北海道を舞台に、子ども専用のICU(集中医療室)=PICUで働く医師や患者、その家族を描いた医療群像劇『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系、毎週月曜21:00~)が、きょう19日に最終話を迎える。SNSでは「毎回泣ける」「つらい、悲しい、考えさせられる」「見応えがある」など好意的意見が散見される今作を演出しているのが、平野眞監督だ。
平野監督と言えば、木村拓哉主演の『HERO』『エンジン』『CHANGE』をはじめ、『やまとなでしこ』『僕と彼女と彼女の生きる道』『ラスト・シンデレラ』『不毛地帯』『独身貴族』『監察医 朝顔』『SUPER RICH』などを演出してきたベテランだが、数多くのスターと仕事をしてきた中で、今作の主演を務める吉沢亮という俳優はどのように映っているのか。昨今の見逃し配信やVOD事情も併せて聞いてみた――。
■非常に高度なテクニックと才能
――今回、初めて吉沢亮さんとお仕事をされてどのような印象を持ちましたか?
私が圧倒的に彼のすごさを感じたのは、1話で女の子が亡くなったエピソードですね。床に飛び散った血を、新米小児科医の志子田武四郎(吉沢)が拭いているシーンがあるんですよ。そこでPICU科長の植野先生(安田顕)に話しかけられたときの吉沢くんのセリフが、「はい」の一言だったんです。台本上もそれだけだったのですが、かすれている「はい」と、子どもを亡くした「はい」、その他、さまざまな思いが表現された「はい」だったので現場でビックリしちゃって。「あ、こんな『はい』があるんだ」と驚嘆しましたね。そこから僕は、吉沢くんの「はい」のセリフに注目するようになったんです。
――確かに。特に序盤は吉沢さんのセリフが少なめで「はい」のセリフが多かったですね。
普通に「はい」って答えることもあるんですけど、積もり積もって隠された感情がある「はい」であるとか、「今回はこんな『はい』なんだ」「今度はこの『はい』か」と、とても楽しみになってきました。
――さすが大河ドラマ(『青天を衝け』)の主演俳優ですね。
例えば、子ども相手のお芝居をしても、上司に向かってお芝居をしても、家族や幼なじみにお芝居をしても、いつも目線が同じで、相手が誰かとか関係ないんですよ。普通は子どもを相手にお芝居をすると大人ぶったり、格好をつけてみたり、相手が年配だから意識したり、キャラがブレる。でも吉沢くんは、その都度のシチュエーションでお芝居を変えても、あたかも志子田武四郎という1人の人間が様々な境遇に対面しているかのように、役柄になりきっているんです。これはすごいことです。
――思い知らされてしまったと。
吉沢くんは普段が控えめだからでしょうか。彼のすごさに今回初めて気づかされたというか。あと、あんなにきれいな顔をしているのに、志子田というキャラはモテそうにないじゃないですか(笑)。それはたぶん、その役柄における人柄が外にまでにじみ出しているということなんです。非常に高度なテクニックであり、才能だと感じます。
■コントとリアルのギリギリのラインで表現してくれた
――吉沢さんとは撮影前にどのような打ち合わせをしたのでしょうか。
基本、説明ゼリフってちょっとがっかりするから極力なくしていきたいと。主人公にそうしたセリフがない方がいいよねって話をしました。だから序盤は「はい」か「いいえ」というセリフが多いんです。あとはもっと吉沢くんに自由に演じていただいたほうが、この作品がきっと生きてくるだろうなと感じていました。
――本作には少しクスッと笑えるシーンも入っていますね。
それは私がそうしたかったんです(笑)。志子田先生が着替えるシーンがあるんですけど、ズボンの脚が片方入らなくて困っているというお芝居をお願いしたんですよ。すごく真面目なシーンだから則さないんですが、逆にそこで臨場感が増すと思いまして。それも吉沢くんが生活のあるあるというところで、コントとリアルのギリギリのラインで表現してくれた。そうした日常あるあるを随所に散りばめています。
――それは、感動の押し付けのあざとさを廃するためでしょうか。
そうですね。どんなことがあっても人は生きていかなければいけないじゃないですか。悲しいことがあっても、トイレも行くしお風呂にも入るしご飯も食べる。例えばお葬式で足がしびれた人を見たらおかしいですよね。そういった中に悲しさや切なさがあり、それを表現していきたい。そもそも感動は“見せる”ものではない。“感じて”もらうものだと僕は思っています。
――カメラが回ってないときの吉沢さんはどんな方ですか?
慣れてくるといろいろとお話ししますね。皆が盛り上がっているのと遠目で見てる感じではありますけど、高杉真宙くんとは普通にしゃべっています。ただ、率先してしゃべるタイプではなく、イメージ的には静かな方なのかな。
■日本のドラマは“日常”を丁寧に描くべき
――昨今はリアルタイム視聴だけでなく、見逃し配信やVOD配信で視聴される方も増えました。こうした中で制作側として意識していることはありますか?
基本は変わりませんが、ただ画面は明るくしておきたいなと思っています。スマホで暗い中で見る方もいらっしゃるじゃないですか。目を細めないと見えないような暗い画面は避けてますね。
――また、VODの発達でライバルは他局だけではなく、海外ドラマなどとも競合となりますが、それについては?
私が意識しているのは、帰ってきたら「ただいま」、そして手を洗う、そんな日常生活をきちんと表現することです。日常や衣食住はとても大切で、そこをしっかりと表現することが日本のドラマでは大切だと感じています。日本は日常の丁寧なところを細かく描いていくべきと個人的には思っています。
――ありがとうございます。では、最後に見どころをお願いします。
主人公の感情の変化を楽しんでもらえたらうれしいです。主人公はスーパードクターではないので、もちろん失敗もします。それに、ヒヤヒヤしてもらったり、不安を感じてもらったり、予定調和ではなく、登場人物たちの“日常”から感情移入していただけたらと思います。
●平野眞
1965年生まれ。主な演出作品に『ショムニ』『お水の花道』『やまとなでしこ』『まるまるちびまる子ちゃん』『ラスト・シンデレラ』『PRICELESS~あるわけねぇだろ、んなもん!~』『HERO』『監察医 朝顔』『PICU 小児集中治療室』。