日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント’22』(毎週日曜24:55~)が、YouTubeで配信するコンテンツが好調だ。『Nドキュポケット』と題して過去の名作の短尺版を制作し、今年3月からYouTubeで配信をスタート。12月17日現在で119本を公開し、1,000万再生を超える動画も出てきている。
なぜ、ここまで爆発的な再生回数を記録しているのか。『Nドキュポケット』を立ち上げた今村忠プロデューサーに、話を聞いた――。
■若い世代にも刺さったことが自信に
『Nドキュポケット』がスタートしたきっかけは、番組50周年を記念して2020年2月に放送した3時間特番。この盛り上げ施策として、放送の2カ月前から過去の名作を3~5分の短尺版にして、日テレNEWS24の昼帯ニュース番組『The SOCIAL』で放送後、Facebookページで配信するという取り組みを行った。
計40本を配信すると、100万超の再生回数を記録する動画が続出したことから、「3時間特番が終わって、これで終わりにするのはもったいない」(今村P、以下同)と継続。ストックが増えるとともに再生回数をさらに積み重ね、「草野球に例えるならば、今まで市営球場でやってきて、ある程度成績が出てきたので、もっと大きな球場でやろうと」と、今年3月に『日テレNEWS』のYouTube公式チャンネルへ進出した。
ここでも好調で、今や『日テレNEWS』チャンネルの再生回数の稼ぎ頭に。生まれながらに高IgD症候群という難病と闘う男性の20年を追った『拝啓 連也様 ~マスク越しの闘病20年~』(福井放送制作)は、最多の1,127万再生にのぼり、3,300件以上のコメントが書き込まれている(※12月17日現在)。
動画を最後まで視聴する“完走率”も非常に高いそうで、「ネットの動画というのは、いわゆる衝撃映像みたいなものが好まれると思っていたのですが、ドキュメンタリーがこれだけ見られるというのは驚きました。しかも、F1(女性20~34歳)・M1(男性20~34歳)という若い世代にも刺さっているので、これはかなり自信になりました」と手応えを語る。
■再生回数を本編編成の参考にはしない
再生回数が多いジャンルは、難病や障害を抱えた人が懸命に生きる姿を追った感動系で、「報道の仕事を30年やっていますが、大変なことに向き合っている方の生活を見て、自分が今幸せであることを再確認するとか、同じような立場の人は共感するという形で、自分の生活に置き換えることで受け入れてもらえているところが大きいと思います」と分析。
また、“酒鬼薔薇聖斗”(神戸児童連続殺傷事件)など世の中を震撼させた事件や、いじめ・えん罪といった社会問題系も、「喜怒哀楽の中で怒りに近い題材は、よく見られます」という。配信するタイミングに工夫を凝らしており、「再審請求が棄却されたときに大崎事件を取り上げたものを出したり、熱海の土石流からちょうど1年経った日に配信したりすると、一気に何百万再生になって、時事のニュースは大きく影響します」と、その傾向を明かした。
ただ、再生回数が高いジャンルを本編のラインナップに参考することはせず、題材のバリエーションが制限されないようにしているという。
■“ライブラリーの肥やし”に命が吹き込まれる
『NNNドキュメント』は、日テレを含む系列局が制作しているが、各局の反応も上々。
「これだけの再生実績を作ったので、『うちの番組も“ポケット”でぜひ』という感じになってきています。『NNNドキュメント』は日曜の深夜なので、それまでは“報道の一部の人が頑張って作ってるな”みたいな感じだったそうなんですが、スマホで何百万再生もされてすぐ見られるので、『ポケットすごいね』と社内の共有言語になっているんです。各局でいい刺激剤になっているようで、うれしいですね」
長期間の密着で制作される場合が多いドキュメンタリー番組は、ドラマやバラエティに比べて費用対効果という点では効率が悪く、再放送やDVD化といった機会もほとんどないだけに、「放送が終わってライブラリーの肥やしになっていた番組に、また命が吹き込まれて、まさにワンソース・マルチユースのいいモデルケースになっていると思います」というメリットもあるそうだ。