アストロバイオロジーセンター(ABC)とすばる望遠鏡(国立天文台 ハワイ観測所)は12月21日、おうし座の方向約160光年の距離にあるヒアデス星団に属する、年齢約7.5億年の若い恒星「HIP 21152」の周囲を巡る褐色矮星「HIP 21152 B」の姿を直接撮影したことを発表した。
また、同褐色矮星の質量が木星の22~36倍という精密測定にも成功し、質量が精密に求められている褐色矮星の中では最も軽く、惑星質量に迫る天体であることを明らかにしたことも併せて発表された。
同成果は、ABCの葛原昌幸特任助教を中心とした、国立天文台、東京工業大学、米・カリフォルニア大学サンタバーバラ校、NASAの研究者らが参加した国際共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に掲載された。
褐色矮星は、恒星と木星のような巨大ガス惑星の中間の質量を持つ、太陽系には存在しない種類の星とされる。褐色矮星の定義は複数存在するが、一般には木星質量のおよそ13倍から80倍とされている(太陽は木星の約950倍)。
恒星とは水素による核融合で自ら輝く天体だが、それには最低でも太陽質量の8%が必要とされている。褐色矮星はそれに満たないために水素による核融合は起きないが、重水素による核融合は起きるため、恒星でも惑星でもないという特徴を持つ。ただし、重い巨大惑星と軽い褐色矮星はほとんど同じ性質を示すと考えられており、巨大惑星の進化や大気を調べる上でも、褐色矮星は重要な存在とされている。
褐色矮星には単独の「孤立型」と、恒星を周回する「伴星型」の2種類が存在する。1995年に最初の褐色矮星が発見されてから、現在ではすでに数千個が発見されているが、伴星型の褐色矮星の頻度は100個の恒星あたりに数個と希少であるため、今回の観測では、恒星が天の川銀河内を独自の速度を持って運動することによる「固有運動」の情報を利用し、すばる望遠鏡による撮像探査が進められてきた。
この観測手法は、ある恒星を伴星が周回する場合、その恒星の固有運動が伴星の重力の影響で速度が変化することを用いるというものだという。ただし、褐色矮星や巨大惑星などは恒星に比べれば軽いため、それらの伴星によって引き起こされる速度変化は非常に小さく、その測定は困難だったという。
そこで利用されたのが、1990年代に活躍したESAの位置天文衛星「ヒッパルコス」と、その後継機で2013年に打ち上げられた「ガイア」による測定値であり、両衛星の測定値の差を測ることで、固有運動の微小な加速を導出することが可能となったという。