、ここに』はコロナ禍の日常を描いたヒューマン作、『つまらない住宅地のすべての家』はホームサスペンス、『作りたい女と食べたい女』はグルメに女性の生き方を絡めた作品と、さまざまなジャンルの意欲作を手がけ続けている。

なかでも『あなたのブツが、ここに』は、運送業界と水商売の難しさをシビアに描き、母娘を演じた仁村紗和と毎田暖乃の熱演、さらにエンディングの弾けるようなダンスなどで人気沸騰。知名度の高くない枠だったため波及力こそ限定的だが、「こちらのほうが朝ドラより面白い」という声が続出するなど、見た人の満足度は明らかに高かった。

ただ、22時45分~という開始時刻はドラマフリークにとって最悪の編成。22時台は全曜日で民放のドラマが放送されているメインの時間帯であり、「夜ドラ」の開始時刻はそのクライマックスにぶつかるため、「何でこんな時間帯に……」という戸惑いの声が飛んでいる。「なぜ朝ドラの8時~と同じように、キリのいい23時~にしなかったのか」と思われても仕方がないだろう。

そんな視聴者の都合を考えず、自局の編成ファーストになってしまうところがNHKらしいと言えばそうなのだが、作品のクオリティは高めだけに、可能性を秘めていることは間違いない。

朝ドラに続く2つ目の帯ドラマとしてブランドを定着させられるか。帯ドラマは生活に密着した楽しみがある一方で、民放では定期放送が難しい貴重なものだけに、『夜ドラ』への期待値は高い。

■7位 「平日ドラマは女性スタッフが作る」流れが加速化

  • 『PICU 小児集中治療室』主演の吉沢亮 撮影:宮田浩史

2022年の締めくくりとなる秋ドラマで注目すべき傾向が見られた。それは女性スタッフの手がける作品の多さと、平日放送への偏り。

まず脚本家を見ていくと、ゴールデン・プライム帯の新作ドラマでは、『PICU 小児集中治療室』(フジ系)を倉光泰子、『エルピス ―希望、あるいは災い―』を渡辺あや、『つまらない住宅地のすべての家』を池田奈津子、『君の花になる』(TBS系)を吉田恵里香、『ファーストペンギン!』(日テレ系)を森下佳子、『ザ・トラベルナース』(テレ朝系)を中園ミホ、『silent』(フジ系)を生方美久、『クロサギ』(TBS系)を篠崎絵里子、『アトムの童』(TBS系)を神森万里江の9人が手がけた。

一方、男性脚本家は、『親愛なる僕へ殺意をこめて』(フジ系)の岡田道尚、『一橋桐子の犯罪日記』(NHK)のふじきみつ彦、『祈りのカルテ ~研修医の謎解き診察記録~』(日テレ系)の根本ノンジ、『霊媒探偵・城塚翡翠』(日テレ系)の佐藤友治の4人のみで、秋ドラマの約7割を女性脚本家が担った。

また、連ドラの要であるプロデューサーも女性の割合が年々増えている。2022年秋ドラマも、フジ系の金城綾香と佐野亜裕美、TBSの黎景怡と武田梓、テレ朝の内山聖子、日テレの三上絵里子がトップに立つほか、多くの女性プロデューサーが名を連ねた。

演出家はまだまだ男性が圧倒的に多いものの、脚本家とプロデューサーは女性の割合が高まっているのは間違いないところ。しかも前述した作品を見ればわかる通り、彼女たちの手がけた作品は、女性視聴者の割合が高い平日に集中している。

『silent』の脚本を連ドラデビューの新人・生方美久に任せ、見事に成功させたこともあって、この流れは2023年になって加速するかもしれない。

■6位 韓国ドラマリメイク『六本木クラス』あえての“ほぼコピー”

  • 『六本木クラス』主演の竹内涼真 撮影:宮川朋久

2022年のドラマシーンを語るときに、避けて通れないのが『六本木クラス』(テレ朝系)。

制作が発表されたときから、「何で韓国ドラマをわざわざリメイクするのか」「オリジナルを超えるのは無理」「ヒットしたと言ってもしょせん有料のNetflixだろ」などの厳しい声が飛び、放送前から「失敗」のムードが漂っていた。

スタートしてからも低視聴率を報じられ、さらに香川照之のスキャンダルが重なるなど、まさに踏んだり蹴ったりの状態。しかし、放送が進むにつれて、ネット上の厳しい声は徐々に減っていった。

その理由は、Netflixで『梨泰院クラス』見たファンたちが批判の声をあげなくなったから。「完コピ」という声があがるほど、原作に忠実な脚本・演出を採ったことで叩く理由が減り、物語に集中できるようなムードが生まれた。

そうなると『梨泰院クラス』を見ていない人々は、復讐劇、三角関係のラブストーリー、仲間たちとの青春群像劇という3つの要素を純粋に楽しみやすくなる。竹内涼真、平手友梨奈、新木優子、鈴鹿央士らの熱演もあって、ネット上に「面白い」という声をあげる視聴者は増えていった。

しかし、最後の土下座シーンを除けば、「『コピー』とも言われた選択は正しかったのか」とは言い切れない。Netflixのヒット作を地上波でリメイクしたことは何の問題もないが、オリジナルに忠実な脚本・演出にするほど、スタッフもキャストも評価が上がりづらくなる。「オリジナルのファンから批判が出づらい反面、超えるどころか印象に残りづらい」という今回の戦略は、関わった人々にとって必ずしも胸を張れるものではないだろう。

あくまで日本版なのだから、日本人のスタッフによる思い切った脚色で、「こちらのほうが凄かった」などの称賛が飛び交う、挑戦的な姿勢が見たかった感が残る。