医療ヒューマンドラマ金字塔『Dr.コトー診療所』(フジテレビ)が、16年ぶりに映画で復活した。これを記念して、撮影で実際に使用されたスタジオセットや小道具などの特別展示イベントが、横浜・放送ライブラリーで2023年1月29日まで開催されている(入場無料)。
離島医療に情熱をかけ、命の尊さに向き合う医師・五島健助(吉岡秀隆)の熱い闘いを描く作品を復活させるために欠かせない、職人たちのこだわりの仕事とは。今回の映画版から美術プロデューサーを務めるフジテレビの三竹寛典氏に、展示物の解説や裏話を聞いた――。
■図面、映像、記憶を頼りに…
展示室に堂々と鎮座するのは、「志木那島診療所」の入り口セット。2006年に連ドラ第2期が終了してからセットは保存されておらず、美術スタッフもほとんど入れ替わったため、「図面を引っ張り出して、映像を見て、当時のスタッフの記憶をたどって作っていきました」(三竹氏、以下同)といい、「若いスタッフは、前作を引き継いで遜色ないものを作るということにプレッシャーもあったと思います」と思いやる。
外観は、与那国島でドラマのために4,000万円かけて20年前に建築した診療所を使ってロケ撮影することが多いが、玄関でのシーンを外から撮るなどの場合に、このスタジオセットを使うことになる。そのため、ロケ撮影とセット撮影のカットのつながりに違和感が出ないよう、こだわって制作されている。
その具体例の1つが、建物の随所に配置されている沖縄独特の窓やブロック。東京で1から作ると質感など細かいディティールが出せないため、現地で生産されたものを船便で送り、セットに組み込んだ。
また、入り口前の石垣は、当初全て発泡スチロールで作ったが、カメラを通して見るとやはり違和感が出てしまうため、映り込む左半分は、本物の石を積み上げている。
診療所前の植物は造り物だが、星野家や茉莉子のスナックのセットにある本物の沖縄の植物は、関東の植木会社では所有していないため、これも現地の植木屋から調達して船便で輸送。「結構船に揺られてくるので、どれだけ枯れずに来るのか心配だったのですが、ほとんど無事に運ばれてホッとしました」と振り返る。
船便は天候不順で欠航することもあることから、「連ドラのときは、届くのがギリギリになってしまうこともあったそうで、今回はエラい早くに送ってました」と、教訓を生かしている。
診療所の屋上に掲げられている「ドクターコトー診療所」の旗は、2種類を用意。寄りの撮影用と、風でなびかせる用のより柔らかい素材で作ったものがあるのだが、今回の展示で2種類とも展示されているので、見比べて確かめてほしい。
この旗にデザインされているイラストは、前作から変化も。地元の子どもたちが描いたという設定で、年月を経て新たな旗に交換されたことになっているためだ。
■恒例のゴミ拾いが終わる頃にまさかの指摘
与那国島の「志木那島診療所」は、連ドラ終了後も観光地として愛されてきた。台風の多い地域だが、無事に残っていたのは、「診療所の裏に“水の神様”を祀る神社があるそうで、そのおかげという話もあります」と、スタッフたちの間で言われているのだそう。
診療所の前には美しい砂浜が広がっているが、あまり人が立ち入らない場所のため、海洋ごみや木の枝が溜まってしまうという。そこで、撮影が始まるときは、美術スタッフ・制作スタッフが横一列に並んでゴミ拾いをするのが恒例行事に。
今回の映画撮影にあたっても当然のように行ったが、ゴミ拾いが終わる頃に、別のスタッフから「あとでCGで消すから大丈夫です」と、まさかの指摘が。16年という年月の進化を感じさせるエピソードだ。
連ドラで美術進行を担当していた藤野栄治氏は、与那国島の人たちとどんどん仲良くなっていき、アドバイザーとして参加している今作のロケでは、その人脈で車を借りるなど、まるでコーディネーターのような役割も。前述した診療所の窓やブロックも、藤野氏のツテで手配できたそうで、現地の人々との信頼関係が作品づくりに大きく生かされてる。
■作品の世界観に浸れる会場
会場にはほかにも、出演者の衣装や小道具、歴代ドラマの台本、ポスター、そして貴重な図面などを展示。中島みゆきが歌う主題歌「銀の龍の背に乗って」や、サウンドトラックの音楽が常に流れており、作品の世界観に浸りながら楽しむことができる。
また、放送ライブラリーでは『Dr.コトー診療所』(03年)、『Dr.コトー診療所2004』、『Dr.コトー診療所2006』の中から9本を視聴フロアで公開するとともに、上映を実施。展示を見てから改めて作品を視聴することで、また新たな発見があるはずだ。