そこで開発されたのがCALETである。同観測装置は、世界で初めて宇宙機に搭載された宇宙線シャワーを可視化可能なカロリメータ方式の観測装置だ。カロリメータ型装置は、電荷の正負は判定できないものの、これまでは高精度観測が困難で未開拓な領域だったTeV以上のエネルギーの測定も可能だという。

  • CALETの主検出であるカロリメータ部の装置概要。上から電荷測定器(CHD)、撮像型カロリメータ(IMC)、全吸収型カロリメータ(TASC)。1TeVの電子シャワーのシミュレーション例が上書きで示されている

    CALETの主検出であるカロリメータ部の装置概要。上から電荷測定器(CHD)、撮像型カロリメータ(IMC)、全吸収型カロリメータ(TASC)。1TeVの電子シャワーのシミュレーション例が上書きで示されている(出所:早大プレスリリースPDF)

今回の研究ではCALETを用いることで、広いエネルギー測定範囲と確実な装置較正により、核子あたりのエネルギーで8.4GeVから3.8TeVという広いエネルギー領域で、B/C比を高精度に観測することに成功したとする。これまでは複数の種類の検出器を組み合わせることで計測されていたが、CALETはそれを単独で成し遂げた形だ。

  • CALETにより得られた核子あたりのエネルギーで8.4GeVから3.8TeVの領域で得られたホウ素(a)、炭素(b)、ホウ素/炭素(B/C)比のエネルギースペクトルの観測結果(c)を、ほかの観測結果と比較して示す。ホウ素と炭素のエネルギースペクトルの縦軸にはエネルギーの2.7乗が積算されている。黄色のハッチ領域はCALETの系統的誤差を表し、その他の観測の誤差は統計誤差のみを示す

    CALETにより得られた核子あたりのエネルギーで8.4GeVから3.8TeVの領域で得られたホウ素(a)、炭素(b)、ホウ素/炭素(B/C)比のエネルギースペクトルの観測結果(c)を、ほかの観測結果と比較して示す。ホウ素と炭素のエネルギースペクトルの縦軸にはエネルギーの2.7乗が積算されている。黄色のハッチ領域はCALETの系統的誤差を表し、その他の観測の誤差は統計誤差のみを示(出所:早大プレスリリースPDF)

特に高エネルギー側では、宇宙線の銀河内伝播モデルの決定に重要なTeV領域での観測により、これまで未解決だった加速領域(超新星残骸)におけるホウ素の生成量について定量的な評価を与えているとした。

なお今回のCALETによる観測では、炭素とホウ素の絶対値に関する系統誤差に基づいてB/C比の誤差が正確に求められており、正確なモデル選別のために貴重なデータを提供しているとする。

研究チームによると、星の元素合成で生成される宇宙線(一次成分)のエネルギースペクトルに加えて、それらの星間物質との相互作用によって宇宙空間で生成されるベリリウム、リチウム、ホウ素などの宇宙線(二次成分)の観測は、今後の宇宙線の加速領域や銀河磁場構造の理解にとって重要だ。

しかし、これらの二次成分は絶対数が少ない上に、エネルギーの増大とともに一次成分に対してさらに減少するため、これらの正確な理解のためには、観測の継続により観測量を増やすことでそれぞれのエネルギースペクトル観測の精度をあげると同時に、より高エネルギー領域で観測することが必要となる。今後これらを実現し、宇宙線の超新星残骸や銀河空間での伝播機構のさらに高精度な理解を目指すとしている。