かずさDNA研究所(かずさDNA研)、ベニクラゲ再生生物学体験研究所、東京電機大学(電大)の3者は12月22日、ベニクラゲの若返り機構を解明するため、和歌山県の田辺湾で採取された個体のゲノム塩基配列を解読し、人工的に脱分化・再分化を起こさせ、その際の遺伝子発現の変化を調べて、この過程で特徴的に発現している遺伝子、すなわち、若返り過程ではたらいていると考えられる遺伝子候補を絞り込んだことを発表した。
同成果は、かずさDNA研 遺伝子構造解析グループの長谷川嘉則グループ長、ベニクラゲ再生生物学体験研究所の久保田信所長、電大 理工学部理工学科 生命科学系の刀祢重信客員研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、DNAおよびゲノム関連の幅広い全般を扱う学術誌「DNA Research」に掲載された。
ベニクラゲは体長が4~10mm程度の小さなクラゲ類で、赤道をまたぐ中緯度帯の暖かい海に多く生息している。その最大の特徴は、多細胞動物では唯一、実験室において繰り返し若返ることが証明されているという点だ。成熟した個体からでも、成長段階の途中の若い状態である「ポリプ」に戻ることができる。
再生する生物はほかにも存在するが、個体が丸ごと若返る生物は現在、ベニクラゲを含む数種のクラゲ類でしか確認されていない。ベニクラゲの若返りの仕組みを解明することは、若返りのみならず、細胞の再生や脱分化・分化の理解につながるとして大いに期待されている。そこで研究チームは今回、その若返り機構を解明するために、和歌山県の田辺湾で採取されたベニクラゲのゲノム塩基配列を解読することにしたという。
すでに研究チームは2016年8月、ベニクラゲの生活環のステージごとに特異的に発現している遺伝子の探索についての研究成果を発表済みだという。しかし、当時はベニクラゲのゲノム情報がなかったため、遺伝子の構造を部分的にしか解明することができなかったことから、今回の研究では、遺伝子配列の全長を明らかにするため、「ロングリード技術」と呼ばれる新しい技術を用いてゲノムの解読を行うことにしたとする。
しかし、ロングリード技術を用いてベニクラゲのゲノム解読を行うためには、同じ塩基配列を持つゲノムDNAが大量に必要とされるが、クラゲ類は体重の90%以上が水分で、中でもベニクラゲは体長が4~10mmと小さく、1匹のベニクラゲから得られるゲノムDNAでは十分ではなかったという。
そこで今回は、ベニクラゲの人工飼育系の確立にも取り組み、電大で確立されたベニクラゲを人工海水で飼育する方法を用いて、1個体に由来するクローン個体を生育することにしたという。具体的には、1500匹の若いクローンクラゲを集め、そこから3マイクログラムのゲノムDNAを抽出し、同じ塩基配列を持つDNAを大量に得ることに成功したという。