今回の実験では、細胞培養液中の生細胞の周りに光発熱集合を誘起するため、「プラズモニック超放射」を示す高密度に金ナノ粒子を固定したガラスボトムディッシュ(細胞培養用の小型容器)、または金薄膜をコーティングしたガラスボトムディッシュがターゲットとされた。そしてそれらに対し、生体にほとんど吸収されないことからダメージを与える心配のない波長である1064nmの赤外レーザー(出力100~400mW)が10倍対物レンズで100秒間集光。基板上の細胞から100μmほど離れた位置にある目的の生細胞付近に分子が濃縮された。

細胞内小器官であるミトコンドリアだけを染色する低分子「MitoTracker」を用いた実験では、従来の自然の細胞内導入では500nmol/L以上が必要であり、レーザー照射点から離れた場所での比較実験の結果から、100分の1に相当する5nmol/Lや1000分の1に相当する500p(ピコ)mol/Lのような低濃度では、ほとんど細胞内に入らずミトコンドリアを染色できていないことがわかった。その一方で、レーザー照射点付近での実験結果では、わずか1000分の1の濃度である500pmol/Lでも、光誘起バブル近傍の細胞内のミトコンドリアだけを選択的に染色できることが確認されたとする。

さらに、光誘導加速により従来法と比較して100分の1の濃度に相当する50nmol/LのR8-PADを用いてアポトーシスへの誘導に成功。非常に効率的で選択的な細胞内への取り込みと、狙ったがん細胞の破壊に成功したという。

研究チームは、細胞への取り込み・細胞膜への浸透・細胞質輸送を極低濃度の標的分子により効率的に行える革新的な技術を提供する今回の研究成果は、細胞への薬効評価の高効率化や副作用の低減などに関する新たな知見を与えるものだとする。

また、今回の研究成果により、高価な新薬の細胞試験における薬剤量を大幅に削減することで、低コスト化や創薬プロセスの加速にもつながることが期待されるという。たとえば、選択的な細胞機能制御や薬効評価、個々の細胞と薬剤の相性をハイスループット(自動的かつ高速に細胞への薬剤活性などを評価)で調べる手法の提供や、プレシジョン・メディスン(精密医療)やテーラーメイド医療など創薬・医療分野へのブレイクスルーを与え得るものとした。

なお現在、今回の研究成果の基礎部分の発明も特許査定を受けており、製薬メーカーなどとの産学連携での研究開発も進めていくとしている。