「えらい」と聞いて、どのような意味を思い浮かべますか。実は「えらい」は方言でもあり、地域によって「えらい」は「疲れた」「しんどい」などさまざまな意味があることをご存じでしょうか。東海、関西、中国、九州など地域によって使い方も少しずつ異なります。
本記事では「えらい」の地域別の意味や使い方をご紹介します。進学や就職などで違う地域に引っ越す際や、別の地域出身の方と話す際などに、ぜひ参考にしてみてください。
「えらい」は方言? 標準語の意味とは異なるの?
まずは標準語の「えらい」の意味を見ていきましょう。
一般的な「えらい(偉い)」の意味とは
辞書を見てみると、「えらい(偉い)」とは一般的に、
- 社会的地位や身分、または人間としての行動などが普通よりも優れている様子
- 程度がはなはだしい、ひどい様子であるなど、物事の状態が普通ではない様子
という意味の言葉です。
一般的に「えらい(偉い)」という言葉は1つ目の、「立派である」「身分が高い」などのニュアンスで使われる場合がほとんどでしょう。
しかし、後述する方言での意味とも近い、2つ目の「程度がはなはだしい様子」という意味も、全国共通で使われています。こちらの意味での使われ方は、「昨日はえらく寒かった」「先日はえらい目にあった」といった例文を思い浮かべるとイメージしやすいでしょう。
「えらい」の語源・由来
「えらい(偉い)」は、江戸時代から使われるようになった言葉といわれています。当時は「大変だ」「すごい(ひどい)」の意味で使われていたようです。前述の「程度がはなはだしい様子」の意味に近いといえます。
しかし、江戸時代後半に、「立派である、地位が高い」という意味の「えらい(偉い)」が使われ始め、こちらの意味が標準語としてより定着したと考えられています。
一方、各地方では、「大変だ」「すごい(ひどい)」の意味が、少しずつ異なる意味で広がっていったようです。
地域別の「えらい」の方言の意味と使い方
方言での「えらい」の意味は、地域によって少し異なります。さらに、同じ地方でもえらいが方言的な意味として通じる場合もあれば、そうでない場合もあるようです。本記事では各地方での一般的な意味や使われ方をご紹介します。
東海地方(愛知・岐阜など)、長野での「えらい」の意味と例文
愛知県や岐阜県などの東海地方、長野県などでは主に下記の意味で「えらい」を使用します。
・疲れた、つらい、だるい
・大変(すごく)
このように、体が疲れたときやつらいときに使う場合の他、程度がはなはだしい場合にも使うので、状況に応じて何を意味するのか考える必要があります。
例文をご紹介します。
【「疲れた、つらい、だるい」の意味】
・「今日は高熱で体がえらいわ~」→「高熱で体がだるいよ」
・「階段を一気に上ったのでえらい」→「階段を一気に上ったので疲れた」
【「大変(すごく)」の意味】
・「今日は駅前がえらい人出だなもんな」→「今日は駅前が大変な(すごい)人出だね」
また、名古屋弁で「どえりゃあ」という言葉を聞いたことはありますか。「どえりゃあ」は「どえらい」を名古屋弁で言った際の表現で、「ど」は「とても」、「えりゃあ」は「大変、すごく」を意味します。つまり、「ものすごく」を「どえりゃあ」と言います。
例えば「ものすごくおいしい!」と、料理がとてもおいしくて感動したことを伝えたいときは、「どえりゃあおいしい!」となります。単語の前に「ど」をつけて程度がはなはだしいことを伝えるのは、東海地方と関西特有の表現と考えられます。
関西地方(大阪・京都など)での「えらい」の意味と例文
大阪や京都などの関西地方でも「えらい」は、以下のように複数の意味で使われます。
・とても
・しんどい(疲れた)
・大変
なお標準語の「えらい」は「ら」にアクセントがつきますが、関西地方での「えらい」は「え」にアクセントがつきます。
例文をご紹介します。
【「とても」の意味】
「えらいかわいい服やなあ」→「とてもかわいい服だね」
「えらい大変なことやなあ」→「とても(すごく)大変なことだね」
【「しんどい(疲れた)」の意味】
「働く時間が長くてえらい」→「働く時間が長くてしんどい」
「山を登ったのでえらい」→「山を登ったので疲れた」
【「大変」の意味】
「部屋が汚くて掃除がえらい」→「部屋が汚くて掃除が大変だ」
「えらいことになったな」→「大変なことになったな」
中国地方(広島・岡山など)での「えらい」の意味と例文
中国地方の「えらい」は以下の意味で使われます。
・疲れた
・苦しい
・とても
次に例文をご紹介します。
【「疲れた」の意味】
「祝日で街は人が多くてえらい」→「祝日で街には人が多くて疲れる」
【「苦しい」の意味】
「熱が38.5℃もあってえらい」→「熱が38.5℃もあって苦しい」
【「とても」の意味】
「このパン屋の前を通ると、えらいいい香りがする」→「このパン屋の前を通ると、とてもいい香りがする」
九州地方(福岡・長崎など)での「えらい」の意味と例文
九州地方の「えらい」は「疲れた」などの意味はなく、主に以下の意味で使われているようです。
・とても、非常に
上記の「とても」や「非常に」は、マイナスの感情のときや程度がはなはだしく悪いときだけでなく、プラスの感情で程度を表現したい場合にも使われます。
例文をご紹介します。
「今年の梅雨の雨はえらい強か~」→「今年の梅雨の雨はとても強いね~」
「昨日のドラマはえらいよかった」→「昨日のドラマは非常によかった」
「えらい」以外にもある! 実は方言だった意外な言葉
主に西日本では、「えらい」に「立派である、地位が高い」という意味以外の意味があることがわかりました。ここでは、西日本のさまざまな地域で使われる、その他の方言についてもご紹介します。標準語だと思ってうっかり使うと、意味が通じない可能性があるので気を付けましょう。
東海、中部地方
- 「つる」
机やテーブルを「持ち上げる」また「持ち上げて移動させる」の意味で使われる言葉です。東海や中部地方出身の方は、学校の掃除の時間に机を移動させる際に「机をつる」などと表現した方も多いのではないでしょうか。東海、中部以外では通じない表現ですので、「持ち上げる」「運ぶ」「移動する」などで言い換えて伝えましょう。
関西地方
- 「なおす」
全国的には「修理する」の意味で使われる「なおす(直す)」ですが、関西では「片付ける」の意味でも使われます。子供の頃「物が散らかって汚いから、なおしなさい!」と怒られた関西出身の方はいませんか。片付けることを「なおす」と言わない人にとっては「壊れてないけど…」と思ってしまう表現です。
中国地方
- 「たいぎい」
「たいぎい」は、「面倒くさい」と「だるい」の意味を持つ便利な言葉です。体が疲れているときや体調が優れないときに使います。筆者は島根県に住んでいたことがありますが、風邪をひいたときに病院で「たいぎいのはいつからですか?(体調が悪くだるいのはいつからですか?)」と聞かれたことがあります。
九州地方
- 「からう」
九州で生まれ育った方は聞き慣れているであろうフレーズですが、「からう」も方言です。「からう」を標準語に直すと「背負う、しょう」になります。「ランドセルをからう」は「ランドセルを背負う」という意味です。
- 「はわく」
「ほうきで掃く」「廊下を掃く」などの「掃く」を九州では「はわく」と言う場合があります。学校の掃除の時間に「遊ばずにちゃんとはわいて!」と言われたら「遊ばずにちゃんと掃いて!」と注意されています。
先ほど紹介した「からう」などにも当てはまりますが、学生時代に聞き慣れた言葉が標準語ではなく方言だと知ると、違う地方に行ってから驚かされることが多くありますね。
方言の「えらい」と、標準語の「偉い」を混合しないように使おう
方言として使われる「えらい」は、主に西のエリアで多く使われます。意味は地方によって異なりますが、多くのエリアで「疲れた・大変・とても」といった意味で使われることがわかりました。
「えらい」を「偉い」と勘違いされてトラブルになった、気まずい雰囲気になったなどということがないよう、注意して方言と付き合うようにしましょう。