今回の実験では、阿寒湖が結氷している3月の晴れた日に、氷に約3m四方の穴を開けて、マリモ群落直上の水温と光強度の測定を実施。その結果をもとに、文化庁の許可を得て採集されたマリモ球状体を用いた検証実験が行われた。

検証では、マリモ球状体の表面から細胞を傷付けないように引き抜いた糸状体に対し、2℃の環境下で強光が照射された。その結果、糸状体細胞の光合成は短い強光照射で容易に阻害(強光阻害)されたが、この後に比較的弱い光を当てることで阻害前のレベルまで速やかに回復することが確認されたという。これまで、損傷した光合成装置の修復は低温下では起きにくいとされていたことから、マリモ細胞には未知の修復機構が存在することが示されたとする。

  • (上段)結氷と積雪により強い太陽光から保護されている場合(左)と、結氷が消失し、低温において強光に曝された場合(右)のイメージ。(下段)低温下、弱光下での光合成(左)と強光下での光合成(右)

    (上段)結氷と積雪により強い太陽光から保護されている場合(左)と、結氷が消失し、低温において強光に曝された場合(右)のイメージ。(下段)低温下、弱光下での光合成(左)と強光下での光合成(右)(出所:神奈川大プレスリリースPDF)

また一方で、結氷消失後の生息地で予想される疑似自然光環境下にマリモ糸状体を置いたところ、光合成の阻害からの回復は見られなくなったとのこと。またさらに数日間の観測を続けたところ、糸状体細胞は枯死してしまったとする。

今回の研究により、マリモの糸状体細胞は低温・強光の環境に一定時間は耐えられるものの、温暖化が進行することで予想される自然環境下での長時間の低温・強光には耐えられないことが明らかにされた。研究チームは、結氷がマリモの生存に重要であることが示唆された今回の研究成果は、湖沼の生物への温暖化の影響に警鐘を鳴らすものとする。また、国の特別天然記念物「阿寒湖のマリモ」保護の具体的な対応策提案にもつながるとした。

なお、今回の知見はマリモ糸状体細胞を用いて得られたものであり、球状集合体としての応答も詳細に調べる必要があるとのこと。今後は、阿寒湖の水温/光環境の経時観測を行うと同時に、球状体集合体としてのマリモの光合成と損傷の実態解明に取り組む予定とした。また併せて、光修復の低温適応機構の解明も目指すとしている。