現在進行形でその姿を変えていく街・渋谷。2012年の渋谷ヒカリエ開業を皮切りに、渋谷スクランブルスクエアや渋谷ストリームの開業など、渋谷駅周辺は段階的に再開発が進められている。
そして来る2023年、このプロジェクトにおいて注目されるのは、桜丘町地区だ。おおよその位置を説明しておくと、渋谷駅を中心とした時、国道246号線を挟んで南側、山手線の外側(西側)のエリアとなる。「セルリアンタワー東急ホテル」や大規模オフィスビルが立ち並ぶ一方、図書館やプラネタリウムを備えた「渋谷区文化総合センター 大和田」、予備校や専門学校もあり、歓楽街・渋谷とはまた違った表情が味わえる街である。
その中心をはしる急勾配の「さくら坂」沿いに、12月23日「渋谷SAUNAS(サウナス)」が新規開業する。しかも、マンガ・ドラマでサウナブームの火付け役ともなった『サ道』の作者・タナカカツキ氏が総合プロデュースとして参画しているというから、まさに鳴り物入りのオープンだ。今回は先駆けて、施設の内覧及び体験をさせて頂く機会を得たので、渋谷SAUNASの全貌についてたっぷりお届けしたい。
まずは基本情報を簡単にご紹介する。JR渋谷駅からは徒歩5分、とGoogleマップでは出たが、渋谷駅は複雑な構造をしており、いまだ再開発の途中でもあるので、7〜8分みておいた方がよいだろう。JR渋谷駅の南改札を出て左手側、バスターミナルから歩道橋を上って下り、桜丘町に向かうのが現在は一番スムースなルートかと思う(2022年12月現在)。
営業時間は朝8時〜夜24時。平日は2,800円(税別)、土日祝は3,500円(税別)とやや高めではあるが、朝からサウナに浸れるのは嬉しい。全サウナあわせて約80名のキャパに対して、ロッカー数は男女合わせて160ほどとのこと。そして最大の特徴は、こだわり抜かれた至高のサウナ室を全9室もっていることだろう。ここではこの「9」にちなんで、実際感じた特徴を9つに絞ってお伝えしたい。
1. 気分にあわせて使い分けられる、9つのサウナ
サウナに特化した施設でもこれだけの数を揃えているところは稀だ。しかもそのそれぞれが実に個性的で、これまでのオーソドックスなサウナ室はひとつもない。
例えば「SOUND(サウンド)」ではサウンドシステムが組み込まれており、ロウリュの熱を受ける反射板が音をも拡げている。「BED(ベッド)」ではコンパクトな3人までのサウナで寝転ぶことができるし、「VIHTA(ヴィヒタ)」はその名の通りヴィヒタで覆い尽くされている完全な非日常空間だ。このそれぞれを当日のコンディションや混み具合などから自由にセレクトしていけることこそ渋谷SAUNASの醍醐味であろう。なお実際は男女で5つと4つに分かれているので、一日で9つ全てを体験することはできない(男女は日替わりになっている)。
2. サウナーに特化した水風呂で、頭を冷やす
水風呂は関東最深級を誇る深さ160cmの水風呂「SYVÄ(シヴァ) 」と、寝風呂型で後頭部も冷やす「MATALA(マタラ)」の2種類。加えて、紐を引っ張ると樽桶に張られたぬるま湯が頭上から降り注ぐシャワーが備わっている。そのどれもに共通するのは、サウナで温まった「頭」を冷やすことを目的としている点だ。温浴施設の水風呂では頭まで潜ることが禁止されているケースが多いが、こちらではその逆で「頭寒足熱」。文字通り頭から足まで全身でサウナを満喫しよう。
3. 最重要! 外気浴スペースの開放感たるや
サウナを楽しむ際、個人的に一番重要視しているのが休憩スペースの環境である。火照った身体を休め、静かに風や音を感じられる空間……。渋谷SAUNASの3Fには水風呂と観葉植物、そして周囲にはステップ階段が備え付けられており、ここにて腰を下ろす。天を仰げば空が見える。渋谷の中心とは思えないほど騒音も気にならない。リクライニングチェアのようなものはなく、この場所で一人ひとりが静かに目をつむることになるのだろう。こちら、筆者オススメのスポットである。ちなみに2F部分にも休憩スペースはある。
4. 渋谷SAUNASには、湯がない!
見出しの通り、渋谷SAUNASにはサウナや水風呂、シャワーはあるが、湯船はない。いわゆる「お風呂屋さん」としての機能はないのである。「サウナ・冷水浴・外気浴」これだけをシンプルに経験してほしいとの思いからと察するが、これはなかなか尖った特徴だ。大の「銭湯ファン」として私個人としては少し寂しい気持ちもあるが、ここまでストイックに理想のサウナを表現した施設であることは尊重したい。
5. アウフグースにウィスキング……コアなファンも唸らせるサービス
普段サウナを利用されない方には聞き慣れない言葉かもしれないが、渋谷SAUNASではアウフグースやウィスキングのサービスも体験することができる。アウフグースとはサウナストーンにかけられた水によって生じる蒸気をタオルで拡散させるサービスだ。「熱波」、これを提供する人は「熱波師」とも呼ばれ、サウナファンの中ではイベント化しているほどの人気のコンテンツだ。ウィスキングはウィスクと呼ばれる植物の束を身体に押し当てたり軽く叩いたりするマッサージのようなサービスで、日本全国でも実施している店舗は多くない。ウィスキングは経験した人によると「めちゃくちゃ気持ちいい……」とのことなので、近く体験してみるつもりだ。
6. シャワーヘッドや洗面器、アメニティにもこだわりが
立ちシャワーの頭上から降り注ぐシャワーヘッドはテレビのアンテナ型のような一風変わった形になっている。水風呂前の洗面器は銅製のようだったし、シャワーやパウダールームに置かれているボディソープや化粧水は、国産の植物原料や植物由来原料を使用した「OSAJI(オサジ)」というメーカーのもので統一されている。こういった細部のこだわりもチェックしていきたい。
7. ミシュラン2つ星が監修するヴィーガンレストラン
館内のレストランを監修するのは、ミシュラン2つ星の精進料理「醍醐」の野村祐介氏。提供されるのは全てヴィーガンフードと、サウナ後でも罪悪感を持たせないあたり、気が利いている。ヴィーガンとはいえ、スパイシーカレーやラーメン、さらには全粒粉のドーナツやクラフトオロポと、満足感たっぷりのラインナップ。
8. ワークスペースとしてとらえるサウナ
テーブルとカウンターで構成されたカフェ風のオープンエリアは、電源・Wi-Fi完備のコワーキングスペース。仕事にリラックスにと自由に利用ができる。また予約制で会議室も2部屋準備されており、ビジネスミーティングとサウナ体験を組み合わせることで、これまでになかったアイデアが湧いてくるかもしれない。
9. パーフェクトな立地! ここに欲しかったサウナ
おおよその位置については冒頭でお伝えしたが、駅至近といって差し支えないだろう。しかも当然ながら近隣は渋谷のど真ん中。サウナ前後に時間を過ごす選択肢には全く困らない。実は渋谷という街に、サウナの選択肢は多くない。道玄坂上のカプセルホテルは先日休業してしまい、会員制サウナやプライベートサウナは近年開業したが、高価格帯であったり敷居が高かったりする点は否めない。また、サウナは依然として男性文化の側面が根強く、都内だけみても男性専用施設であるところが少なくない。こうした現状からも、男女分け隔てなく楽しめるサウナ施設の誕生は、それだけで喜ぶべきことである。
人が求めるサウナの形は様々ではあるが、この渋谷SAUNASの開業がサウナ業界にさらなる活気をもたらすことは間違いない。開業後しばらくは人数を絞った予約制になるようで、予約さえ取れれば混雑でサウナを満足に楽しめない、ということはなさそうだ。渋谷発の新しいサウナ体験、一度あなたのアクティビティ候補に入れてみては。