岸田政権と日銀が2%の物価上昇目標見直しを検討しているとの報道がありました。黒田総裁が10年近く進めてきた「量的・質的金融緩和」が修正され、利上げが行われるのではないかという見立てもありますが、これらがもし現実になった場合、住宅ローンの変動金利にどのような影響を与えるのでしょうか。
住宅ローン比較サービス「モゲチェック」の塩澤崇 取締役COOに聞きました。
■変動金利が低いのは、日銀がマイナス金利政策をとっているから
――そもそも、金融政策と住宅ローンの変動金利との間には、どのような関係があるのでしょうか?
変動金利は1年未満の短期金利と連動しています。短期金利は、日銀のマイナス金利政策によって-0.1%と非常に低い水準で抑えられているため、現在の変動金利は低いままです。
変動金利が上がるとしたら、それはマイナス金利政策の解除がきっかけとなるため、金融政策が注目されるのです。
――現状、変動金利はどのような状況になっていますか?
日銀のマイナス金利政策に加えて、変動金利が各金融機関の金利競争の主戦場となっているため、安定した低金利が続いています。
11月は新生銀行が、12月はPayPay銀行のほか楽天銀行も変動金利を引き下げており、変動金利の低さで顧客を引き付けようとする動きは引き続き活発です。ですので当面、安定した低金利は続くと見ています。
■万が一利上げしても、当面、変動金利は上がらない
――もし報道の内容が現実となり、物価上昇目標が修正されることになったら、住宅ローンの変動金利は上がりますか?
変動金利が上がるきっかけとなるのは、マイナス金利政策の解除、すなわち利上げの実施ですが、そもそも仮に物価上昇目標を修正したとしても、すぐに利上げとなるかはその修正内容次第です。
元々、2013年に政府と日銀が発表した共同声明では「物価が2%上昇するまで金融緩和を継続する」という目標を設定していましたが、現時点で物価は3%も上昇しています。
しかしながら金融緩和は継続方針のため、今回の目標修正では、改めてどういう状況になるまで金融緩和を続けるのか、再定義するのではないかと見ています。
なお、「賃金上昇を伴う物価上昇」が利上げの大原則なので、修正と言っても2%に幅を持たせたり、賃金上昇を政府側のコミットメントに入れたりする程度ではないでしょうか。
そのような修正であれば、現在の金融緩和政策への影響は軽微のため、変動金利は変わらないと考えられます。
また、想定外に日銀が利上げしたとしても、短期プライムレート(変動金利の基準金利)が上がるまではタイムラグがあるはずです。現在、短期金利は-0.1%ですが、0.5%程度にならないと短期プライムレートは上昇しないと考えています。差し引き0.6%のバッファがあるので、変動金利が本格的に上昇するまでは時間がかかります。
結果として、当面、変動金利は上がらないでしょう。
――当面、変動金利は上がらないとのことですが、万が一上昇したときに備えて今できることは?
変動金利が低いために浮いたお金は、その分浪費してもいいというわけではありません。ちゃんと貯めて、運用して、何か起きたときの備えにすべきです。
例えば元本3,500万円を住宅ローンで借りた場合、現在の水準で考えると、固定金利での毎月返済額は11万円、変動金利では9万円となります。その差額の2万円は最低限、貯金・運用に回した方がいいでしょう。