真冬の早朝、刺すような寒さの中をトレーニングしに行く充実感は否定しない。だが、多くのサイクリストは走る機会が減り、毎年、春に練習不足を痛感する。

この悪循環を断ち切るサービスとして大人気となっているのがスマートトレーナーとバーチャルサイクリングアプリを使ったコネクテッド・サイクリングだ。

■ゲーム感覚でトレーニング

室内トレーニングなら、会社に行く前に軽く汗を流すのも、雨でも雪でも自分のスケジュールや気分に合わせて自由自在。しかもサイクリングのようなエンデュランススポーツは、パフォーマンスを維持するにも向上させるにも、継続的なトレーニングが欠かせない。

ただ、ハムスターのように同じ場所でひたすら行うペダルを漕ぐのはなかなか大変。工夫しないと退屈なのだ。

しかし、それを解消したのがコネクテッド・サイクリングだ。アプリを使ったオンラインプラットフォーム上で、ゲーム感覚でトレーニングを楽しめるのだ。

必要なのは自転車、スマートトレーナー、アプリ(対応するスマホ、PCなどを含む)の3つ。高価なバイクがなくても、クロスバイクで十分に楽しめる。

スマートトレーナーとは、アプリと連動して負荷を与え、自宅でも峠を再現する機器のこと。いくつかのメーカーから製品が発売されており、多くのモデルは走行中のパワーが計測できる。従来のローラー台よりも高価だが、はるかに多機能で静粛性も高い。

アプリはオンラインでプラットフォームを楽しむために必要不可欠で、コネクテッド・サイクリングにおいては、フィットネスジムのような存在。アプリによって楽しみ方は変わるが、圧倒的なシェアを誇っているのが2015年に登場した「Zwift(ズイフト)」である。だが、最近はいろいろなアプリが増えつつある。今回は新しいアプリと進化したスマートトレーナーを紹介しよう。

■ツーリング感覚を楽しむ「ROUBY(ルービー)」

アプリにはコースが仮想空間と実写の2種類がある。「ROUBY(ルービー)」は実写アプリでもっとも人気があり、評価もどんどん高くなっているアプリだ。

コースのバリエーションは日本を始め32カ国、500以上のコースが用意されているので、自宅で「ラルプデュエズ」や「パッソ・デル・ステルヴィオ」と言ったヨーロッパの伝説的な峠を走ったり、レースやグループライドなどを楽しむことができる。

  • トレーニングに必要な情報は整理され視界を邪魔しない。

ルービーの魅力はなんと言っても、没入感の高さ。仮想空間のゲームっぽい世界観も悪くないが、ルービーはコースの景色がリアルなので、「あそこまで頑張ろう」とか、「ここでは力をセーブして…」というRide感は、外を走っている時と同じ。また、画面の構成は余計なアイコン等がなくシンプルなので、画面が小さいタブレットやPCでも見やすいのが心地よい。

1コースあたり走っている人(アバター)の数は多くないので、ツーリング風にゆっくりと競わずに楽しめるのはズイフトにない良さだろう。もちろん他のライダーと一緒になって走ることも可能だし、レースイベントや目標をクリアするチャレンジライドなど、トレーニング機能はすべて備わっている。

そして、ルービーのアドバンテージはなんと言っても、コースが豊富にあること。飽きっぽい人でも、32カ国500以上のコースを走破するのは大変だし、コースはどんどん増えている。競技者を目指さないフィットネスユーザーから、バーチャルコースに飽きた上級者にとっても魅力的なアプリだ。価格は月額/$12ドル 


  • 上からパワー、ペダルバランス、ペダル回転数、心拍数、速度の解析。

■洗練されたインターフェイスの「Wahoo X(ワフーエックス)」

「Wahoo X(ワフーエックス)」は2022年4月にバーチャルサイクリングアプリ「Wahoo RGT」と既存の「ワフーシステム」を統合して誕生した新サービスだ。2つのサービスを合わせているためサービスも多様で、細部まで理解するのは少々複雑だが、後発の強みをいかして洗練されたインターフェイスが魅力だ。

  • 出力、心拍数、ケイデンスなどメニューが示され、効率的にトレーニングが行える。

「Wahoo RGT」に用意されている主なライドは3種類。12種類の中から好きなコースを走る「JUST RIDE」、他のユーザーや自分が作成したイベントを走る「EVENTS」、閾値持久力トレーニングやインターバル走などメニューをこなす「WORKOUTS」がある。

第6世代へと進化したワフーの最高級スマートトレーナーの「KICKR(キッカー)」を使って、「Wahoo RGT」を体験してみたが、なんとも衝撃的な結果に。グラフィックの質感も高く、坂でペダルが重くなるレスポンスなど、筆者のズイフト+第一世代スマートトレーナーと比べると、まさに世代の違いがある。

  • 第6世代へと進化した「KICKR(キッカー)」。18万7550 円

筆者が使っているスマートトレーナーも静粛性には定評があり、隣の部屋で家族が寝ていても文句を言われたことがない。しかし、キッカーと比べれば騒がしいし、床に接する部分にある「AXIS FEET(アクシスフィート)」が絶妙にしなり、加速したときの違和感がない。

レスポンスの速さについては、低遅延&データ転送速度の違いによるものだ。スマートトレーナーは安い買い物ではないが、最近、アーリーアダプターの人たちが買い換えているというのも納得である。

コネクテッド・サイクリングの旬は真冬と真夏。特に冬はユーザーが増える時期だ。最近の高級ウインターウエアは、ジャージ+タイツ+アクセサリーなど一式揃えると10万円を越えてしまうことも珍しくない。スマートトレーナーを新規で買ったり、買い換える人が多いのも当然だろう。

サイクリングの基本は外を走ることにある、だが、効率的かつ安全にトレーニングするなら、コネクテッド・サイクリングは活用の価値が十二分にある。自転車イベントやショップで体験会をやっているので、興味のある人はもちろん、古い機材で楽しんでいる人も足を運んでみる価値は十分にある。

文/菊地武洋